2019
02.20

【World MR News】IMAGICA Lab.、ハコスコの地域のVR活用事例――「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」レポート④

World MR News

経済産業省・映像産業振興機構は、VR/ARコンテンツの活用や産業間での新規事業マッチングを促進する目的のセミナー「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」を、2月7日にさいたま新都心合同庁舎1号館 1号館講堂で開催した。

本稿では2部に開催された「地域における先進コンテンツ技術活用事例」の中から、IMAGICA Lab. 映像事業本部 リンクス部 VRスーパーバイザー 大澤宏二郎氏によるセッション「最高品位のVR作品の作り方 ~8K実写とリアルタイムCGによるインタラクティブコンテンツ~」と、ハコスコ 代表取締役社長 藤井直敬氏によるセッション「VR映像を使ったデジタル・アーカイブ及び観光誘致コンテンツの作り方」をレポートする。

■IMAGICA Lab.「最高品位のVR作品の作り方 ~8K実写とリアルタイムCGによるインタラクティブコンテンツ~」

1935年に、フィルム現像を行う日本初の商業ラボとしてスタートしたIMAGICA Lab.。現在は、映画、テレビ番組、CM、PRなどポストプロダクションを幅広く手がけている。2016年にはイマーシブ・メディア・ラボを立ち上げ、没入感を追求する最先端映像技術のリサーチとサービス化を行っている。

IMAGICA Lab.の大澤宏二郎氏。

同社では最高品位の実写VRを作ることを目的として、その一環として『三宅島VR』を制作している。これは、伊豆諸島にある三宅島が、観光名所を綺麗な映像で見られるといったコンテンツで、そこに行きたくなるような作品として作られたものだ。

こちらの規格のポイントは、VR酔い対策などのガイドラインを踏まえたうえで、現状で考えられる最高品質の360度映像制作に挑戦しているところである。映像は、8Kのスティッチング全方位立体映像で作られており、そこに空間音響が加えられている。

また、メニュー画面もリアルタイムCGで作成。インタラクティブ要素も追加されている。三宅島のCGを自由に動き回り、地名が表示されるところを選択するとその映像が見られるといった感じだ。 

企画・演出のポイントとして重要となるのが、「リアル感のある仮想体験」だと大澤氏はいう。実写VRの場合、画面の解像度が低いと没入することができない。また、解像度が高いほうがいい理由は他にもある。実際のVRゴーグルなどで見られる映像は、撮影した映像のごく一部に限られてしまう。そのため、見ている映像の解像度は元のものより小さくなってしまうのだ。そこで、同社では全編8Kで撮影を行っている。

▲VRゴーグルで観られる映像の視野は青く囲まれた部分のみだ。そのため、高解像度にする必要がある。

こうした映像の撮影に、日本で初導入されたシネマティックVRカメラ『Jaunt ONE』が採用されている。24個のカメラが本体に搭載されており、広角レンズでゆがみのない映像を撮影することができる。ダイナミックレンジも最大18stopで、ハイライトが白く飛ばず暗部も黒く潰れないという特徴がある。

こうした360度の実写VRで注意しなければならいのが、スティッチングだ。失敗するとと画面に切れ目が出来てしまい、素人目にもわかってしまう。

映像だけではなく音声もこだわっており、こちらは空間音響という技術が採用されている。カメラの三脚の下にマイクを置いて収録しており、どこから音が鳴っているのか位置がわかるようにしている。

これを通常のステレオで作ってしまうと、左右のどちらかしか判断できなくなる。これでは音の位置が把握できないため、こうした技術が採用されているのだ。

この『三宅島VR』が作られた目的は、VRコンテンツを制作・活用することで、三宅島の隠れた魅力を再発見して、島内の活性化と観光産業振興を図っていくためだ。イベント会場で視聴体験会を実施。言葉やパンフレット写真では表現しにくい、没入感や臨場感を再現することができた。

また、実際に観光に訪れても天候不順などで観光スポット巡りができない場合がある。そうしたときに、疑似体験プログラムとしても活用することができる。今年度は、水中での撮影なども行い、コンテンツを充実させていく予定だ。

