2020
03.30

【World MR News】「CES2020」にARコンテンツを出展してみての学び――「CES2020 Recap by MESON」レポートその①

World MR News

MESONは、1月22日に東京・渋谷のGoodpatchで世界最大のテクノロジーの祭典「CES2020」で発表された最新テクノロジーやトレンドなどを紹介する報告会「CES2020 Recap by MESON -2020年のAR/VRトレンド紹介-」を開催した。

本稿では、MESON CEOの梶谷健人氏によるセッション「CES2020に出展してみての学び」をピックアップしてご紹介していく。

▲MESON CEOの梶谷健人氏。

今回の「CES2020」には、MESONとして同社が開発したファッションARサービスの出展が行われた。この「CES」というイベントは、毎年初頭にラスベガスで開催されている世界最大級の技術展示会だ。4500以上ものブースが出展されており、3つのエリアに分かれて開催されている。各エリア間はタクシーで10分ほどかかるため、それだけでもイベントの規模の大きさがわかるだろう。会期は4日間しかないため、すべてを見尽くすのはかなり難しいほどだ。

「CES」は「Consumer Electronics Show」の略称で、元々家電の見本市からスタートしているが、現在はMaaSやAIプロダクト、AR/VR、ソフトウェアサービスの展示なども行われており、そこで扱われている内容は多岐にわたる。

そこで、同社が展示したのが『PORTAL』というARを使ってリッチにEC体験ができるというソリューションだ。様々な店舗がリッチな体験を提供しはじめているなか、それが自宅の中にも染みこんでいき部屋の中でもEC体験がリッチになるというコンセプトを実現したものである。テーマは、「家を店舗以上に楽しく、便利に買い物ができる空間へ」だ。

「CES2020」では、ユーザーは自分のリビングルームの中で『PORTAL』を体験するというスタイルで出展が行われていた。リビングルームの中に、ブランドのモデルたちが机の上に小さい姿で出現。それをドラッグ&ドロップで床に置くと等身大で見られるようになり、好きな角度や細かな部分もチェックすることができる。

ブランドの世界観を部屋の中にインストールできるように、ファッションのランウェイが奥に現れたり、ブランドの世界観を表す演出も現れたりするように作られている。

回の出展は、同社が単体で行ったものではない。ARグラスの『Nreal』ブースの中に4分1ほどのスペースを借りて行われている。この「CES2020」が開催されるひと月ほど前に、『Nreal』のCEOがMESONのオフィスに訪れた。そのときに「今度CESに出展するけど、何か出展してくれないか」と言われ、期間的にギリギリだと思ったものの「CES」に出展してみたかったことから、快諾している。

サービス自体も存在していなかったが、そこからひと月で企画・開発・デザインすべてを行っている。

今回『Nreal』のブースがあったのは、会場のメインエリアのど真ん中だった。『Nreal』自体が昨年ベストアワードを受賞していたということもあり、注目度も高い状態であった。そのため出展効果は高かったと梶谷氏はいう。

「CES2020」に出展するにあたりやっておいてよかった9つのこと

今回「CES2020」に出展するにあたり、様々な工夫が行われていた。「CES」というイベントの性格を意識して、ARサービスの企画やデザインというトピックはあえて外し、その中でもやっておいてよかったことが9つあった。

ひとつ目は、事前に展示の1分の1スケールの部屋をNrealの北京オフィスに作ってもらい、体験のブラッシュアップやデバッグが行えたところだ。今回は部屋の形状にピッタリと合わせる形で演出を行っていたが、日本のオフィスでは問題なかったところもその部屋でのみ起こるバグなども発見できたそうだ。

この1分の1の部屋でデバッグを行わず、直接ラスベガスで展示をしていたら盛大に失敗していたほどであった。そのため、今後も現実空間にピッタリと合わせるコンテンツを遠隔地で出展する場合は、必ず1分の1スケールの環境は作った方がいいという。

ふたつ目は、グラスの体験をタブレット越しに体験出来るようにした点だ。ARグラス体験の欠点に、かけている人が何をやっているのかわかりにくくアテンドが大変になってしまうというところがある。あるいは、ほかの来場者から見て何をやっているのかもわかりにくい。

そうした問題を解決するために、『Nreal』でユーザーが見ているものを、タブレット越しに見られるようにしている。これにより、第3者視点でそのユーザーがどこをみているのか、どこにポインターを合わせているのかがリアルタイムでわかるようになった。

