2019
07.29

【World MR News】話題の立体視ディスプレイ『Looking Glass』のビジネス導入事例『軍艦島のガンショーくん ~ちゃぷちゃぷ水槽3D~』――「第3回 Looking Glass勉強会」レポート①

World MR News

裸眼で立体的な映像が楽しめる3Dディスプレイ『Looking Glass』の勉強会「第3回 Looking Glass勉強会」が、7月19日に六本木ヒルズタワーのメルカリで開催された。『Looking Glass』は映像で見るよりも、実際に自分の目で見ないとそのすごさが伝わりにくいということもあってか、前回に引き続き、今回のイベントも100人規模という大人数で実施された。

ちなみに、今回の勉強会はビジネスと『Looking Glass』というテーマで実施されている。本稿ではその中から、メインセッションである蔵岡恒一郎氏の「軍艦島Looking Glass ~ミュージアム導入事例紹介&ビジネス側面の話~」をピックアップしてお届けする。

▲主催のザバイオーネ氏。

■生命が感じられるディスプレイを仕事でも活用!

蔵岡恒一郎氏が共同代表を務めるMuuMuは、ゲーム系の技術を活用してXRや集客施設向けのコンテンツ開発を行っている。その中のひとつが、軍艦島デジタルミュージアム向けに『HoloLens』を活用したアトラクションの『軍艦島のガンショーくん ~かがやくブラックダイヤモンドをさがせ~』だ。

▲蔵岡恒一郎氏。

今回は、同じ軍艦島デジタルミュージアムに『Looking Glass』用コンテンツの『軍艦島のガンショーくん ~ちゃぷちゃぷ水槽3D~』を導入するまでの流れが紹介された。

昨年7月に『Looking Glass』をオーダし、12月に手に入れたという蔵岡氏。公式ライブラリーにあるカエルの映像を『Looking Glass』で見たときに、「生命が感じられるディスプレイ」だと思ったそうだ。そのときに、仕事でコンテンツを作りたいと考え先端デジタルデバイス×コンテンツということで、軍艦島デジタルミュージアムに話を持っていた。

この軍艦島デジタルミュージアムは、長崎県にある世界遺産の軍艦島に関するアートや資料が展示されているほか、デジタルデバイスが体験出来るというのも特徴のひとつとなっている。この軍艦島デジタルミュージアムから、『Looking Glass』コンテンツ開発受注を目指す取り組みが始まった。

今では廃墟として有名な観光スポットとなっている軍艦島だが、元々は日本の産業近代化の象徴であった。石炭の採掘で栄え、日本初の高層鉄筋コンクリートアパートが建造されていたほか、日本の平均テレビ普及率が5.8パーセントだった時代に100パーセントだったなど、最先端の島でもあったのだ。

この軍艦島のキャラクターとなっているのが、「軍艦島のガンショーくん」である。様々なグッズが発売されているほか、ガンショーくんのイラストがラッピングされた路面電車も走っている。さらに長崎ではテレビCMも行われている。こちらはなんと『HoloLens』アトラクションのCMで、『HoloLens』を使用したテレビCMとしては世界初のものだという。

この軍艦島のガンショーくんを使った『Looking Glass』の企画では、ターゲットを子供中心に大人も楽しめるものにしている。ミュージアムに置かれるということで消化されない世界観にして、かつ過去の3Dリソースを使うなどコストを抑えるようにしている。

最初のラフを作り、そこから掴んだり傾けたりといったイメージを膨らませていき、最初のバージョンを作成している。

▲iPadで書かれた初期のイメージラフ。

軍艦島デジタルミュージアムに作ったものを見せたところ、スタッフはみんなニコニコして画面をずっと見ていたり、自宅にも1台欲しいという声が上がったりしていた。がっつり心を掴み、受注も獲得している。

『Looking Glass』は実装が簡単で、プレハブひとつ入れてそれだけで3D表示が行える。始めてから30分も掛からずに作れるほどのお手軽さだ。そのため、いかに顧客が欲しいと思えるものを、具体的なイメージを実装して出すことが重要となる。

