2019
08.13

【World MR News】5G参入で楽天が目指すのは「モバイルネットワークの民主化」【Rakuten Optimism 2019】

World MR News

楽天は、7月31日から8月3日までの4日間、パシフィコ横浜で楽天グループとしては史上最大規模となるイベント「Rakuten Optimism 2019」を開催した。これは、楽天グループのエコシステム(経済圏)の概念とサービスへの理解促進、ブランド価値の向上などを目的としたもので、今回は「5G 時代を、先取りしよう。」をテーマに実施された。

第4次産業革命と5Gが変える世界と日本

本イベントのトップバッターとしてビジネスカンファレンスに登壇したのは、慶応義塾大学名誉教授、東洋大学教授で元国務大臣の竹中平蔵氏だ。

▲竹中平蔵氏。

今から5~6年前、今回のイベント「Rakuten Optimism 2019」とは真逆の「Pesimism」が出てきた。これは、世界の経済が長期に停滞するのではないかという議論だった。世界には沢山のお金が貯蓄されている。しかし、それを投資に使うチャンスがどんどん減っている。

貯蓄と投資を均衡するには、金利をかなり引き下げなければならない。そのため、日本を含む多くの国ではマイナス金利を採用しているが、こんな状況は長く続くわけではないため少しずつ景気が悪くなっていく「長期停滞論」が問題提起された。

しかし、それを打ち消すような考え方が登場した。それが「第4次産業革命」だ。デジタルな経済がどんどん進行しており、そこにAIやブロックチェーンなどの画期的な技術進化が登場し、通信の速度が一気に速くなる5Gも登場する。これは、我々の経済に大きなインパクトを与える進化となる。

「長期停滞の可能性があるなか、一方ではチャンスがあり、それをどのように実現していくのかという状況が、ここ数年我々が経験してきたことなのです」と竹中氏は語った。

Rakuten Optimism 2019 オープニングキーノート

竹中氏に続き登壇したのは、楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏だ。昨年初めて、楽天グループのカンファレンスをサンフランシスコで開催した。これまで、それぞれのサービスが別々に実施していたが、それを今年からすべてひとつの場所に集約して実施するようにしたという。

三木谷浩史氏。

楽天は、1997年に三木谷氏を含むふたりのメンバーで創業している。当初は出店が13店舗、ひと月の売り上げが32万円で、そのうち20万円は三木谷氏自身が購入したものだ。この当時のインターネット回線の速度は、ナローバンドと呼ばれる28Kbps程度だった。それが、現在のスマートフォンで使われている4G回線ならば、10MBbps~20Mbpsほど出るため、1000倍ほど高速化したということになる。

20年間掛けて1000倍高速になったインターネットのスピードだが、それが5Gになることで、さらに1000倍速くなる。楽天創業時からは、100万倍も高速になるという時代がやってくるのだ。

楽天の会員数は約1億人。楽天ポイント累計発行数も1兆2000億以上になっている。しかしインターネットは、グローバルなサービスだ。グーグルやSNSなどは、グローバルなものだからこそ価値があるのだ。そこで、同社もグローバル化のチャレンジを行っている。現在楽天をグローバルで利用しているのは13億人。グローバル流通総額は15兆円超えとなった。

楽天は、日本のインターネットショップから、世界のブランドになりつつある。ヨーロッパではブランド認知度は70パーセントを超え、アメリカでもすでに50パーセントを超えており、今年中には70パーセントになると三木谷氏はいう。

今回のイベントは「5Gの時代が来たらどうなるのか」というのがテーマになっているが、三木谷氏もよく聞かれるものの、22年前にこんな時代が訪れることは予想もできなかったそうだ。

今年の10月から、楽天モバイルでも移動体通信事業者のサービスを開始する。従来までは他者の回線を借りてサービスを提供するMVNO事業が中心だったが、それでは技術的なサービスのブレイクスルーを実現することができない。そんな中で、日本の携帯電話のサービス料金は世界でも高額な部類に入る。

楽天が実現しようとしているのは、「モバイルネットワークの民主化」だ。5Gを導入することで、誰もが高速なネットワークを利用出来るように使えるようになる。これまでの携帯電話のネットワークは、固定回線の通信機器を繋いで利用してきた。これは日本に限らず、世界でも同様だ。しかし、楽天は、それを完全仮想化することを目指した。

この完全仮想化とは、ハードウェアをソフトウェアに置き換えるというものである。ハードウェアは、ちょっとしたサービスの変更や速度の向上をするときに、ハードウェアごと変更する必要がある。しかし、ソフトウェアにすることで様々な変更を、ソフトウェアを変更するだけで実現することができるようになるのだ。

つまり、完全仮想化することで、ネットワークやサービスの柔軟性に加えて、投資金額の抑制、ネットワークのメンテナンス費用を大幅に下げることができるようになる。

この完全仮想化は、世界の技術者にとって夢だった。日本では移動体通信事業者は3社しかなかったが、これまで完全仮想化を実現しようとしていたところはなかった。新しい変革を起こすことで、今あるマーケットが崩れてしまうことを嫌っていたからである。

三木谷氏は「それじゃ嫌だ。俺たちはディストラクションを起こそうということで、完全仮想化技術をほぼ1年半で完成させました」と語る。今年のダボス会議で通信最大手のCEOと話したとき「ミッキー、グッドラックだ。多分失敗するよ」ということを言われた。しかし、その後に行われたカンファレンスで同CEOから「実現しそうだな。すごいことだ。これが本当に実現すると、今までの通信ネットワークの歴史がひっくり返る」と言われたという。

楽天モバイルのネットワークは、単に4Gネットワークではなく、新しい5Gにも大きなメリットがある。他社のネットワークの場合、5Gは別に専用機器をインテグレーションして、それをなんとかハードウェアに結びつけていく。

しかし楽天モバイルは、4Gでも5Gでも、将来登場するであろう6Gになっても、すべてソフトウェアのコンフィグレーションを変更することで対応できるネットワークの革命を起こそうとしているのだ。 

■ジェダイ・アカデミーや5G体験、オールキャッシュレスのグルメエリアも登場!?

今回のイベントでは、ビジネスカンファレンス以外にも、隣接したスペースで体験型イベント&フェスティバルが実施されていた。なんとこちらのゾーンは、飲食エリアはすべてキャッシュレスのみ使用できるという大胆な試みで行われていた。

全国7種類のブランド牛を使ったステーキ丼をはじめ、楽天市場を展開する同社ならではの出展も数多く見ることができた。

なかでもユニークだったのは、映画『スター・ウォーズ』に登場するジェダイの騎士になる訓練が行える参加型イベントの「ジェダイ・アカデミー」だ。こちらは小さな子供たちが弟子のパダワンとなり、訓練を体験するというものになっていた。

また、エクストリームスポーツの映像を『HoloLens』を掛けて見られるコーナーや、ARグラスを掛けることで、写真パネルの選手データが見られるコーナー、5G×VR体験として、7月27日に実施されたヴィッセル神戸vs FCバルセロナの試合を、VRゴーグルを掛けて臨場感溢れる映像が楽しめるコーナー、クラウドゲームで5GとLTE回線の違いがわかるコーナーなどもあり、いずれも30分待ちなど多くの人が列を作って並んでいた。

■開催概要

名称:「Rakuten Optimism 2019」(読み仮名: ラクテンオプティミズム)

会期:2019 年 7 月 31 日(水)~ 8 月 3 日(土)計 4 日間

会場:パシフィコ横浜・展示ホール

主催:楽天株式会社

公式サイト:https://corp.rakuten.co.jp/optimism2019/

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。