また、複数人でブースに訪れる場合も多く、体験している人以外も何をやっているのかわかるようになっていたため、飽きずに体験していってくれたそうだ。

3つ目によかったところは、部屋の外にもディスプレイを映していたため通り過ぎる人も体験をしている様子を見られるようになっていたところだ。タブレット越しにいろんな人に見せることは、実際にやってみてかなりよかったという。

通り過ぎる人をいかに体験に引き込むかというのがテーマだったが、そのためにふたつの窓を付けている。ひとつは先ほどの、体験様子を外のディスプレイに映し出すということだ。もうひとつは、物理的なものだが部屋を閉じるのではなくある程度開けておき、外から中の様子を見られるようにしている。

こちらはアプリの開発とは異なる話しではあるが、効果は全然違うと梶谷氏はいう。通り過ぎる人が中を覗き、そこから体験するという人が多かったのだ。

4つ目はネットワークが切れることを前提にした設計である。今回はグラスとタブレットを連動して体験共有するために、ネットワーク通信が必要だった。しかし、「CES2020」の会場内はブースト来場者の電波が混線しているため、Wi-Fiがまったく機能しなくなってしまう。

そこで、ローカルネットワークを作って利用していたものの、それでも人が多くなるお昼前後では来場者のスマートフォンの電波と干渉しまくり繋がらなくなってしまった。

これらは事前に予想していたため、ネットワークが万全でなくなった状態でも体験が損なわれない工夫が行われていた。ひとつは、外に移しだしているディスプレイに、通信が落ちたときは自動的にPVに切り替わるようにしていた。タブレット側でも手動でPVに切り替えられるようにしてあり、外に黒い画面が映し出されないようにしている。

5つ目は、アテンドにネイティブスタッフをアサインしたところだ。こちらも地味によかったと梶谷氏は語る。「CES」はネイティブスピーカーの来場者が多く、文化的な意味合いからも案内をネイティブスピーカーに任せると案内なども気の利いた対応をしてもらえる。これにより、来場者の体験も変わってくるのだ。

6つ目は、PVを作って体験に呼び込んだことだ。「CES」の会場ではPVを作っているところはほとんどなかった。PVにはPR効果だけではなく、体験者がブースにいないときにPVを見て体験してみようと思う人が多かった。

また、「CES」期間中、メディアをブースに呼んだが、そのときにPVを見せることでイメージを伝えやすかったという。

7つ目は当たり前だが他がやっていなかったこととして、体験してもらいたいVIPを事前招待しておき、その前後の時間を空けておいたことだ。VIPに体験してもらうことで、多くの人に体験してもらえたけど具体的な話しには繋がらなかったといような事態も避けることができる。

8つ目は、体験してもらっている様子を動画に収録して記録しておき、チーム内でシェアするほか、ダイジェスト動画の作成をしたことも大事だったと梶谷氏はいう。他のブースではほとんど撮影が行われている様子はなかったが、同社ではほとんどのユーザーから許可をもらい記録している。

「CES」開催期間中は渡航費が3倍ほどに膨れ上がってしまうため、すべてのメンバーを現地に連れて行くことはできない。しかし、日本にいるメンバーにもフィードバックすることができる。

また、ダイジェスト動画を作っておくことで、「CES」現地に行けなかった人にも展示をしてきたということを使えることができるのである。

最後は、会場近場にAirbnbを借りたことだったという。「CES」現地の準備期間は3日ほどあったが、ひと月ですべての準備を行っていたということもあり、朝方近くまで開発が行われていたこともあった。そこからタクシーで15~20分かけてホテルに戻るというのは、静止的にも体力的にもきつい。

そこで、会場から徒歩10程の宿を借りていたのだが、これがよかったそうだ。直前に取ったものだが、値段も5人10泊30万円。ひとりあたり1日6000円ほどで済んでいる。Airbnbは安くいいリッチも借りることができるので、オススメだという。

最後にまとめとして、「CES」はハードウェアの展示イベントであるためハードウェア企業はコンテンツに飢えている。そのため、ソフトウェア企業に、コンテンツを提供してほしいという要望がかなりあるという。今回同社は無料で出展することができたが、Nreal自体はブースに億単位のお金を払っており、その4分の1のスペースを利用して展示が行われた。

大舞台での展示だったため、準備はかなり大変だったが、来場するメディアや関係者の質や数を考えると、大いに出展する価値あると語り、セッションを締めくくった。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。