2018
10.16

【World MR News】グリー×千葉大学共同授業2018「小学生がVTuber体験を通じ表現力を伸ばす」をレポート

World MR News

グリーと千葉大学教育学部は共同で、VTuberを活用した授業「小学生がVTuber体験を通じ表現力を伸ばす」を、10月10日に実施した。今回はその模様をレポートする。

過去には、千葉大学教育学部 藤川大祐教授監修のもと、青少年が情報モラルを自ら学べる環境構築を目的にした情報モラル啓発アプリ『魂の交渉屋とボクの物語 – Soul Negotiator – ~君の選択でストーリーが変わる ストーリーから学ぶ情報モラル~』を制作するなど、様々な取り組みを行ってきているグリーと千葉大学教育学部。

今年で6回目となる今回の授業は、今話題の「VTuber」をピックアップし、千葉大学教育学部附属小学校に通う小学生がVTuberのようにキャラクターとなり動画を作成します。10月10日の授業では、小学生に指導をする千葉大学教育学部の学生に対し、VTuber自体やVTuberをどう教育にいかすかについて講義を実施。その概要からどのように教育現場で活かすことが出来るか学べる内容となっていた。今回の授業は、そのイントロ的な位置づけとなる。講師として登壇したのは、グリー株式会社 「GREE VR Studio Lab」ディレクターの白井暁彦氏。

グリー株式会社 「GREE VR Studio Lab」ディレクター・白井暁彦氏。

国内YouTuber市場規模は2022年には579億円に

「VTuber」と略されることの多いバーチャルYouTuberだが、よくあるゲーム実況などで顔出し配信する代わりに、声優やタレント、クリエイターなどがモーションキャプチャの技術を使って、3DCGキャラクターを中の人ととして演じながら動画配信を始めたもののことをさしている。

最初にVTuberという言葉を生み出したキズナアイは、今年1月の時点でチャンネル登録数が28万人だったのが、現在は225万人まで飛躍的に伸びている。輝夜月は、24万人から84万人とこれまた大きく伸ばしている。

国内のYouTuber市場規模は、2017年の219億円から2022年には579億円に増えるという予測がある。VTuberの月間再生数推移も爆発的に伸びている。それに伴い、新たにVTuberとしてデビューする人たちも指数的に増えているのだ。

■VTuber四天王

  • キズナアイ

  • 輝夜月(かぎやるな)

  • ミライアカリ

  • 電脳少女シロ

こうしたVTuberが人気になっている背景には、アニメ市場の拡大がある。日本は、漫画・アニメ・ゲームといったコンテンツが大きな市場を持っている。また、VRChatなどメタバースも世界的に盛り上がっている。3Dのアバターを着て、その中で暮らしており帰ってこないような世界が現実に起きているのだ。

スマホを入り口にライブ配信が見られたり自分でも配信が行えたりするようになってきた。そこに、VTuberの急速な人気拡大でアニメキャラクターによる動画配信は今後VRやARの普及を後押ししながら、市場も拡大していくといわれている。

普段の生活から解放され美少女として受肉するVTuber

SNSなどで「バ美肉」と呼ばれる言葉を目にしたことがある人も多いと思うが、これは「バーチャル美少女受肉」や「バーチャル美少女セルフ受肉」という言葉の略語だ。元々の「受肉」という言葉は、神様が人の形をとって現れることをさしている。

キリストが人類を救済するために肉体をまとって出現したことをいう、キリスト教の根本教義でもある。

つまり「バ美肉」とは、普段はコンビニなどでアルバイトをしながらも、性別や年齢、身分から解放されてバーチャル美少女として受肉するという意味だ。たとえばただのおじさんで、声もそのままでも英雄視される「ねこます」というVTuberも存在している。

