01.24
【World MR News】三上智子氏&高橋忍氏が『HoloLens』の1年間を振り返る――「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.13」レポート①
マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』が、日本で発売が開始されてからちょうど2年となる1月18日に、それを記念したイベント「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.13 日本上陸2周年記念!」が、品川の日本マイクロソフト本社セミナールームで開催された。
本稿ではその中から、第2部に開催された日本マイクロソフト株式会社の三上智子氏と高橋忍氏によるキーノートをレポートする。
三上智子氏による「1年間の振り返りと今後について♪」
1周年記念の前回は、秋葉原でイベントが開催された。そのときに、世界で一番『HoloLens』を被った人たちが集まった写真を撮ろうということで、多くの参加者が持参し記念撮影が行われている。また、この当時はVRデバイスも登場し、『HoloLens』と合わせて出揃ってきた時期でもあった。
両手ジェスチャーが使用できるようになって使いやすくなり、日本語の対応も実現している。それまでは「Select」と英語で発声する必要があったのだが、日本語対応の力強さを実感できた部分かもしれない。
また、ビジネスアプリケーションも充実してきた1年で、マイクロソフトからも『Remote Assist』や『Layout』といったMRビジネスアプリケーションの提供が開始されている。企業での活用検討も進み、トヨタなど大手企業が採用さいたことが世界のニュースとしても話題となった年でもあった。
5月には、「de:code 2018」でMicrosoft CorporationのMixed Reality Studiosのジェネラルマネージャーを務めるロレイン・バーディーン氏が来日。同氏は本社で様々なビジネスアプリケーションを作っているが、複数の日本の企業にも訪問している。その中で実際の使用事例をヒアリングし、同氏たちのチームが製品に反映させている。
また、JRCSが地上にいるなら会場の船舶を操れる操船ソリューションを開発し、『HoloLens』が海にも進出。さらに、昨年末にはJAXAでも活用され、宇宙にまでその活用範囲が拡がっている。
エンターテイメント分野やメディアでも『HoloLens』に注目が集まる
ビジネス面だけではなく、この1年間でエンターテイメント方面での活用も盛んになっている。博報堂と博報堂プロダクツ、建仁寺の共同プロジェクトで国宝「風神雷神図屏風」をMRならではの表現で楽しめるコンテンツが登場。こちらには、ホログラムでお坊さんが登場するのだが、コンテンツを体験した年配の人たちはそのホログラムに向かって拝んでいたというシーンもあったそうだ。
また、日比谷ビルの合間に巨大なゴジラが出現する野外アトラクション「ゴジラ・ナイト」も5月に開催されている。コンテンツ的にはゴジラが撃退できないようになっているため、参加者から「グッドシナリオはないのですか?」という質問もあったそうだ。こちらはAzureとも連携させており、Mixed RealityとAzureの両方を活用した素晴らしい事例としても紹介された。
さらに、各種メディアでも『HoloLens』が数多く取り上げられている。こちらは、実際に使用事例を交えた紹介が行われた。中でも3.11の東日本大震災で被害にあった旧陸中山田駅を再現し、『HoloLens』で見られるようにしたというコンテンツも登場している。
Microsoft Mixed Reality パートナープログラム 認定パートナーも、この1年で9社から24社にまで成長。単純にパートナーの数だけ増えただけではなく、実際の使用事例も多く発表されている。さらにリセラー・レンタルプログラムもスタート。これによりMicrosoftストア以外からも『HoloLens』を入手できるようになったのだが……残念ながら、現在は品切れの状態となっているそうだ。
最後に三上氏からスペシャルゲストとして紹介されたのは、なんと『HoloLens』の生みの親であるアレックス・キップマン氏だ。といっても実際に登場したわけではなく、なんとホログラムのムービーとして登場。「日本のみなさん、日本のデベロッパーのみなさん、ありがとう。君たちのパッションとフィードバックをありがとう。」というようなメッセージを語り、その最後には「See You Soon」という言葉も飛び出していた!?
