07.14
【World MR News】革新的なビジネスを創造する『Microsoft HoloLens』――「空間情報シンポジウム2018」レポート②
インフォマティクスは、7月4日に「空間情報シンポジウム2018」を東京・品川の東京コンファレンスセンターで開催した。
本稿ではその中から、日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター エバンジェリスト 鈴木敦史氏による特別講演「革新的なビジネスを創造する『Microsoft HoloLens』」をレポートする。
『Microsoft HoloLens』は「ファーストラインワーカー」でも活用できる
今回鈴木氏が紹介するのは、日本で出荷開始されてから1年以上が経つマイクロソフトのMixed Realityデバイス『Microsoft HoloLens』だ。
日本国内でもクラウドソリューションやデバイスを使い、「働き方改革」の支援を行っているマイクロソフト。同社はIT企業であるため、PCやタブレットを使用している「インフォーメーションワーカー」に対しては、どこでも仕事ができるリアルタイムなコミュニケーションができるほか、事務所が異なる場所にあっても共同作業が行えるような仕組みなど、様々なソリューションを提供している。
その一方で、現場で働いている「ファーストラインワーカー」に対しては、なかなかPCやタブレットを中心としたソリューションは活用しづらいという状況が続いていた。
しかし『Microsoft HoloLens』は、「インフォーメーションワーカー」だけではなくこうした「ファーストラインワーカー」に対しても、ITの新しい仕組みを活用してもらえるような仕組みを持っているのだ。
『Microsoft HoloLens』を使うことで、データの取得と活用をもっと進めていくことができる。また、不慣れな作業を現場で行わなければいけないときでも、それを支援することができる。さらに、離れた場所にいても、あたかも同じ場所で作業しているような共同作業が行えるのである。
コンピューターの中にあるデータを現実世界にあるものと同じように使える『Microsoft HoloLens』
VRは、簡単に表現するとコンピューターの世界に擬似的に入り込んで、映像や音声を体験するというものだ。しかし、『Microsoft HoloLens』は少し発想変えて、コンピューターの中にある3Dや音声、IoTから送られてくるセンサーデータといった情報をあたかも現実世界にあるように表示し、操作ができるほか複数のユーザーと共有して、現実世界にあるものと同じように使っていこうというのが基本的なコンセプトだ。
ここで鈴木氏が、実際に『Microsoft HoloLens』を使用したデモを披露。会場内にプラントの3Dデータを置いてそれを見るといったものだったが、会場内からは「すごい」というような声もちらほら聞こえてきた。
『Microsoft HoloLens』は一般的なスマートグラスとは異なり、ディスプレイの中に映像が出ているだけではなく、空間の中に映像を固定することができる。あたかもそこに本物のオブジェクトがあるかのごとく、設置した3Dオブジェクトを実際に回り込んで移動することで、見る角度を変えていくことができるのだ。
ヴァーチャルの良いところは、実寸だけではなく様々なサイズに変更して表示できるというところにもある。広い場所であれば大きく表示することで、多くの人とそれを見ながら確認することも可能だ。
映像と音で現実世界にモノが存在している状況を作り出す
先ほど『Microsoft HoloLens』はスマートグラスとは違うという話があったが、それは内部構造が異なるためだ。本体の内側に様々なセンサーが取り付けられており、それを使って空間の形と大きさを認識することができるのである。
本体の両側に環境認識センサーと呼ばれる3Dカメラが搭載されており、そのセンサーを使って空間の形を識別していく。中央に赤外線センサーが搭載されており、空間に物理的に存在しているものとの距離を計測することができる。
ここで再び鈴木氏がデモを披露。画面に表示されているボールが『Microsoft HoloLens』の位置で、緑色のラインが加速度センサーでどちらの方向を見ているか認識している。床の位置がどこにあるか認識しているため、当然背を低くしたり背を伸ばしたりすることで頭の位置が変わればそれに追随して視点も変わってくるのだ。
また、『Microsoft HoloLens』は空間を点群データとして取得している。空間の形を把握しているため、現実世界にオブジェクトを置くのと同じような感覚で3Dオブジェクトを配置しておくことができるのである。
VRとは異なり、映像自体は透明なレンズの中に映し出される。そのため、現実空間はカメラ越しの映像というわけではなく普段見ているものと同じものを見ているというわけだ。そのため、あたかも現実空間にモノが存在しているように見えるのである。
映像だけではなく、現実空間の指定した位置からの音を出すことができる。先ほどのデモでは、プラントの3Dデータを表示させていたが、それを稼働した状態にしたときに聞こえてくる音も設定することが可能だ。対象物に対して正面を向いていれば前から音が聞こえて、横を向いていれば音が出ている方向から聞こえるというわけである。
このように、映像だけではなく音も使って現実世界に「そのモノが存在している」という状況を作ることができるのだ。
『Microsoft HoloLens』の使用用途は?
