2019
07.22

【World MR News】むかわ竜がMRで蘇る――JTBが新千歳空港で訪日外国人旅行者向けのプログラムを実施した狙いとは?

World MR News

JTBは、5月25日から31日までの1週間、北海道の新千歳空港でMixed Reality(以下、MR)を活用した訪日外国人旅行者を北海道勇払群むかわ町に誘導することを目的としたイベントを開催した。

今回フィーチャーされたのは、2003年に化石が発見され2016年に『むかわ竜』と名付けられたハドロサウルス科※の恐竜だ。2017年に全身の骨格が再現されたが、今回はそれを元にCGで再現されたむかわ竜を、マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』を使って体験できるというものとなっていた。

※イベント時点での発表です。

■MRは地域のコンテンツの魅力を伝え、地域誘致においては有効なツールになりうると思います

このイベントが実施されるまでの経緯や苦労した点などの詳細を、JTB 訪日インバウンドビジネス推進部の新垣諒氏に伺うことができた。

▲JTB 訪日インバウンドビジネス推進部の新垣諒氏。

――まず、今回の企画の趣旨ときっかけを教えていただけますか?

新垣氏:『HoloLens』の存在を知り、マイクロソフトさんにこちら側から観光分野での活用が出来ないか問い合わせたのがきっかけとなります。当初は、『HoloLens』が観光分野で使われている事例もありませんでしたので、JTBとしては『HoloLens』のような新しい技術分野にチャンレンジすることでインバウンドのお客様に対して貢献したいと考えたのが始まりです。

動画サイトなども見て研究しながら、社内でひたすらブレストを繰り返していましたが、その度に出る案が、屋外で実施するようなアイデアばかりでした。MRの場合、日光の影響があり、屋外で実現するのが難しいのですが、技術的な分野については、マイクロソフトさんとポケット・クエリーズさんにお聞きしながら、徐々に自分たちの中で要件が固まってきました。この期間、だいたい半年ほど掛かっています。最初は、江戸城を再現しようとか池田屋事件を再現するなど、いろいろな案が出ていましたね(笑)。

――ブレストの時点では、かなりざっくばらんな案が沢山でていたんですね!

新垣氏:そうですね。アイデアとしては、いろいろなものが出ましたが、価値提供が難しかったのと技術的な制約があり実現できませんでした。最終的には、むかわ町の皆様と連携させて頂いている事業部より推薦があり、むかわ町に企画のご説明をしたところ、好意的な返事を頂き、実現に至りました。

▲こちらがむかわ竜の化石。全長は8メートルにもなるそうだが、図面内にある1メートルの表記からだいたいの大きさがわかるだろう。

――ちなみにVRでの取り組みの一例を教えて下さい。

新垣氏:訪日事業においては、スキーの疑似体験を出来る動画や、東京・京都で運行しているスカイホップバスの2階から見える風景の動画をVR動画として撮影し、海外の支店に置いて、お客様に体験頂けるようにしております。

▲会場では5台の『HoloLens』が用意されていた(同時に体験できるのは4名)。空港内のイベント会場は天井前面がガラス張りとなっており、太陽の光が射す環境になっていた。そこで、カーフィルムを加工したものを取り付け、透過率の調整が行われていた。

▲家族連れも多く体験していた。

――むかわ竜をMRで再現するにあたって、どのようなリサーチが行われましたか?

 新垣氏:むかわ町公認のCGを作っていらっしゃる方にご協力をいただいき、そのCGをMRコンテンツでも最大限活用させていただきました。

――実際に今回新千歳空港で実践してみて、反省点などはございましたか?

新垣氏:三方向に壁を作っていましたが、お客様からどのような体験を実施しているのか分かりにくくなってしまった点が反省点です。実際に近くで体験している人の姿を見ると、「何をやっているんだろう?」と気に留めていただくのですが、それが、VRなのかMRなのか、詳しくない人にとっては区別がつきません。周囲から見て、MRという新しい体験をしているという認識を得られるような演出や配慮が必要だったと感じています。

――完成したMRのむかわ竜を見たときの感想はどうでした?

新垣氏:開発の途中段階でも何度か見させていただきましたが、最初の頃はコンテンツとして認識しづらい部分と感じる部分がありました。最終的に、3頭のむかわ竜がそれぞれ違う中心点でブースの回りをぐるぐる周回するように調整してもらったことによって、むかわ竜の存在がかなりリアルに感じられるようになりました。現実の世界に仮想のCGを載せるMRにおいて、いかに現実に近い形でお見せ出来るか工夫する事が重要だと感じました。

――現地でコンテンツの体験者にアンケートを取られていましたが、どのような結果が出ましたか?

 新垣氏:外国人のお客様が190名ぐらいでしたが、そのうちの88パーセントほどが「非常に満足」または「満足」を選んでいただきました。また、第三者への推奨意向も80パーセント前後という結果が出ています。

誘客に関しては設問を、むかわ町を知ってたかどうか、MRを体験し行ってみたいと思ったかどうかの4択で実施しています。むかわ町自体の知名度はそれほど高くないため、151名の方は存在を知りませんでした。しかし、そのうちの134名は知らなかったけど行ってみたいと回答しています。知らない人が多かったですが、これをきっかけに知っていただいたと思います。

事前アンケートが1分、MR体験が5分、事後アンケートが2分の、およそ7~10分ほどで体験が行えるようになっていた。

――JTBとして考えている今後のビジョンや展開について教えてください。

新垣氏:今回実施したイベントでも、元々その土地を知らなかったという人の90パーセント近くが行ってみたいという訪問意向を示していたので、地域誘致においては有効なツールになりうるという結論に至りました。

そうしたこともあり、将来的には全国の訪日外国人誘致を推し進めている自治体とも連携しながら、その地域ならではの素材を活かしたコンテンツを使い、それを目的に観光客に訪れてもらうよう誘致に貢献していきたいと考えています。

 ――ありがとうございました。

▲むかわ町から提供してもらった、むかわ竜の紹介動画も会場内で流されていた。

今回現地での取材は、イベント最終日前日の5月30日に行ったのだが、15時までの間に約100名がむかわ竜のMRを体験。初日からこの日までのインバウンド率も25パーセントと、想像以上に体験者が多かったことがわかった。

筆者が見ているときも、親子連れの外国人家族が列をなして並んでおり、初めてのMR体験を楽しんでいる様子が見られた。リアルな世界に突然恐竜が目の前に迫り、手を伸ばしたり上に見上げたりするなどしながら、そのサイズ感と迫力に驚いているようだった。特に外国の方はリアクションも素直な感じで、若いふたり組の女性客はかなりオーバーアクションで体験していた。

また、この日はたまたま北海道テレビの取材陣も訪れていたのだが、小川知美記者もコンテンツを体験したり、体験者にインタビューを行っていたりする様子が見られた。

参考リンク「北海道テレビ放送 イチオシ!」:

▲MR体験をする北海道テレビの小川知美記者。

むかわ竜の全身実物化石は、7月13日から10月14日までの期間、東京・上野の国立科学博物館で行われる「恐竜博2019」にも展示される。東京はもちろんのこと、地元のむかわ町以外では初公開ということで、こちらのイベントも注目だ。

■イベント概要

イベント名:特別展「恐竜博2019」

開催期間:2019年7月13日(土) ~ 2019年10月14日(月・祝)

公式サイト:https://dino2019.jp/

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。