2019
02.18

【World MR News】VRコンテンツを作るときに気にしなければいけないポイントは?――「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」レポート②

World MR News

2月7日に開催された、VR系セミナー「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」。本稿ではその中から、Mogura代表取締役社長 久保田瞬氏によるセッション「VR・AR等コンテンツ制作ガイドラインの紹介」の模様をレポートする。

VR系メディア『Mogura VR』の編集長でもある久保田瞬氏。

VRは体験そのものを作っていく必要がある

VRというと、真っ先に思い浮かぶのがゴーグルタイプのものだろう。これは携帯電話の歴史に例えると、大きなショルダーフォンと同じといえる段階かもしれない。たしかに発売された当初は画期的ではあったが、主流にはならなかった。それが現在はスマートフォンとなり、電話以外にも様々な機能が盛り込まれ、誰もが使えるものに進化している。

こうしたことから、ショルダーフォンが出現して3年ほどたった状態に近いのが、現在のVRだと久保田氏はいう。最新技術というイメージがあるVRも、いろんなことができるのかというと、まだそこまでの状況ではないのだ。

VRやARが日常的に使われていくようになると、我々の生活や仕事、社会も変わっていく。フェイスブックは10億人にVRを広めることをゴールにしているが、まだ1000~2000万台ほどにとどまっている。

スマートフォンとVRの大きな違いは、空間に様々なものを作っていくコンテンツであるため、360度見渡せる状態のものにする必要があるところだ。手元で操作したり、画面の中にあるものを作ったりするのではなく、体験そのものを作って行かなくてはならないのである。

また、普通のゲームを単にVRに置き換えただけでは面白くならない。ひどいときは、VR酔いなど気持ち悪くなってしまう場合もある。どうすれば面白いVRコンテンツが作れるのか? あるいは、ビジネスで使っていくにはどうすればいいのか? こうした、VRに関する作り方や使い方は、世界中で試行錯誤が続いている段階である。

早くからVRに取り組んでいる企業は、5~6年目になる。試行錯誤中とはいえ、ある程度のノウハウを蓄積している。そのため、そうした先行者の知見から学ぶ必要がある。また、VRは動きの速い業界でもあるため、毎月のように新しい事例やデバイスの情報が登場する。そうしたものを知ることも重要なのである。

こうしたVRコンテンツを制作するときの水先案内として作られたガイドラインが、『VR等のコンテンツ制作技術活用ガイドライン2018』である。これは、これからVRやARのコンテンツを作ったり、制作会社に発注したりする人たちのガイドブックになるように作られたものだ。

内容は大きく分けてふたつのパートからなっており、VRの特徴から事前に知っておきたいこと、VRの良さを引き出すにはどうすればよいかといった部分に着目して作られている。

■『VR等のコンテンツ制作技術活用ガイドライン2018』等のダウンロード先URL

先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業

VRで重要なのは没入感よりもそれで何が出来るのかというところ

VRの特徴については、ガイドラインでは3つにわけて紹介されている。ひとつ目は、見るとか聞くだけではなく、体験そのものだ。体験を重ねることで、自分のこととして身につけていくことができる。ふたつ目は、心を揺さぶられる体験だ。VRでは、「没入感」という表現が使われることが多い。しかし、それより大事なことは「それで何が出来るのか」というところだ。また、物理的に出来ないことや難しいこと、圧倒的にコストが掛かってしまうようなことも、VRならば低コストで実現できるというのも特徴のひとつである。

VRを体験するために、各社から発売されているのが様々なタイプのVRゴーグルだ。こちらも大きく分けると3種類に分けることができる。スマートフォンをはめ込むだけで簡単に利用できるものから、制限はあるもののハイエンドに近いミドルレンジのタイプや、PCやPS4といったハードウェアの追加デバイスとして利用する、ハイエンドのものといったものがある。

中でもミドルレンジのデバイスは、『Oculus Go』など単体で利用できるモデルが増えてきているほか、価格帯も2~5万円程度といったお手頃な値段で登場してきている。

ARはこれから拡がっていく領域

公開されたガイドラインでは、ARは少し触れられている程度だ。こちらはこれから拡がっていく領域であるため、制作については詳しくは書かれていない。しかし、これから登場するARの特徴については一部紹介されている。

ARは、現実に重ね合わせていく技術である。この重ね方が進化していき、現実になじんでいくという感じだ。たとえばiPadで見られるARコンテンツでは、現実世界の机の上にあたかもそこに花瓶があるかのように表示することができる。この花瓶にはうっすら影が出来ているが、これはその奥にあるランプが影響しているからだ。こうしたものは、自分が動き回って位置を合わせるような必要はなく、勝手に置かれているものが見られるようになっている。

このように、現実になじむARがどんどん登場してきているが、それを身近に体現できるのがスマートフォンやタブレットだ。また、すでに存在はしているがウェアラブルのARグラスも、今年の終わりから来年にかけて複数登場するといわれている。

産業利用でも関心が高まっているVR・AR

昨年発表されたレポートでは、研修やトレーニング、顧客への商品説明やプレゼンテーションなどに、VRを活用したいと考えている企業が多いことがわかった。2~3年前までは、プロモーションでの利用が圧倒的であったため、こうした状況が大きく変わってきているのだ。