■ハコスコ「VR映像を使ったデジタル・アーカイブ及び観光誘致コンテンツの作り方」

ハコスコの藤井直敬氏からは、昨年度経産省から依頼があった「先進コンテンツ技術により地域活性化促進事業」の『長崎教会群VR』と、文化庁から依頼のあった「文化財多言語解説設備事業費補助金」で現在制作中の『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』多言語VRコンテンツの紹介が行われた。

これらは、いずれも昨年世界遺産に認定された、長崎の教会群をVRコンテンツ化したものである。

ハコスコの藤井直敬氏。

教会をVRコンテンツ化する場合、お金をかければいくらでも作ることができる。建物ひとつひとつを計測して作るなど、様々な手段がある。しかし、最近はフォトグラメトリーという技術を活用することで、比較的簡易に建物などの計測とモデル化が行えるようになった。

同社では、このようなコンテンツを制作する場合、建物のまわりにドローンを飛ばす。ドローンに搭載されている通常のカメラを使って、建物をあらゆる角度からくまなく撮影していく。たとえば教会のモデルを作ろうとした場合、概ね3000~4000枚ほどの写真を撮影するという。

この手法の優れたところは、ありものの機材でできるところだ。ドローンを入手してフォトグラメトリーのソフトに撮影したデータを入れることで、簡単に作ることができるのである。

外観と異なり、教会の内部はドローンを飛ばすことができない。そこで、現状は360度カメラを使用して撮影を行っている。IMAGICA Lab. の例でも触れられていたように、最先端の8Kの3Dデータとして記録しているという。

教会の内部は動くものがないため、静止画でも問題はない。また、8Kの3Dデータならば、スマートフォンで観ることができるというメリットもある。動画でやろうとすると、いろいろと無理が出てくるが、クォリティを求めるのであれば静止画のほうがよいということから、この手法が採用されているという。

コンテンツ内部には3メートルおきほどにポイントを置いて、自由に見られるようになっている。同社には、自由にVRコンテンツ内を歩き回れるコンテンツを配信するためのプラットフォームを持っている。外からの映像はCGで、内部は静止画でコンテンツを作り、それを組み合わせて『バーチャルツアー』のパッケージを作っているのだ。今年度はそちらに、日本語と英語と中国語に対応した多言語のナレーションが追加される予定である。

ドローンで撮影したデータから外観をモデル化している。建物だけではなく、回りの環境もそのままCG化しているため、取り壊し中の小学校もデータとしてアーカイブされている。

  • 長崎教会群VR

https://store.hacosco.com/movies/3e1daf09-d8f2-4468-ba14-c3d9141baca7

内部は高精細な静止画を360度で見られるようになっている。

こうしたコンテンツは、作ることが目的になってしまい、「誰が見るのか?」という部分がないがしろされることが多い。しかし同社は、コンテンツ制作のノウハウと配信プラットフォーム、それを見るためのビューワーやアプリなど、VRに必要な全ての要素を持っていると藤井氏はいう。

多くの人が所有しているスマートフォンで観られることを大前提にしており、その上でハイエンドの端末でも観られるようにしているのである。また、企業や団体のページでもVRコンテンツを観てもらうことができるので、コンテンツを作っても無駄にならないのだ。

作ったコンテンツを手軽に楽しめるところも、ハコスコのウリだ。

また、VRの課題のひとつに、ひとりで観るコンテンツになってしまうという点が上げられる。VRゴーグルを付けている人だけが観られるため、みんなで楽しむことができないといわけだ。そこで、同社から先月リリースされたのが、『ハコスコナビ』だ。こちらは、離れた場所にいる人たちが同じコンテンツを同時に体験しつつ、どこを見ているかもわかり、会話もできるというものである。

『ハコスコナビ』は、ハイエンドやミドルクラスのVRゴーグルのほか、スマートフォンやタブレットでも観られるようになっている。利用方法もシンプルで、URLを共有するだけで特別なアプリも不要で使用することができる。

藤井氏は、「コンテンツをいかに多くの人に届けて、それをいかにみんなで楽しむかといったソーシャルな要素が必要となってくる」と、その重要性を語っていた。多人数で同時に体験可能なVRコンテンツの用途としては、観光案内や教育、介護などがあるという。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。