2019
10.11

【World MR News】VRトレーニングの活用に期待される『Oculus for Business』とは? 「Oculus Connect 6 Meetup」レポートその②

World MR News

Facebook Developer Circleは、10月11日に東京銀座のBINARYSTARで「Oculus Connect 6 Meetup」を開催した。本稿では、松村裕氏と桜花一門 代表取締役の高橋建滋氏によるセッションの模様をお届けする。

松村裕氏からは、『Oculus for Business』と『SparkAR』、『LiveMaps』についての紹介が行われた。

▲松村裕氏。

『Oculus for Business』は、toBのユースケースに特化したビジネスプランだ。そのため、通常の『Oculus Go』や『Oculus Quest』と比較すると、若干高めになっている。一般的にVRはゲームをイメージすることが多いが、ビジネスでの可能性も大きくなってきている。

Hiltonの事例では、ホテル現場の仕事内容をVRで再現している。これは、決断を下す本部がホテルの現場の複雑さを理解することで、今後の検討などに活用している。また、現場の新人向けトレーニングなどにも使われている。

ネスレでは、会社の机で工場体験ができるようになり、現場に行く必要がなくなった。当然のことながら旅費も掛からず、工場特有の危険性もない。

自動車メーカーのFordでは、VRで車の設計を行っている。これにより、これまで数週間単位でかかっていたものが数時間単位まで時間を短縮することができるようになった。また、保険会社のFarmers Insuranceでは、家の修理が必要な場所を見つけるトレーニングにVRが使われている。

『Oculus Quest』に「ハンドトラッキング」が実装されることで、コントローラーの説明が不要になる。コントローラーはゲームではおなじみのものではあるが、普段使っていない人にとっては扱いにくい。それらの使い方から学ぶ必要はなく、直感的に扱えるようになるのである。

Johnson & Johnsonでは、外科手術のトレーニングにVRを活用している。本物の人体が不要で、学習できるところがメリットだ。ちなみに、同社の話しによると従来までの教育ではひとりもできなかったことが、VRを使った教育では83パーセントの人が習得できたという結果が出ているそうだ。これらは大学との共同研究で行われたもので、どちらも最小限の学習結果で調査されている。

こうしたVRトレーニングにはいくつかの利点がある。ひとつは「Muscle Memory」だ。従来までの映像での学習は、耳や目から情報を得ていたが、VRでは体を使うことで記憶することができる。

ふたつ目は「Unlimited Redo’s」だ。例えばリアルな人体を使った実験などでは、何度も繰り返し行うのは難しいが、VRでは可能である。3つ目は「High-Stakes with No Risks」だ。リアルな人体の場合腐敗などの問題があるが、VRならいつでも同じ状況で試すことができる。

ビジネスユースで必要なことは、拡大しやすくプロ仕様で、信頼感があることである。『Oculus for Business』では、全世界で同様のトレーニングを行わせるときに、大量のデバイス管理ができるようなアプリやウェブページが提供される。離れた場所からも、すべてのデバイスをコントロールすることが可能だ。

プロ仕様としては、企業が認めたアプリのみしか利用することができないようになっている。これはアプリの誤動作などを防ぐためだ、信頼感の面では24ヵ月保証やデバイスの高速交換、チャットや電話を使ったサポートが用意されている。

続いては、『Spark AR』だ。これは、FacebookやInstagramのカメラで出来るARフィルターである。ハイエンドなスマートフォンだけではなく、少し前の機種でも利用が可能だ。また、アプリをインストールする必要がないところも特徴である。

開発には、ウィンドウズとマッキントッシュに対応した『SparkARStudio』という無料のアプリが用意されている。顔だけにエフェクトが出せるものと思われがちだが、最近は進化してきており、特定の画像を認識して動かしたり穴を開けたりすることもできる。また、自分がいる部屋を認識して3Dのオブジェクトを置くことも可能だ。

美術館の例では、8つの絵をかざすと絵が特定のエフェクトが起動する。どの絵にかざしたかもわかるため、スタンプラリーとしても活用できるほか、音声ナレーションを流して解説することもできる。

こうしたものでは、エフェクトをインストールと思われるが、QRコードをカメラで読み込むだけでARエフェクトに飛ぶことができる。

なんだか作るのが難しいそうといった印象だが、ドラッグ&ドロップだけで機能をくっつけていくだけで作れるため、開発者でなくても制作が可能だ。ここで作った機能は全世界で共有され、それらを組み合わせるだけでも作ることができる。ただし、ドキュメントは英語のみとなっている。