品川オフィスで、『Microsoft HoloLens』の紹介をしているという鈴木氏。1年間で約300社と話しているそうだが、その中でも多いのが「トレーニング」「作業支援」「設計・デジタルツイン」「構成・見積り」「販売支援」といった5つの使い方だ。
製造業ではすでにデジタルツインの取り組みをしており、工場の複製をPCの中ではなく立体映像で工場と同じものを空間に作りたいという要望が多いという。販売目的では、新しい設備を作るときの構成を作っていくときに利用することができる。
また、車の販売店にすべての車種は置くことはできないが、『Microsoft HoloLens』では販売車種、全グレード、全カラーパターンの表示が行えるため、販売支援にも役立たせることができる。同様に住宅販売でも、すべてのモデルルームが用意できない場合でも様々なパターンのものが用意できるほか、顧客の要望に合わせた状態で見てもらえることができる。
それらは映像を見るだけではなく、ユーザー自身の足で歩いて見渡すことができるのである。さらにひとりだけで見るのではなく、家族全員で『Microsoft HoloLens』をかけて見ることができるというのも特徴だ。
構成・見積もりの例では、大型の工作機器を販売しているメーカーが、展示会に出展するときに年間何十億と掛かっている費用を、映像のみで持ち込めるため搬送の負担もなくなり、ユーザーにも実際に機械が動いている様子を体験してもらうことができる。
トレーニングの現場でも活用が進む
トレーニングでは、『Microsoft HoloLens』を出したときにまっさきにJALの事例が発表されている。JALはふたつプロジェクトを進めている。ひとつはエンジンの整備士のためのトレーニングだ。もうひとつは、パイロット候補生向けのトレーニングである。どちらもトレーニング目的で気軽に使えるという利点があるという。
ただ、JALはこうしたものに利用する3Dデータを作る会社ではないため、現在はAIRBUSが引き継いでいるそうだ。
トレーニングするのにいちいち3D映像を作っていては、コストが掛かりすぎる。そこで、実機が目の前にあるのならば、現場でトレーニングコンテンツを作ってしまおうという逆転の発想で生まれたのが、Taqtileが作っている『Manifest』というアプリケーションだ。
こちらの動画は、ジェットエンジンのメンテナンスをする手順書作っている。『Microsoft HoloLens』で実機の形状を認識し、整備する箇所にアノテーションなどを付けていくといった感じである。
『Microsoft HoloLens』は、作業支援の用途でも活用されている。これまでなら熟練者とともに作業をしながら、OJTで一緒に学んでいくということができた。しかし、人工労働が減っていき世代が変わっていくことで、すべての作業に熟練者をつけるというのは難しくなってくる。
そうした経験者や熟練者を中央に抱えておき、遠隔地から支援ができるようにすることでより効率的に作業を進めていくことができるのだ。同社では『Microsoft Remote Assist』というアプリケーションをリリースしており、それを利用することで遠隔地から作業を共有することができる。
これらはOffice365が必要ではあるが、『Microsoft HoloLens』さえあれば期間限定で無料プレビューが行えるようになっている。
AIやIoTを組み合わせることで新たな活用シーンが生まれる
この先の未来はどんなことができるようになっていくのだろうか。MRでは、現実の世界に対してコンピューターの中のデータを実在用に扱えるようになる。そこにAIやIoTを組み合わせていくことで、新たな活用シーンが生まれてくるという。
『Microsoft HoloLens』でも様々なデータを取得しているため、それらを活用することができる。また、IoTデバイスが増えていくことで、PCやタブレットを見ることなく現場の中のセンサーから取得できるデータを、リアルタイムに確認することもできるようになる。
また、AIと連携することで『Microsoft HoloLens』のカメラで見たものを画像認識し、商品パッケージや設置場所を認識させるほか、話しかけた内容をリアルタイムに翻訳するといった用途も考えられる。
このように、今行われているものにAIやIoTを組み合わせていくことで、より現場の作業支援や働き方改革に繋げていくことができるのだ。
しかし、いざ始めてみようと思ったところで、何からすればいいのかわからないという企業も多いことだろう。すでにMicrosoft Mixed Reality パートナープログラムの認定パートナーだけでも、15社ある。「こんなことはできないだろうか」や「こうことをやりたい」というアイデアが出てきたときは、マイクロソフトのほか、こうしたパートナーと相談することで、新しいものを生み出していくことができるようになるのだ。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。