2020
03.18

【World MR News】優勝を勝ち取ったのはストッキングを使った斬新なアイデアに!?  VTuber技術が対象の研究チャレンジコンテスト「VTech Challenge2019」最終発表会をレポート

World MR News

グリーは、昨年11月から開催しているVTuber技術を対象とした研究チャレンジコンテスト「VTech Challenge」の最終発表会を2月21日に実施した。当初は別会場でパブリックビューイングも行われる予定だったが、昨今の新型コロナウィルス関連の状況もあり、オフラインに関しては関係者のみの参加で行われている。

この「VTech Challenge2019」は、国内外の高校、高専、専門学校、大学、大学院、社会人学生などの個人から、専門分野としてVTuberやアバターの活躍をより広げる未来技術の研究を2019年11月14日から12月31日まで募集。今回は、それらの中から特に優秀な研究提案を決定するというものだ。

バーチャルライブ配信アプリ『REALITY』の公式番組としても配信された、今回の最終発表会。ということもあり、発表者や審査員を含め、全員の登壇者がVTuberになって出演するというユニークな演出となっていた。

MCは、GREE VR Studio Lab・ディレクターのしらいはかせ(白井暁彦氏)で、今回は今居レアというキャラクターになりきり番組を進行。審査員として、デジタルハリウッド大学・学長の杉山知之氏、 DJ RIOことWright Flyer Live Entertainment・代表取締役社長の荒木英士氏、日本マイクロソフトの千代田まどか氏、バーチャルキャスト・取締役CVOのみゅみゅ氏、VTuber審査員 眠居ふわり氏と九条林檎氏が登壇した。

写真左から、九条林檎氏、眠居ふわり氏、みゅみゅ氏、千代田まどか氏、荒木英士氏、杉山知之氏。

「利用者調査から見た日本におけるVRChat利用のコミュニティと経済圏」by 新保正悟氏

今回のファイナリストは全部で5名。予選は、新規性と技術力、実現によるインパクトの3要素から選出されている。ひとりあたり5分間で、VirtualCastを使用した口頭で行われた。最初に発表を行ったのは、早稲田大学社会科学部/VLEAP CEOの新保正悟氏で、テーマは「利用者調査から見た日本におけるVRChat利用のコミュニティと経済圏」だ。

▲新保正悟氏。

新保氏がVRChatに注目した理由は、他のコンテンツと比較して圧倒的な同時接続数を持っているからである。そこで、TwitterのアンケートやVRChat上でのインタビューなど4段階の調査を実施している。

VRChat利用者の職業は、学生が28.8パーセントで最も多く、続いて事務従事者が22パーセント、情報処理通信技術者が16.8パーセントと続いていく。また、始めたきっかけは40パーセント以上がVTuberであった。

プレイ頻度は、89パーセントが週1回以上と回答。ログインあたりのプレイ時間も66パーセント以上が3時間以上と答えている。VRChatの魅力は、アバターによる交流や自由度の高さを重視しているユーザーが多かった。

VRChatではコミュニティ用の部屋を建てる事ができ、オープンとクローズドのふたつに分類することができる。オープンコミュニティでもっとも多く使われているのが、「Friend+」と呼ばれるフレンドなら誰でも入場できるモードだ。VRChat間の移動方法については、フレンドにjoinすると選んだユーザーが62.9パーセントとなっていた。

VRChatには様々なワールドがあるが、それらの中でも最も多かったのが「Fantasy Shukai jou」の28.6パーセントだ。誰でも入ることができるPublic Instanceに行く理由としては、新しいフレンドを作るためと選んだユーザーが47.2パーセントもいた。

クローズドコミュニティにはフォースなどの団体があるが、44.8パーセントはこれらに所属していないと回答。団体に所属しているユーザーは、共通の趣味趣向を7割近くが参加理由に選んでいる。

経済圏では、3Dアバターなどの購入など1円も使ったことがないというユーザーは、わずか8.1パーセントにとどまり、多くのユーザーがお金を使っていることがわかった。アバター文化の発祥とも言われる「バーチャルマーケット1」以前の使用アバターは、わずか19.5パーセントのユーザーが販売アバターを利用するという状況だったが、開催後は47.7パーセントにまで増えている。

新保氏は、VRChatの強みはふたつあると結論づける。ひとつは、ネットワークの強いコミュニティや仕組みが存在するところ。もうひとつは、多種多様なユーザーが多種多様なコンテンツを常に供給し続けているというところだ。

「鏡像を用いたアバター交流体験の提案」by 石井泰誠氏

続いて発表したのは、電気通信大学 情報理工学域Ⅰ類の石井泰誠氏で、テーマは「鏡像を用いたアバター交流体験の提案」だ。

▲石井泰誠氏。

VTuberが活動を行う場は、配信や動画だけではなくリアルイベントもそのひとつとなっている。リアルイベントにはライブなどもあるが、石井氏が注目したのは1対1でファンと交流するイベントだ。

リアルイベントで行われている手法のひとつに、VTuberのアバターをディスプレイに表示するというやり方がある。体験者側としても負担が少ないところも特徴のひとつだ。さらに、回りからも何をしているのかわかりやすく、体験へのハードルも低い。

その反面、画面の向こうにいるような感覚があるのもたしかだ。近距離にアバターの存在感を提供する手法にヘッドマウントディスプレイを使うモノがある。こちらは、アバターを近距離に表示することができるが、ヘッドマウントディスプレイを付けるのは体験者だけではなくアテンドする人にとっても大きな負担だ。