最後に紹介されたのが、『LiveMaps』だ。こちらは、Facebook Reality Labが将来のAR体験の支えのために作っている概念である。現実世界を再構築した地図で、世界中で共有される。

コンセプトとしては、映画館に行くと情報が表示されたり、竹林を歩いているとバーチャルな鶴が出現したりといった感じで、情報や体験を共有することができる。さらには、忘れ物を防ぐために外出しようとしたときにリマインダーを目の前に出現させるといった感じだ。

同社ではARグラスを開発中ではあるが、プロトタイプの公開自体はまだまだ先である。一般的にARクラウドと呼ばれている概念とも、ほぼ同じだ。実際に公開されたものはコンセプトを伝えるもので、現段階では技術としては公表されていない。

■VR会議の未来と課題

桜花一門の高橋建滋氏からは、「VR会議の未来と課題」と題したセッションが行われた。ちなみにこちらは、会場のアンケートから選んだテーマだそうだが、残念ながら大型台風の影響もあってか、この会場には参加していなかったようだ。

▲高橋建滋氏。

最近同社では、VR会社が物理オフィスにいるのはおかしいのではないかと考え、「オフィスのVR化」を進めている。その経緯で作られたのが、VR会議の『桜花広場』だ。その特徴は、ウェブを見ながらみんなで話せるということで、機能としてもそれだけのシンプルなものとなっている。

Google スライドに表示してプレゼンテーションをしたり、Facebookに地図を送ってもらい自分がいる場所を伝えたりといったこともできる。

よくある質問に「何で移動したくないのか」というものがある。これは、移動知る時間とお金、体力と場所代を減らしたいからだと高橋氏はいう。その昔、同氏がコーエーで働いていたときに、徒歩7分の場所に家を借りていたことがあったが、これが最高だったという。また、社長になって初めてわかったのがオフィス代や社員に払う交通費の高さだ。さらに来年はオリンピック開催で、交通規制などで会うことができないということも起こりうる。これらをどうにかしたいと考えたそうだ。

「チャットじゃダメなの?」という意見もあったが、チャットでは微妙なニュアンスが伝わりにくい。また、行き違いがあったときのフォローも大変になる。微妙な声の抑揚やテンション、表情などは、文字や音声だけでは伝わりにくいのだ。

同様にテレビ会議も1対1なら問題ないが、多人数になると成立しなくなる。たとえばスカイプの音声通話で3人以上が話し出すと、誰が話しているかわかりにくくなる。一番重要なのは、人がそこにいる実在感だ。そこに人がいないため、安心感からテレビ会議中にトイレなどで離席したり話しを聞いていなかったりといったことも起こる。VR会議では、普通に会話しているような感覚で話すことができのだ。

では、VR会議があればすべて解決するかというと、そういうわけでもない。現実を100パーセントとするならば、だいたい伝わるのは8割程度だ。残りの2割を埋めるのが、マネージャー(管理職)の仕事になってくる。直接会えないため、勤務態度で評価することはできず、新しい評価基準を作る必要があるのだ。

それを解決するために、目的と手段を分けて、目的の明確化とその達成のみに主眼を置くようにする必要がある。管理職は、その目的を明文化して粒度を細かくして分配する役割を担っている。

実際に同社で実施しているのは、大目的やそれをクリアするための大手段、中目的に中手段と、細かく目的と手段を分けて管理している。関数ひとつひとつに仕事を割り振り、1時間単位で終わる仕事も細かく割り振ることで、何をすべきか明文化されるのだ。

▲ここまで細かく分解してそれぞれの人にお願いすれば、遠隔でも仕事が割り振れ管理や評価ができるのだ。文章だけで伝わらない部分を、VR会議で伝えるようにしている。

この先の未来はどうなるのかというと、これ以上リアルにしたところで人間度は上がらないと高橋氏は考えている。人間に必要な要素は、見た目ではなくいかにリアクションをしてくれるかだ。

日本人はアニメが好きだが、生の人間は情報量が多すぎて疲れてしまうというのも理由のひとつだ。そのため、アバターなどざっくりとしたもののほうが疲れにくいのである。

▲発表終了後、会場内ではOculusの体験や交流会も実施されていた。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。