07.10
【World MR News】3Dアバターで会場内も歩き回れる!? 初のオンライン開催となったマイクロソフトのバーチャルイベント「de:code2020」をレポートその①
日本マイクロソフトは、6月17日から6月30日までの2週間、開発者やすべてのITエンジニアを対象にしたテクニカルカンファレンス「de:code2020」を開催した。例年は5月にオフラインイベントとして2日間にわたり実施されているが、昨今の状況から今年は初のオンライン開催となっている。すべてのセッションはオンデマンドで配信されており、期間中100を超えるセッションがいつでも観られるようになっていた。これらは、すべて無料で参加できるようになっていた。
オンラインならでは参加のしやすさもあってか、6月16日の時点で1万4000人を超える参加登録があったそうだ。ちなみに初日だけは初めての試みからトラブルでもあったのか、開始時間が16時近くとかなり遅めのスタートとなった。しかし、それ以降は大きなトラブルもなく開催されていたようだ。
今回のイベントは、デジタルでの開催決定後、すべてのセッション収録や開発までMicrosoft Teamsを活用しながらわずか2ヵ月間で準備が整えられている。そのひとつが、FIXERが開発したバーチャルプラットフォームの『virtual event』である。こちらはAzure上で稼働するエンタープライズレベルのバーチャルイベント基板で、今回の「de:code2020」では3Dのアバターを選んでバーチャルの会場内を歩き回れるようになっていた。
de:code 2020 基調講演 : Power of Tech Intensity
日本マイクロソフトの榊原彰氏から、「Power of Tech Intensity」というテーマで基調講演が行われた。ここ最近の危機について、いろいろ考えてきたという榊原氏。これまでも、1990年初頭にはバブルが崩壊し、1997年には金融危機が起きている。
2008年のリーマン・ブラザーズの破綻により、経済のリーマンショックがグローバルに広がった。さらに2011年には東日本大震災という多くの人命が失われ、壊滅的な被害を受けている。そして、今回の新型コロナウィルス感染による世界的なパンデミックが起きている。しかし、こうした危機はいつか乗り越えることができると、榊原氏は力説する。
リーマンショックの後にはシェアリングエコノミーが発展し、新たな経済形態がITによって加速した。しかし、道は平坦ではない。その理由は、我々の社会は単純な領域から複合領域に渡り、複雑な進化を遂げてきているからだ。
そこで新たな社会規範である「ニューノーマル」が重要となる。この「ニューノーマル」とは、これまでの常識が大きく変わるようなケースで使われている表現で、リーマンショック後からちょくちょく登場するようになった言葉だ。
物量やサプライズチェーンも変化する。情報の世界では、フェイクニュースを防止するような取り組みが必要になる。我々の子供世代では、教育がよりデジタル化されていく。働き方もリモートをベースにして、働く方改革が進んでいくようになる。そして、こうした人々の行動変容を前提として、社会のスマート化に取り組んでいくことになるのだ。
マイクロソフトでは、従来から「Tech intensity」というキーワードを掲げている。これは、「Tech adoption」と「Tech capability」のかけ算からなるものだ。「Tech adoption」はテクノロジーをいかに活用していくかのという意味で、「Tech capability」はそれを進めるためのスキルや人材、テクノロジーの選択肢を指している。これらの要素は、常にセキュアであるなど信頼が必要であるため、トラストのべき乗も加えられている。
これにより、テクノロジーに対する強みが高まっていくのだ。榊原氏はそこに加えて、情熱を持つことで初めて社会変革に寄与することができるのであると語って締めくくった。
基調講演:Inspiring Developers with Mixed Reality
米マイクロソフトのMixed Reality テクニカルフェローであるドン・ボックス氏からは、「Inspiring Developers with Mixed Reality」というテーマでMixed Realityに関する基調講演が行われた。
ドン氏のチームが扱っているのは、Mixed Reality(複合現実)だが、その概念は特別に複雑なものではない。人々が生まれたときから経験する様々な物理世界と、コンピューターで作り上げたデジタル世界を融合させたものだ。
情報に、視覚と音声表現を加えたデジタル世界の現実と、物理世界の現実のふたつを組み合わせて複合現実を作り上げていくのである。
実際には、エクスペリエンス デバイスやクラウドサービスなど、様々な開発を通して複合現実が作られている。たとえばクラウドサービスでは、マイクロソフトのAzureを使って複合現実のサービスを提供している。その中のひとつが、『Azure Spatial Anchors(以下ASA)』だ。
これは、時間と空間を超えて異なるデバイス同士で同じ座標を共有することができるシステムである。これにより、複数のデバイス間でも高精細で永続的に、座標系に対して情報の配置や検出が行えるようになる。ASAは2020年5月より一般提供が開始されており、すぐにSDKをダウンロードして利用することができる。
こちらはiPhoneやAndroid端末のARCoreのほか、HoloLens2でも利用することが可能だ。
もうひとつの複合現実サービスとして、『Azure Remote Rendering(以下ARR)』がある。ASAは、複数のデバイスで巨大な座標システムを作り上げるというものだが、このARRは大規模で高精細なコンテンツを取得するために利用できるものだ。
コンテンツをあらゆる視点からレンダリングすることができ、デバイスだけの力では生成できないような複雑で豊かなモデルを手元のアプリケーションに表示させることができる。クラウド側でレンダリングが行われるため、どんなに複雑なモデルであったとしても、自由にレンダリングが可能だ。同社でも、このARRの容量を増やし続けている。
ARRもSDKが入手可能になっているので、今すぐダウンロードして試すことができる。
デバイス面では、最近リリースされたのがドン氏も頭に付けているHoloLens2である。こちらは最も新しく、最高のデバイスになったと自負しているという。快適性と没入感が向上しており、初代HoloLensを使用したことがある人ならば、その違いがすぐにでもわかるだろう。
HoloLens2は、2020年7月よりマイクロソフトストアでオンライン発売が開始される。購入希望者は、hololens.comにアクセスしてチェックしてみるといいだろう。
ドン氏が最後に紹介したサービスは、テレワーク時代にぴったりな『AltspaceVR』というものだ。あらゆるヘッドマウントディスプレイで、没入感のあるVR体験が行える。『AltspaceVR』のユニークな点は、複数の人々と世界や空間を共有できるところだ。当然のことながら、全然違う場所にいても問題はない。
ZoomやMicrosoft Teamsとの違いは、体験の種類である。『AltspaceVR』は、空間の体験ができ、VR空間上で複数の人とコミュニケーションすることができるのだ。そこが、2Dでのコミュニケーションツールとの大きな違いでもある。
『AltspaceVR』は会議アプリとは異なり、プロムのようなダンスパーティや卒業式、ベビーシャワーといったイベントも行うことができる。マイクロソフトでも、Mixed Reality Dev Daysという開発者向けイベントで使用されている。
最後にドン氏は、開発者に向けて「皆さんの尽力のおかげで、すべてが順調に進みました」と謝辞を述べてセッションを締めくくった。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。