2020
02.20

【World MR News】VTuberはしがらみを取っ払い表現の幅が広がる――グリーと千葉大学が共同授業「小学生がVTuberに変身」を実施

World MR News

グリーは、1月29日に千葉大学教育学部附属小学校で公開授業を実施した。同社では、2013年よりCSR活動の一環として、千葉大学教育学部と共同でゲームなどのエンターテインメントを教育に生かすことを目的とした授業を実施している。今回行われた授業は、「小学生がVTuberに変身-VTuberで広がる教育の可能性-」をテーマに行われたものだ。

内容は、動物、AI、ロボット、読書、音楽、宇宙、スポーツといった7つのテーマ別に、別々の教室で6年生たちが待機。それぞれの教室前に設置されたモニターの映し出されたVTuberになりきり、そこに訪れた5年生たちに問題を出してコミュニケーションを取っていくというものとなっていた。

授業の冒頭、GREE VR Studio Labの白井暁彦氏が「カラフル王国の国王」という役割で登場。精霊が泉から逃げてしまったため、色がわからなくなった国王に変わって、「カラーストーンを集めてほしいと子供たちに説明。小学5年生たちが、各所に分かれたVTuberが出題するクイズに答えていき、「カラーストーン」を集めるために、グループごとに分かれて各教室へと向かっていった。

▲小学生たちの前に国王として登場した、GREE VR Studio Labの白井暁彦氏。

▲国王から手渡しされた「勇者の心得」を見ながら、グループごとに話し会う小学5年生たち。

画面に映し出されるVTuberに、「こんにちわ」と話しかける小学5年生たち。クイズは選択方式や、用意されたタブレットで検索するものなど、多種多様だった。声が聞き取りにくかったときは何度も聞き直すといったシーンも。

6年生たちが演じるVTuberもなかなかの演技力だった。基本的に女性のキャラクターばかりだったのだが、てっきり女の子が演じているのかと思い舞台裏を覗いてみると、なんと男子学生が演じていたということも。

ちなみに今回はVTuberライブサービスの『REALITY』を使い、スマートフォンでVTuberになりきってコミュニケーションをしていたのだが、ボイスチェンジャーなどは使われておらず、すべて自らの声だけで演じられていた。まさに、声変わり前の小学生ならではという芸当だったかもしれない。

▲VTuberが表示されているディスプレイは廊下側にあり、その教室内で6年生たちがVTuberを演じていた。

▲クイズに正解すると「カラーストーン」がもらえるようになっており、すべての場所で集め終わったあと、教室で確認が行われた。

テクノロジーを使うことで表現というものに新たに向き合うことができた

授業後、今回の取り組みについて千葉大学教授 教育学部副学部長の藤川大祐氏と千葉大学教育学部附属小学校教員の小池翔太氏、そして千葉大学教育学部非常勤講師の飯島淳氏にお話をお伺いすることができた。

▲写真左から、飯島淳氏、藤川大祐氏、小池翔太氏。

グリーと千葉大学は、2013年からの付き合いで7年目となる。グリーがゲーム作りのハッカソンを行っているという話しを耳にして、ぜひ教員養成学部で学生向けにハッカソンをやらせてほしいという話しから、この取り組みがスタートしている。

最初は付属小との連携はなかったが、教員養成学部の学生が何か作って終わりではなく、子供たちが実際に使うところもまでやりたいということになり、付属小にお願いすることになった。そこで、子供たちにゲームを使ってもらうという授業を始めている。

何年かゲーム作りをやってきたのだが、毎回同じ事を繰り返していても仕方がない。そこで、2018年度より変更しようという相談をグリーと行ったそのときにグリーが取り組んでいたVTuberが面白いということになり、取り上げられることとなったそうだ。

ちなみにVTuberを選んだきっかけについては、「表現の幅が広がると思ったから」と藤川氏はいう。学校の授業は、生身の話し合いや意見発表が多いが、生身のコミュニケーションは元々の声の大きさや体格差の良さ、あるいは地位などが効いてしまい、そうした文脈でしか出来ない部分がある。

だが、VTuberでは、そうしたしがらみをすべてとっぱらいコミュニケーションを取ることができる可能性を持っている。そこで、昨年に続き、今年もVTuberを扱った授業を行うことになった。

昨年度は初回ということもあり、かなり手探り状態で始められた。学生たちや児童もいろいろとやってくれたものの、まだやりきったという感じはなかったという。そこで、今回は学生たちに企画を委ねている。

学生たちがVTuberを理解した上で、自分たちがどんな授業を作るのかということをかなり話しあっている。今回実施されたクエストという形式は、子供たちにとっても魅力だった。そこでクイズを出題して解いていくという文脈も作ることができるため、学習にもなりやすい。

ただ単に学習するというだけではよくないため、キャラクターデザインも子供たちが行っている。その中で、表現としっかり向き合っている。

6年生の様子を見ると、実際に会話をする人と顔の表情を作る担当を分けていた。それ以外にもプロデューサー的な立場の人もいるなど、役割分担をしながらひとりの人間を演じていた。こうしたものは、それこそVTuberのようなテクノロジーを使わないとあり得ないことだと藤川氏は語る。

「テクノロジーを使うことで、ひとりで無茶な要求を演じるのではなく、情報を出す人がいたり客観的に見て指示する人がいたり、表情を作って伝える人がいたり、しゃべる人がいたりと、ひとつのキャラクターをみんなで演じることができました。役割を分けることで、表現というものに新たに向き合うことが出来たのではないかと思います」

実際に参加した5年生の様子も面白く、6年生をチラチラ見つつもその世界観は壊さないようにしていた。当然のことながら、実際にそうしたキャラクターがいるわけではなく作られたものであるということは、彼ら自身はわかっている。

だが、それでも最大限に楽しみたいということから前のグループがクイズを解いている間はそこに近づかないようにして、答えを聞かないようにしていた。

こうして楽しむことができたという点について藤川氏は、「これは子供たちが作っているんだということは、5年生は十分にわかっています。こうした世界を小学生でも十分に作ることができるということを、5年生が学んでくれたことも価値がありました。5年後、10年後に新たなものをクリエイトしてほしいですね」と感想を述べていた。

今回の取り組みに参加した6年生は、実際に自分がVTuberになってみると予想しないことがおこり、アドリブが効かないこともあったと感想を語っていた。準備期間はひと月ほどだったそうだが、それぞれのVTuberごとにテーマが決められていたため、たとえばロボットの場合は感情がない冷たいキャラクターにしたのだという。

一方、クイズの参加者として参加した5年生は、キャラクターによって色分けされていたところが面白かったという。その色ごとに正確も異なっていた点も良かったようだ。ちなみにVTuberの存在はほとんど知らず、文化際で見かけた程度だったという。

▲質問の受け答えしてくれていた小学5年生の生徒たちに、6年生がVTuberを演じていたときの様子を見せる白井氏。

 

当然のことながらVTuberとコミュニケーションを取るということも初めての体験だった。それについて白井氏は、「VTuberを演じていた6年生の受け答え速度が速く下手なVTuberよりも上手かった」と、小学5年生たちに説明。
今回の5年生たちは、もし次回もこの企画があるならば自分がVTuberとして参加してみたいと語っていた。こうした体験こそが、未来に新たなものを生み出していく原動力になっていくのかもしれない。PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。