2年前に来日したときに、日本が大好きになったというアレックス氏。それは、この会場にも訪れていたホロレンジャーたちの影響も大きかったようだ。『HoloLens』を首にかけるスタイルも日本で学んだそうで、それまでPRの人たちに首にかけてはダメと言われていたにもかかわらず、アレックスがそのスタイルをやりだしてからは、みんながやり始めたのだとか。
さらに、このアレックスのメッセージは、『HoloLens』またはMixed Reality Portal上の『3D Viewer』から1ヵ月間日本限定で入手が可能だ。このイベントのためだけにわざわざ3Dでキャプチャーしたものということなので、ぜひこの機会にダウンロードして確認してみてほしい。
高橋忍氏による「Technologyで振り返るWindows Mixed Reality 2018-2019」
続いて高橋忍氏が登壇。「Technologyで振り返るWindows Mixed Reality 2018-2019」と題して、この1年間で『HoloLens』自体がどのような進化をしてきたのかが語られた。
現在便利に使用している『HoloLens』の機能は、「RS4」で発表されたものだ。OSは17年9月に出ているが、『HoloLens』用のRS4は2018年3月にプレビュー版が、6月に正式リリースされている。
このときに実装されたのが、「両手ジェスチャー」だ。アプリケーションのウィンドウも、いきなりドロップできるようになった。PCに接続して中のファイルに直接アクセスできる「ファイルエクスプローラー」も、このとき使用可能になっている。
つまり今当たり前のように使っている昨日は、一年前にはなかったのである。また、空間認識の反応速度と精度も向上している。
こんなこともあったね① HoloLensアプリコンテスト
合間にちょっとした裏話も高橋氏から紹介された。まずは「HoloLens アプリコンテスト」だ。今だから言わせてよと高橋氏。「応募してくるじゃないですか、いろんなファイルが。インストールするんですよ、わけわからないappxを。補助ファイルもないし証明書もないし、わけがわからないアプリをインストールして、何十個もアプリが並ぶんです。ウィンドウズアプリ01とか。名前付けろって! それで起動するでしょ。説明書なんて誰も書いてくれないです。それで起動すると……え? メニューはどこだよ」という感じで、なかなか苦労が絶えなかったようだ。
待望のRS5が登場
その後、待望のRS5が登場している。日本語版に対応したのも、このバージョンからだ。大きな項目はあまりなかったのだが、「Quick Action Menu」と呼ばれるアプリ動作中にBloomが落ちない「勝手にBloomするなよ」対抗メニューともいえるものが追加されている。
またMiracastで簡単に出力が行える「Projection」にも対応している。Windows10ならば、USBで接続する必要もなくアウトプットが可能になっている。
これでフェーズが進んだと高橋氏はいう。「我々が作っていろんなものを試していくフェーズから、我々が作ったいいものを、他の人にいかに伝えるか。そのための機能が充実してきた」と、この1年の進化がこうした技術からも見えると語った。
こんなこともあったね② 日本語化
対応されたものの、ときおり文句もいわれることがあるという『HoloLens』の日本語化。しかし、そこには一般には知るよしもないような苦労があるようだ。
先にインターナルアップデート版を受け取り、自分でアップデートを実施してみると、「に面してください」というような、ちょくちょくおかしな日本語が出現するという。これらひとつひとつにチェックを入れ、指摘を入れる。そこで返ってくる返事は、「いや、bingで検索してトランスレーションするとこれになるよ」というものなのだとか。
日本語のメニューでもかなりの数だが、それらがエクセルの表のみで届くそうだ。
Mixed Reality Portalも進化
『HoloLens』の話ではないが、『Mixed Reality Portal』も進化を遂げている。新たに登場したのは、Skyloftだ。VRをかけているあいだは、目の前にある実際のオブジェクトを見ることができない。そこで「Flashlight」機能が追加されている。こちらは、ウィンドウズボタンとトリガーボタンを同時に押すことで、5~60センチぐらいのウィンドウが現れ、カメラで撮った映像をリアルタイムに表示することができる。
つまり、現実空間に繋がる穴を開けて見えるようにするといったものだ。
また、これまで一方通行だったSteam VRとMixed Reality Portalとの行き来もスムーズにできるようになっている。
Spectator View with iOS
以前はSpectator Viewを行うには、2台の『HoloLens』が必要だった。しかし、iPhoneやiPadがあれば、1台ですむようになった。現在はAndroidには対応していないが、iOSはARKitが用意されているところが大きいようだ。
『HoloLens』のSpectator Viewは、簡単にいうと2台の『HoloLens』で動かしているだけのものだ。それを、UnityのPC上で再現したものを映し出している。iOS版では、空間認識情報をiPhoneのARKitにある疑似データから取得している。元々の『HoloLens』用アプリをiOS用と『HoloLens』用にコンパイルし、同時に動かしている。
Androidには、こうした空間認識の公式なコンポーネントのようなものはまだ用意されていないため、現在はiOS版のみになっているようだ。
この1年はOSが進化した。次は何が進化するかはわからないが、その先にあるのは今やっているテクノロジーの次の世代があるだけだと高橋氏はいう。これからは『HoloLens』が最先端にいて、他の人たちにそのすごい世界を見せる世代になっている。そのためには、『HoloLens』だけではなく、AI、IoT、クラウドとの連携が非常に大事になっていくと語り、本セッションを締めくくった。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。