2019
02.20

【World MR News】凸版印刷、ロントラの地域におけるVR活用事例――「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」レポート③

World MR News

経済産業省・映像産業振興機構は、VR/ARコンテンツの活用や産業間での新規事業マッチングを促進する目的のセミナー「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」を、2月7日にさいたま新都心合同庁舎1号館 1号館講堂で開催した。

本稿では、2部に開催された「地域における先進コンテンツ技術活用事例」の中から、凸版印刷 東日本事業本部 東日本TIC部 販促部長 早坂伸一氏によるセッション「VRを活用する文化財の観光資源化と取り組み紹介」と、ロントラ代表取締役 西村佳之/プロデューサー 芦澤洋介氏によるセッション「静岡県 全国初!VRxSNSによるUIターン潜在層の母数形成」をレポートする。

■凸版印刷「VRを活用する文化財の観光資源化と取り組み紹介」

1997年から20年以上もVRコンテンツ事業を行ってきた、凸版印刷。前回の東京オリンピックは1964年に行われたが、その時のポスターは、同社が日本初のグラビア印刷で制作している。

凸版印刷の早坂伸一氏。

この東京オリンピックのポスターは、横728mm×縦1030mm、いわゆるB全サイズという大きさで作られたものだ。こうしたポスターの画像は、0.7GBと概ね1GB以下の容量となっている。つまり、このように大きな画像データを数十年前から取り扱ってきたのは、印刷業界ぐらいなのである。

同社では、様々な文化財に関するコンテンツも作成しており、特別な許可を出してもらって阿修羅像を一眼レフカメラで撮影している。早坂氏によると、これが色を中心にVR作品を作って行く元となっているのだという。

こうした撮影を行うときに、一番気にしたポイントがカメラ側で色をいじらないということだったそうだ。あるものを中立に撮影し、中立にアウトプットすることがVRの根源になっているのだ。

東京国立博物館と共同で取り組んだ、『「洛中洛外図屏風(舟木本)」高品位複製』では、高精細のデジタルアーカイブを作成。VR作品以外に原寸大のものを再現し販売している。価格は300万円と高価だったが、2点が売れたそうだ。それだけ現物に近いものを再現出来た証ともいえる。

また、こうした撮影技術や色合わせ技術が、同社のVR作品にも活かされている。

VRの「Virtual」は、「Virtue」の形容詞だ。Virtueには、徳や美徳、善行という意味がある。そして、その原義に遡ると「その物をその物として在らしめる本来的な力」という意味を持っている。

そうしたことから、同社では日本のお城などの文化遺産をデジタル化し、それをVR化する事業をスタートしている。扱っているのはお城だけではなく、銀行の古い建物や街並みなど多岐にわたり、すでに100以上の実績があるという。この活動では「デジタルアーカイブ」として文化財をデジタル化することで、しっかりと残していくということを目指している。

記録した高精細なデジタルアーカイブは、学術的研究や後世へ残すためのメッセージという利用方法のほか、観光や集客・PRといったものまで、アウトプットの手法が増えてきたという。同社はVRシアターという施設を持っており、こちらで作品上映が行われている。こちらは国物博物館にも提供されており、体感性のあるコンテンツが楽しめるようになっている。 

こうした室内のコンテンツとは別に、VRで史跡を巡る『ストリートミュージアム』という試みも行われている。こちらは、タブレットやスマートフォンと連動して、その現地に行かないと見ることができないコンテンツになっている。

日本の歴史を軸に旅をするという感じになっており、GPSでその場所に来たことを判定し、今はすでになくなってしまった過去の建物の姿が見られるようになっている。この『ストリートミュージアム』は、2018年11月時点で19史跡が掲載されている。

同社では、他にも様々な企業とタイアップを行っている。KNT-CTホールディングスとは、VR×ウェアラブル端末により観光ツアー『富岡製糸場CGガイドツアー』を実施。タクシー会社の日の丸リムジンとは、自動車の中でVRの解説を見ながら、現在と江戸時代を同時に観光できる『タイムスリップタクシー』というユニークな企画を実施している。

