2019
08.26

【World MR News】Oculus Questを使用したアスレチックVR『PAC-MAN CHALLENGE』の制作事例【出張ヒストリア!】

World MR News

ヒストリアは、8月4日に日本工学院専門学校 蒲田キャンパスでUnreal Engine 4を使用したゲームの事例紹介勉強会「出張ヒストリア! ゲーム開発勉強会2019」を開催した。本稿ではその中から、セッション「”アスレチックVR PAC-MAN CHALLENGE(パックマンチャレンジ)”制作事例 ~Oculus Questを使用した我々の挑戦~」の模様をお届けする。

■『PAC-MAN CHALLENGE』は約8ヵ月で開発

▲写真左から、バンダイナムコアミューズメント プロデューサーの濵野孝正氏とヒストリア 代表取締役の佐々木瞬氏。

『MAZARIA』のオープンと共に導入された、VRアクティビティの『PAC-MAN CHALLENGE』。プレイフィールドは小学校の教室をひと回り小さくした程度(8×6メートル)で、体験は2名(1名でも可能)。VRゴーグルを装着し、左右の手にコントローラーを持ってプレイする。体験時間は約4分で、制限時間以内に5つのラウンドクリアを目指すというものだ。

こちらはコードレスのスタンドアロンVRの『Oculus Quest』を採用しており、ある程度自由に歩き回ることができるのが特徴だ。

ハードウェア構成は、サーバがUE4-PCで動いており、無線LANで『Oculus Quest』(UE4-Android)とOS間通信を行っている。体験するだけならばこれでいいのだが、さらに有線LANでデモ用クライアント(UE4-PC)に接続詞、外部モニターから見られるようにしたほか、外部スピーカーから音も出すようにしている。

▲検証環境には、ヒストリアの会議室が使用されている。それとは別にQAスペースと、自席の3つの環境を利用している。

『PAC-MAN CHALLENGE』は、メイズと呼ばれる迷路のようなステージを舞台にプレイする。ステージ中にあるパワークッキーを取ることでゴーストがイジケゴーストになり、追いかけられていたのが逆転して倒すことができると、ほぼオリジナルの『パックマン』と同様のゲーム内容となっている。

▲記事中に登場する主な『パックマン』の関連用語。

この『PAC-MAN CHALLENGE』は約8ヵ月で作られている。企画や体制作りが始まったのが、2018年12月。ひと月ほど検証を行い、その後プロトタイプ、本プロ、QA設置という流れで開発スケジュールが進められていった。最初から実機はなく、プロトタイプの途中あたりから導入されている。

■フィールドVRは身体が信じると気持ちも信じてしまう

フィールドVRは、広い空間を実際にある回ることができるVR体験であるため、そこそこ汗もかくが爽快感があり、また、筋肉痛になっても楽しさがある。気持ちとして感情が気付く前に体に感じさせることが大事で、体が信じるほど感情が信じ込んでいくというロジックになっていることがわかったと、濵野氏はいう。

そこで、「歩き回る」から「動き回る」体験にすることで、仮想現実から現実になると感じさせたいと考えた。そこで『パックマン』という題材を使用するにあたり、様々なアイデアを考えた。なかにはどろけいや2on2、ギミックを追加するといったようなものもあったという。

『パックマン』のコアな部分を考えると、「クッキーを食べる」「ゴーストから逃げる」「パワークッキーで形勢逆転」という3つの要素がある。全身を使ってそれを体験するには、どうすればいいか考えていった。

また、もうひとつのキーワードとして、複数人で楽しんでもらうというのがあった。空間内に人が居ることで、声を掛け合うことができる。そうして、ひとつの目的に向かってプレイすることで盛り上がることができる。

こうしたコンセプトをまとめると、難しいこと抜きで気の合う仲間と目的達成を目指して、夢中になって身体を動かすおもしろさを楽しめるフィールドVRアクティビティということになる。

動き回る体験は、スポーティな体験に近づいていく。実況による空間作りの工夫も入れることで、観る側も面白くなってくる。このように、空間をどう楽しませるかということに気をつかったという。

