2020
02.04

【World MR News】NTTドコモが考えるMagic Leapの魅力とは?――「ARISE#2 -Spatial Experience Summit-」レポートその①

World MR News

2019年11月30日に、日本発のARコミュニティイベント「ARISE#2 -Spatial Experience Summit-」が開催された。8月の開催から約4ヵ月ぶりとなる今回のテーマは、「Augmented X」だ。本稿ではその中から、NTTドコモの秋永和計氏による「Magic Leap Session」の模様をお届けする。

この「ARISE」は、ARにかかわっているすべての人にとっての挑戦の場としている。ゴールはふたつあり、ひとつ目は日本初のグローバルコミュニティの創出だ。海外にはARコミュニティは数多く存在している。しかし、日本から世界に発信できているものは少ない。最終的には日本から世界に発信し、海外から日本に様々な人を招待したいと考えている。

もうひとつは、業界業種を超えて人々がARで価値を創るということだ。ARのプロダクトは、IT業界やエンジニア、デザイナーだけでは終わらないことが多い。これまでかかわってこなかった人たちとも、かかわっていく必要がくる時代がやってくる。そこで、AR業界だけではなく他領域の人たちともコミュニケーション出来る場を提供することで、日本のAR開発コミュニティを盛り上げていこうとしているのだ。

“ARおじさん”こと、MESON COOの小林佑樹氏。

5Gで体感を革新させるためにMagic Leapに投資

この日は7時間を超える長丁場のイベントであったが、そのトップバッターとして登壇したのがNTTドコモの秋永和計氏だ。同氏からは、「Magic Leapの魅力とは?」というテーマでセッションが行われた。

▲NTTドコモの秋永和計氏。

NTTドコモでは、2019年9月に5Gのプレサービスをオープンし、2020年春から商用サービスを開始しようとしている。その中で同社ではスタイル革新を掲げている。それは、体感の革新とライフスタイルの革新、そしてワークスタイルの革新だ。そのなかのひとつである体感の革新に「XR」というキーワードが入っており、それがMagic Leapに投資を行ったきっかけにもなっている。

NTTドコモには5Gのパートナーなどがいるため、そことMagic Leapの空間コンピューティングを上手く融合した、新しいXR市場を創出していきたいと考えているのだ。

Magic Leap Oneは、Mixed Realityの端末でしょといわれることが多い。しかし、これはMagic Leap社は明確に否定しており、デジタルと実世界をシームレスに融合させ、その上にスペーシャルコンピューティングという世界観を作ることを目指したウェアラブルコンピューターであると定義している。

Magic LeapはVRの世界観とは異なり、実際の世界に物を作っていくというのがキーメッセージとなっている。それを実現するために、ハイパワーなパーツを積んでおり、バッテリーも外部に接続するという形になっている。

中でも一番力を入れられているのが、空間の把握だ。カメラが4つ搭載されており、空間の情報をコンピューターの中に取り込むことができる。そして、そこにコンテンツを頂上させることができる。これにより、物が手前にあれば影に隠れるというオクルージョンの処理も正確に行うことができるようになるのだ。こうしたコンテンツも簡単に作ることができるようになっており、UnityやUnrealのゲームエンジンなどにも対応している。

UnityでMagic Leapアプリを開発

NTTデータSBC IoT事業部の越智繁氏からは、「UnityでMagic Leapアプリを開発」というテーマで、どれだけ簡単に作ることができるかという紹介が行われた。

▲越智繁氏。

今回作ろうとしたアプリは、Magic Leapの世界観を伝えるためにデジタルと実世界を繋ぐための要素がある。3Dのコンテンツに対して、ユーザーの操作に反応するということと環境に反応するというところから、ボールを掴んで壁に当てるというものを考えた。こちらで必要になるツールは、Magic Leap Package ManagerとUnityのふたつだけだ。

こちらで必要になるツールは、Magic Leap Package ManagerとUnityのふたつだけだ。セットアップは5ステップで、テンプレートを開きプラットフォームをLuminに変更。SDKのパスやパッケージ名、アプリ署名を設定するだけである。

ボールを掴んで投げるという動作をさせるためには、手を認識させる必要がある。Magic Leapでは、8つのパターンの手の形と15ヵ所の手の主要点を認識することができる。その中から今回は、掴むという動作と人差し指の指先を使用している。

実際に書くコードは至ってシンプルだ。Magic Leapを使う宣言をして手の認識機能を使う。使い終わったら、手の認識機能を忘れずに終了させるようにする。ロジック部分では、手の認識精度と手の形、指の位置を設定する。

▲こちらが実際に作られたサンプル。指とボールの位置がずれて見えるが、これはデバイスの左にあるカメラからの映像をキャプチャーしているためで、Magic Leapを掛けた状態ではずれていないように見える。

ボールを掴んで投げるという部分に関しては、下記の3つのプロセスが必要だ。

①ボールを掴む

②掴んでる間はボールと指の位置を一致させる

③ボールを放したときにボールに速度を付ける

ボールと指の距離が一定距離以内になったときに、手が掴む形になっていたら掴んでいる状態にする。ボールを掴んでいる間は、ボールの位置を指の位置に移動させる。最後に、手の形が掴む形でなくなったときに、ボールに速度を付けるようにしている。速度は、前回のフレームからの移動量にしている。

このままでは、ボールが壁を突き抜けてしまうため環境をメッシュ化する必要がある。実際にやることはひとつだけで、Unity向け開発用Packageに含まれている環境メッシュ化Prefabを、Hierarchyに追加するだけだ。

▲こちらがメッシュ化された空間だ。色の違いは距離を表している。

Magic Leapにはこれ以外にも、コントローラーやイメージトラッキング、アイトラッキング、ハンドメッシング、空間音響といった機能も用意されている。

Magic Leapには、いくつかの制限事項もある。現状はメガネに対応しておらず、別途矯正レンズが必要になる。また14歳未満の利用は禁止されており、14~17歳は大人の監督下で使用する必要がある。

空間の広さは約4.3×4.3メートル~約6.1×7.6メートルまで、天井は約2.7メートル~3.7メートルの高さが利用的な空間面積だ。赤外線などを利用しているので、直射日光が入るような場所では上手く動作しないことがある。また、オプティカルシースルーであるため、明るい環境にも弱い。そのため、屋外での利用は難しい。空間をスキャンするときに、真っ白または真っ黒という場所も苦手だ。

もっとも気になる部分は、いつどこで買えるのか、価格はいくらなのか? 新端末の発売はという質問だが、これらはすべて答えることができないという。ちなみに、価格は30万ほどするという。

しかし、法人向けではあるが貸し出しも行っている。最大2台3ヵ月まで利用することができるが、審査はあるため詳細はNTTドコモの担当者まで問い

合わせてみてほしい。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。