そこで石井氏は、ディスプレイのような体験の用意さで装着型のような近距離の存在感を実点するために鏡に注目した。鏡は自分の姿を見るだけではなく、後ろを認知するときにも使われる。そこで、鏡像を利用することでVTuberが自分の後ろに立っていると認知できるのかと考えた。

鏡を模したディスプレイとして、体験者の鏡像とVTuberのアバターを提示する。これはすぐ後ろに立っているときと視覚的な同じような状況を作り出しているのだ。

こちらを実現するために、体験者の体による遮蔽を実現する必要がある。施策では体験者の姿と背景を分離するソフトを使い、体験者の姿、アバター、背景を合成して表示するようにしている。実際にやってみた感じは、実写の背景と自分、そしてアバターがいるため、たしかにそこにいたような感じがしたそうだ。

「新しい力学センサの開発とセンサを使ったハンドトラッキングデバイスの提案」by 倉茂雄人氏

続いて発表は行ったのは、公立はこだて未来大学システム情報科学部情報デザインコースの倉茂雄人氏で、テーマ「新しい力学センサの開発とセンサを使ったハンドトラッキングデバイスの提案」だ。

▲倉茂雄人氏。

VTuberに関するプレスリリースで、「○○モーショントラッキングを使用しました」というような記事を見かけたことはないだろうか。これらには様々な種類があるが、手の動きまで再現しようとすると機材もそれなりに高価なものになってしまう。

また、体が飛んでしまうという現象が起きることもある。これは、トラッキングの方式によって起こってしまうものだ。そこで今回倉茂氏が提案するのは、新し技術でこれらの問題を解決していこうというものである。

そこで注目したのがストッキングである。慶應義塾大学にメタスキンという研究があり、力学をストッキングの伸びとフォトリフレクタの反射によって検知するというもので、ストッキングを伸ばすと目が粗くなり光が漏れる量が増える。その量の変化を見て、ストッキングが引っぱられているかどうか判定するというものだ。

このメタスキンにはいくつか問題もあり、そのうちのひとつが環境光の影響を受けやすいところだ。そのため、蛍光管や太陽光によってバグってしまうことがある。また、ストッキング自体が薄くて破れやすい。そこで、このふたつの課題に関しても解決している。

環境光に関しては、単純にケースを作って影響を受けないようにした。ストッキングの強化は、シリコンゴムを薄く塗った。これにより、破れにくいストッキングを作ることができたという。

これらを使って、ハンドトラッキンググローブを作成している。市販の工業用グローブにセンサを1基ずつ指に取り付け、その制御に『ESP32』というマイコンボードを使い、BluetoothまたはUSB接続でPCに送信する。あとは、Unityで受け取った値を処理してアバターなどの角度に変換している。

これを実現したことによるインパクトとしては、センサひとつあたり300円ほどで作ることができる、これまでの1/3または1/5ほどのコストに抑えることができるところだ。安価に簡単に作ることができるということで、これまで企業などの上位層だけで使われていたものが、一般の層にまで落ちて使い始めると考えられるという。

「アバターファッションデザイン」by 劉卓氏

続いて、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科の劉卓氏より「アバターファッションデザイン」というテーマで発表が行われた。

▲劉卓氏。

VTuberやVRユーザーは、固定的な服を身につけているだけではなくファッションも多様化していきた。これらには技術の発展などもあるが、こうしたVTuberだけではなくバーチャル世界で楽しんでいる人々に対してアバターファッションを提供したいというのが、劉氏の提案だ。

従来までのワークフローは、LIVE2D派の場合汎用性も高い。しかし、2Dであるためキャラクターは平面的になってしまう。3Dモデル派は、キャラクターは立体的であるものの政策は複雑で衣装の政策はコストも掛かり変更が難しいという問題がある。

劉氏のワークフローは、『VRoid Studio』で完結させている。以前制作したVTuber寧々の例では、まず頭の中で作りたいイメージを思い浮かべ絵が描けるソフトウェアを使い、キャラクターのテクスチャーを完成させ、最終的に他のソフトウェアと組み合わせて、VTuberの動画を完成させている。

劉氏はこれまで、10名以上のVTuberの衣装を作ってきた。現実世界の衣装を、そのままバーチャル世界で使うとダサくなってしまう可能性が高いと劉氏はいう。その理由は、シーンにより衣装も素晴らしくなる必要があるからだという。

ブランド化の目標として、風格化、多様化、適用化を目指しているそうだ。劉氏の衣装は、「BOOTH」で無料配布も行われていそうなので、興味がある人はチェックしてみるといいだろう。

優勝者は倉茂雄人氏!

今回会場に来られなかったリュドミラ・ブレディキナ氏のビデオメッセージが流された後、審査タイムを挟み表彰式が行われた。その結果、優勝に選ばれたのは、倉茂雄人氏だった。

優勝の感想を聞かれた倉茂氏。「超びびってます。ストッキングをやってよかったなと思いますし、可能性を示せたと思います」と喜びを語っていた。

審査員の杉山氏からは、「バーチャルの世界から出てくる自分というのがいて、そこに人がたくさんいる。その社会的研究がありました。我々が(VTuberとして)動く技術も重要。バーチャルファッションデザイナーたちの戦いも見たくなった」と、今回の審査を通した感想を述べていた。

▲配信終了後、リアルな姿で現れた登壇者たち。写真左上から杉山知之氏、荒木英士氏、劉卓氏、白井暁彦氏、写真左下から新保正悟氏、石井泰誠氏、倉茂雄人氏、千代田まどか氏。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。