グリーは川上から川下まで一気通貫でVTuber事業を展開

グリーのVTuberへの取り組みについては、プロダクション事業、プラットフォーム事業、IP展開事業と3つの事業で、川上から川下まで一気通貫で展開している。

プロダクション事業は、声優やタレント、キャラクターデザインを活かしてプロデュースしたVTuberの番組を企画・制作し、様々なプラットフォームに展開している。声優やタレントという言葉を聞いて、「中の人ってそういうことなの?」と疑問にもたれることがあるが、VTuber自体が一人の人格であり、基本的に「中の人はいない」と答えているそうだ。

たとえば人気VTuberのキズナアイは、自らスーパーAIと名乗っている。これはあくまでもキャラクターの設定ではあるが、これはそれぞれがどんな「バーチャルを信じるか」ということでもある。

キャラクターデザインでは、2Dのキャラクターをオーディションで選んでいる。それにあった声優もオーディションで選んでいる。さらに、出来上がったものを3D化し、番組をどれぐらいの頻度でどのような人に向けて配信していくかということを、プロダクションが作っていくという感じだ。

プラットフォーム事業では、VTuber専用ライブ配信プラットフォームの『REALITY』を、スマホアプリとして提供している。こちらでは、VTuberによるライブ配信が日々行われているほか、視聴者とリアルタイムでコミュニケーションもできるほか、スマートフォン1台でVTuberになれる『REALITY Avatar』では自分だけの3Dアバターを作ってライブ配信も行える。

IP展開事業では、ライブやテレビ番組への出演、グッズの制作やコラボの展開、今後は海外展開も視野に入れています。

同社の特徴としては、VTuber専用のスタジオを持っており、モーションキャプチャや動画配信を行うことができるところだ。先に紹介したVTuberの事例は、あらかじめ収録したモノを面白く編集したものだ。それとは別に生放送もあり、シナリオがないためその瞬間でしか見られないコンテンツを楽しむことができる。

VTuberの活動を支えるために、様々な技術が使われている。例えばグラフィックはリアルタイムで生成されている。時間を掛けて作られたCGとは異なり、その場のリアクションに合わせた動きを生成して表示しているのだ。これらには、表情や手の動き、髪の毛のゆれなども含まれている。

これらをモーションキャプチャで取り込み、ゲーム用のグラフィックエンジンを使用して映像化している。さらに、それらとは別に、視聴者から送られてくるギフトの描画リクエストをこなしていく必要があるのだ。つまり、予測不可能なグラフィックコストが掛かるのである。

そうしたものを、クラウド経由で『REALITY』などのアプリで表示している。

事業に参加した学生がiPhone Xに対応したアプリ『REALITY Avatar』を使い、アバターを試しているところ。顔の表情に合わせてアバターも動く。キャラクターもカスタマイズ可能だ。

同社ではiPhone Xに対応したアプリ『REALITY Avatar』も提供しており(現在はα版)、自分でアバターを作ってVTuberになりきることもできる。

VTuber産業を支える技術では、海外の技術と連携しているほか、リアルタイムCG技術、表現力/プレゼンス技術、インタラクション技術、番組制作技術、スマホを使ったネット放送技術、自動化/自動評価/番組改善技術、国際化といったものや、全員が安心して使えるための活動を行っている。

VTuberはアバターで生き始めた人類の最初期集団

人類は情報と紐付けて生きている。最近は多くのSNSが登場し、それらを日常的に使用するのがあたり前の時代となってきた。その中で、人々はユーザーとして紐付けられている。

日本は人口よりもツイッターアカウントのほうが多いと言われている。つまりそれぐらい、複数のアカウントを持っている人が多いというわけだ。こうした国はあまり多いわけではないが、日本はそのトップを走っている。

それぞれのアカウントごとにキャラクターを変えている人もいるかもしれないが、それらはアバターになりきるVTuberとも共通しているところだ。人生に占めるオンラインの割合が増えるということは、アバターで生きている時間が増えるということもでもあるのだ。

白井氏によると、VTuberはアバターで生き始めた人類の最初期集団であるという。そのため、VTuber向けのプラットフォームは、将来的にアバター人類に取ってのFacebook的なものになるかもしれないのだ。