2017年までは、調査や実験で導入するところが多かったのが、2018年後半には本格的に導入する企業や、実証実験の効果を発表するところが増えてきた。これは、先行して取り組んでいた企業が実績を出し始めて、本格導入をし始めたというフェーズに入ったということである。

デバイス自体の値段も下がってきており、より高性能になってきた。ビジネス領域でも、医療、不動産、建築、自動車、製造業などの分野が伸びている。こうした分野では、具体的にどのように使われているかというと、トレーニングやシミュレーション、遠隔コミュニケーションや購入前のシミュレーションなどだ。

一方、エンターテイメントの分野は、まだまだデバイスが普及していないというのが現状だ。しかし、各地にVRの体験施設が増えてきたほか、VTuberなど日本独自の存在も話題となっている。デバイスの価格が下がってきて、そこに魅力的なコンテンツが乗っかってくることで、その規模も大きくなっていくのだ。 

VRを作る前に抑えておきたいこと

VRを作るときに、まず考えるべきところは、そのコンテンツが実写で作るのかCGで作るのかというところだ。同じVRコンテンツでも、このふたつはまったく作り方が異なるものである。実写ならばカメラで撮影し、CGならばその世界を作って行く必要があるのだ。こうしたものは、企画の段階で決めていく必要がある。

CGの場合、そのバーチャルな世界で様々なものに干渉することができる。歩き回ることもできれば、干渉することも可能だ。しかし、実写では少し工夫が必要となる。VRの中でどういうことをさせたいのかということを判断して、実写かCGかを選んでいくことになるのである。

VRでも重要なのは、やはり企画だ。そもそも、なんでVRでなければいけないのかということも考える必要がある。また、どんなところでどんな人に体験してもらうのかといった、事前の想定もしておくことが大事だ。

実際にVRコンテンツを制作する場合、特にCGでは分業で作業を行うケースが多い。それを後から合わせてみると、うまくいかないことがある。VRは体験を作ることが重要で、ただ絵を作るという作業とは大きく異なるというのが理由だ。実際に体験してみて、はじめてそれがいいものかどうかがわかるのである。そのため、作業の途中で体験する工程を、ワークフローの中に入れておく必要がある。

実写系のVRコンテンツ制作では、様々な機材が登場してきてはいるものの、これだけを使えばよいといえるものはまだ登場していない。360度撮影可能なカメラを使った方がいいのか、あるいは前方の180度だけが撮れるカメラの方がいいのかといったことを、いろいろと詰めていきながら作っていく必要があるのだ。

こうして完成したVRコンテンツの流通販売形態には、まず一般配信がある。こちらはやりやすいようで、意外とハードルが高いという。また、施設や場所に固定して体験してもらう、ロケーションベースというものもある。この場合、人が付きっきりになるため、コストが掛かってしまうという問題がある。お金がかけられない場合は、無人でもできるように考えておかなければならないのだ。

VRコンテンツを制作するときの課題とは

VRコンテンツには、いくつかの課題もある。そのうちのひとつが、「VR酔い」だ。これは車酔いなどと似ており、頭痛や吐き気などを催し気分が悪くなる症状のことを指している。その原因は、感覚不一致説などが理由といわれている。

VRの世界で移動していたとしても、実際はその場からまったく動いていないということがよくある。その感覚のずれが、酔いが引き起こしてしまうのだ。プロモーションなどでVRを活用するときに、体験者が酔ってしまうと逆に悪印象として残ってしまう。そうしたことを避けるためにも、VR酔いしない対策をしておくことが必要となるのだ。

VR酔いの対策には、大きく分けてふたつの手段がある。ひとつは、フレームレートを安定させることだ。CGなどの処理が重くなると、フレームレートが低下し動きとのずれが起きてしまう。そして、それが酔いにも繋がってしまうのだ。

もうひとつは、VRコンテンツ内での移動方法の考慮である。なるべくVR内で自分が操るキャラクターなどが歩き回らないようにワープさせたり、どうしても移動が必要な場合は必ず一定方向に同じ速度で動かしたりするなど、いくつか工夫をする必要がある。

実写系VRコンテンツでは、手ぶれなどもVR酔いに大きく影響してしまう。たとえば手ぶれ補正などの機能を活用することで、画面の揺れを軽減するなどの対策をしておいたほうがよい。

VRのポジティブな面としては、やはり没入感と実在感の向上があげられる。没入感とは、自分がその仮想世界に入り込んだかのような体験ができるというものだ。実在感も似ているが、こちらは自分がまるでその世界に存在しているかのように感じてしまう感覚のことを指している。

こうした没入感や実在感を向上させるために、ストーリーに没入させるなど、体験者が違和感なくその世界に入り込めるような気を遣いながらコンテンツを作っていくことが大事だ。

ガイドではそのほか、コンテンツ制作のポイントや展示の心がけ、デバイスの年齢制限、文化財関連のVR・ARコンテンツなどについても触れられている。これからVRコンテンツ制作を考えている人や企業は、まずは1度目を通しておいた方がいいだろう。 

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。