最後に早坂氏は、「今後もこのように、同社の事業をベースにしながら、様々な企業と一緒に作って行きたいと」と抱負を語り、セッションを締めくくっていた。

■ロントラ「静岡県 全国初!VRxSNSによるUIターン潜在層の母数形成」

テレビ番組の制作などを行っている映像企画・制作会社のロントラ。2年ほど前からVR事業もスタートしている。同社が携わったのが、VRを活用した静岡県のPRだ。静岡県は、2年ほど前に人口流出で全国ワースト2位という不名誉な結果を出してしまった。そうした経緯から、UIターンの促進事業の広告を同社が担当することになったという。

ロントラの西村佳之氏。

この静岡県の例では、30歳前後の首都圏在住者にUIターンを促したいというのが目的だ。しかし、静岡を出て行った若者の足跡をたどることは困難で、アプローチする手段がないという課題があった。そこで同社が考えたのは、SNS上に独自のメディアを起ち上げて、静岡県の情報発信が行える場を作り上げるということだった。このSNSでUIターンの潜在層の母数を形成していき、母数に対してセミナーを案内。そこで興味を持ってもらい、UIターンに繋げるようにしたのだ。

しかし、若者たちは行政職の強い情報をあまり見てくれなかったという。そこで、コミュニケーションをアピールするツールとして採用されたのが、VR動画だった。それでは、なぜVR動画が選ばれたのだろうか?

米国フォレスターリサーチの調査で、動画コンテンツのほうが記事コンテンツと比較して、検索上位に出やすいということがわかった。たとえば、「静岡県 移住」というテーマでGoogle検索すると、同じ内容でも記事コンテンツよりも動画コンテンツのほうが53倍上位に上がりやすいということがわかったのだ。

通常のYouTube広告は、5秒間表示されるとスキップボタンが表示される。しかし、それがVRの360度動画の場合、30秒以上も見続けた人が45パーセントもいた。スマートフォンでこうした動画を見ると、360度回転させながら見られるため、目新しさや面白さがあったのも理由のひとつかもしれない。いずれにせよ、そうした離脱率の低さからVR動画が選ばれることになった。

360度のVR動画はYouTubeだけではなく、フェイスブックも対応している。また、SNSの素晴らしいところは、ターゲティング広告もできるというところだ。20~30代で首都圏に住んでおり、静岡県にゆかりがある人にターゲットを絞って広告が打てるので、広告費も効率的に使うことができるのである。 

スマホに最適化した短縮VRを採用

続いて、ロントラの芦澤洋介氏より具体的なコンテンツの紹介が行われた。『そうだ。静岡出身者で集まろう!』の投稿は、番組とCMで構成されている。ターゲットが20代前半から30代前半ということから、スマートフォンに最適化された数十秒のVR動画で作られている。

ロントラの芦澤洋介氏。

こちらでは、「静岡あるある」や「静岡クイズ」など、思わず話したくなるような情報やVRならではの表現が採用されている。たとえば、双子の著作権フリーアイドルを採用したコンテンツでは、面で問題を出題し、その裏側で答えが見られるといった工夫がされているのだ。

こうしたSNSで投稿されたVR動画は、セミナーでも活用されている。移住セミナーや就職セミナーで、VRゴーグルを使用して静岡県のアピールをしたところ、マスメディアでも取り上げられ予想以上効果があったそうだ。

ちなみに、現在各SNSのフォロワー数の合計は8000人以上となっている。こうしたことからも、VRとUIターン促進との相性は、非常に良いことがわかったという。

■そうだ。静岡出身者で集まろう!(YouTubeチャンネル)

https://www.youtube.com/channel/UCX2qbRl5MxppAcfhpOKdgXg

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。