ちなみに今年の8月に配信された『REALITY』は、リリース2週間で10万人以上が利用するなど初動好調で、エコシステムも上手く回っているという。

教育者も動画メディアを活用すべき

教育者も動画メディアを活用するべきだと白井氏はいう。数学の問題を紹介するYouTuberなどもすでに存在しており、スマホを使って勉強する子供たちも増えてきている。人によっては理解度が早い人もいれば遅い人もいる。普通の事業と異なり、eラーニングでは理解度が遅い人は数回見ればいいのだ。

「VRアカデミア」というサイトでは、VRのアバターを使いそれぞれの専門のスキルを教えるリベラルアーツの世界が構築されている。具体的には、電子光学、物理化学、光合成、応用数学、流体力学、構造力学、ピアノ、英会話など、ありとあらゆるジャンルの授業を学ぶことができるのだ。

なぜ顔出しせずにアバターを使うのかという疑問がある人もいるだろうが、世の中には顔出しできない人もいるのだ。たとえば教育学部に所属していても、先生になる人は100パーセントではなく、むしろ少数派だ。その多くは、IT関連の職に就いている。

それは別に悪いことではなく、会社員として人に教えることをしてもいいのだ。つまり「なりたい自分になれる」ということでもある。

また、自分たちがやりたいことや教えたいことがあっても、そこに十分なフィーが払われるかは、必ずしも釣り合っていない。しかし、バーチャルな世界ならマッチングする可能性もあり、社会の役に立つこともあるのである。

「Teraconnect」というサイトでは、ブラウザだけでVTuber講義が作れるだけではなく、文字起こしもやってくれる。これらは無料で使用することが可能だ。

このように、VTuberで先生になりたいという人は、意外にも数多く存在していることがわかる。学術界では、「リリス AH リリーホワイト」というVTuberは、バーチャルに関する研究を発表している。同士は、このままの状態で学会でも発表を行っているそうだ。

白井氏は、VTuberの正体はVR3.0と4.0の間に生まれた記号的存在であるという。1980年代にVR1.0が登場。それがエンターテイメントにも使えるということで、ゲーム会社が巨大な装置を作ったり自動車会社がシミュレーターを作っていたりした時代が、VR2.0だ。

VR3.0は、スマホベースの技術で多くの人にVRの技術が届く時代である。ゲームエンジンがそのままVRの表示が行えるようになったことで、コンテンツを作る人たちも多数登場。今では一生遊びきれないほどのコンテンツで溢れている状態だ。VR4.0は、SNSをVRや3Dといったアバター社会に持っていく時代である。

VTuberを教育に活かすために重要な要素として、5つの例が紹介された。ひとつ目は、作り手にリスペクトで接することだ。ヘイトを集めるようなトークはせず、面白さがわからないときは観る側にスキルがないぐらいの気持ちでいることが大事だ。

ふたつ目は、コンテンツ設計に必要条件を先に示すである。これは、VTuberの番組を作ることになったときに、必要条件を伝えずに面白いものを作れというような要求はしないようにしなければならない。

3つ目は、子供がプレイヤーになる場合の注意点だ。この場合は性悪説よりも、まずは性善説を取るようにすべきである。ただし、「いいね!」は失敗を生んでしまうことがある。また、「あいつこんなアバターを使ってる」というような、ヘイトをしないようにする必要がある。

4つ目は、表現力を伸ばすVTuber体験に必要なこととして、中の人のことを忘れるようにする。また、収録も個室で行った方がよい。VTuberは境界線をはっきりさせるためにいるため、そうした発言は褒めてあげるようにするべきである。

5つ目は、子供の動画をどういう項目で評価するかということだ。たとえば新規性。技術力、体験の「シン・ギ・タイ」などがあげられる。

最後に白井氏からは、「VTuberは新しい人類です。皆さんはこれをテーマに、新しい教育のスタイルや経験、世の中を前に進める経験になればいいと思います」という言葉で、授業が締めくくられた。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。