このような経緯をへて、最終的に「おもしろさは、汗に出る。」というキャッチコピーと「躍動感、スピード感」「デジタル世界にいる感覚」というトーン&マナーが決定されている。

■コンセプトを実現するための仕様と試行錯誤

続いてヒストリアの金山善春氏から、コンセプトを実現するための仕様と試行錯誤についての紹介が行われた。開発基本情報としては、『Oculus Quest』を使用したふたりプレイで、プレイエリアは8×6メートル。プレイ時間は約4分で、対象年齢7歳以上を想定している。

『Oculus Quest』の特徴は、コードレスのスタンドアロン型でヘッドマウントディスプレイとコントローラーの6DoFに対応している。その強みを活かすために、全身を身軽に使うための仕組みと、全身を使うことに拍車を掛ける要素を盛り込んでいる。

『PAC-MAN CHALLENGE』には、ゴーストに触れないようにクッキーを集めるという目的がある。そこから、クッキーを使い全身を使うように人を誘導するようにしている。

まずは、「停止クッキー」。これは空間に浮いて止まった状態のクッキーのことを指しており、モノを掴むように集めていく。クッキーを並べておくだけで、道標の役割になり歩きながら集めてくれるようになる。クッキーは高低差を付けることで、クッキーを掴む行動に動きが出る。

次に空間を常に移動するクッキーである「移動クッキー」を作成している。メイズの中をクッキーが動き回ることで、状態に変化を与えている。こちらは単にクッキーを掴みにくくするというだけではなく、プレイヤーの動きの幅を持たせるためにも導入されている。近くにあるクッキーが離れていけば追いかけて、近づいてくれば掴みに行くようになるのだ。

■全身を身軽に使えるようにするためのレベルデザイン

メイズのフィールドは十分な通路幅を確保して、行き止まりは作らないようにしてどこからでも全体が見渡せるようになっているということを意識することで、歩きやすさや視界の良さを優先して作られている。

メイズに穴を開けることで、プレイヤーはまたぎやジャンプをする。大きい穴に掴む目的のモノを配置すると、穴には入らずに身を乗り出して手を伸ばすようになる。壁に穴を作ると、しゃがんでのぞき込むほか、アーチを作るとかがんで移動するようになる。

全身を使うことに拍車を掛ける要素として用意されたのが、ゴーストと制限時間だ。ゴーストは、接触するとプレイヤーは一定時間クッキーが掴めなくなる。パワークッキーを取ることで形勢が逆転し撃退可能になる。

ゴーストが近づいてくると、プレイヤーは逃げる、避ける、振り向く、後退する、後ずさる、驚く、注視するといった行動をとる。パワークッキーを取るとゴーストが逃げ出すため、プレイヤーは追いかけたり先回りしたり、腕を振ったりする。このゴーストの存在は、クッキーを集める目的に加えて撃退する動きが追加されるため「、クッキーがない場所でも全身を使う要素になっているのだ。

また、『PAC-MAN CHALLENGE』には制限時間が設定されているが、この存在はプレイヤーに焦りを与えて急ぐ意識を生むという効果がある。

かなり動き回るアクティビティであるため、危険対策は欠かせない。まず考えられるのが、プレイヤー同士の接触だ。そこで、プレイヤー同士が近づいてから離れるまで警告表示を出し続けるようにしている。

表示と同時に警告ボイスも再生し、注意喚起を行っている。また、施設スタッフによる事前説明やプレイ中の警告も行っている。

クッキーを集めるのに夢中になりすぎて、走ってしまうプレイヤーも現れる。その対策のために、走っている状態が続くと警告を表示し、その警告が表示されている間はクッキーが掴めないようにしている。こちらも事前説明やプレイ中の警告を行うようにしている。

プレイ中に何か問題が発生したときは、一時停止機能で中断できるようにしている。こちらは、制限時間停止に加えて、ゲームが進行するものは非表示になる。その間に問題を解決した後、一時停止を解除することで中断したところから再スタートすることができる。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。