その後試作版から質感も向上させ、完成させている。完成版では、『Leap Motion』を使用してガンショーくんに触ったり掴んだりというアクションが楽しめるほか、時間で背景が変化するというギミックも実装している。

インタラクションに使用する『Leap Motion』だが、ミュージアムでそのまま直置きするとケーブルが目立ってしまう。また、直に触られると故障の原因にもなる。そこで、『Looking Glass』専用展示台を自作することになった。半日掛けて展示台を作り、『Leap Motion』もすっきりと格納できるようになったそうだ。

軍艦島デジタルミュージアムで展示後の体験者の反応としては、子供が比較的長く体験しており、ときおり声を上げて楽しんでいる人もいた。また、家族連れや友達同士で盛り上がっていたそうだ。

この『Looking Glass』は、子供から大人まで全世代引き込むことができ、ほかのXR関連コンテンツと異なり複数人で楽しむことができるのが特徴だ。また、圧倒的な瞬発力体感ができるため、初見キラーであるという。

一方、入力デバイスの『Leap Motion』は、手の操作がわかりにくく『Leap Motion』自体を触ってしまう人が多かったそうだ。そこで、操作がわかりやすいようにポスターを設置している。

『軍艦島のガンショーくん ~ちゃぷちゃぷ水槽3D~』の開発工数は、アプリ制作1名で合計6日間。前提としては、Unityアプリ開発が出来るレベルで、『Looking Glass』や『Leap Motion』は初めてでも問題ないそうだ。また、リソースに3Dモデルやモーションは過去に制作したものを使い回し、Unityアセットで水面と天候を利用している。

展示台の作成のほうは、工数で言うと半日ぐらい掛かるためプロに依頼した方がいいそうだ。

■『Looking Glass』のビジネス面

続いて、『Looking Glass』のビジネス面の紹介が行われた。この『Looking Glass』は、2018年夏に発売され、1年が経過した状態だ。全世界で1740台が販売され、それにプラスしてウェブでも販売されている。基本的には、個人や研究開発での利用が中心だ。

今年開催された「AWE2019」で最優秀入出力ハードウェア賞を受賞しており、XR関係者の注目や評価は高くなってきている。しかし、グラス不要の3D立体視に関する世間一般の認知度や体験率はかなり低い。

『Looking Glass』は、個人・クリエイター向けに『Standard』と『Large』の2種類が用意されている。また、5月には『Looking Glass Pro』が発売されている。

『Looking Glass Pro』は、15.6インチと7インチのサブが付いており、PCを内蔵している。それとは別に、ビジネス向けの『Looking Glass Large』も発売されており、個人・クリエイター向けよりも1000ドル高い4000ドル(約44万円)で発売されている。

両方に共通している部分では、保証期間が12ヵ月で返品は1ヵ月、それに商用ソフトウェアライセンスが付属している。

『Looking Glass』の商用ライセンスは、商用目的でLooking Glass社のSDKやソフトウェアを使って制作したコンテンツの販売や表示を行うときに必要となる。つまり、ハードウェアではなくソフトウェア側に掛かっているのだ。

この商用ライセンスに関しては不明なところも多いので、Looking Glass社に直接聞くのがいいという。ちなみに、日本語での問い合わせにも対応しているそうだ。

実は、軍艦島デジタルミュージアムでの商用利用はすでに行われていたため、商用ラインセンス発表後に問い合わせを行っている。時系列や経緯などもあり、今回は特別条件で許可をもらっている。

機材コストは、『Looking Glass』の推奨環境は、Windows10の64ビットで、GPUにGTX1060以上のグラフィックカードを搭載したPCが推奨されている。一般的にゲーミングPCの入門機と同等の性能だが、だいたい実売で10万円ほど必要だ。

商用で推しよう環境の機材コストとしては、『Looking Glass Large』とPCでおよそ54万円。『Looking Glass Pro』単体で66万円だ。『Looking Glass Pro』に内蔵されているPCは、GPUにRadeonVegaMを搭載しており、GTX1060よりやや落ちる程度の性能となっている。

上記の機材ではコストが掛かりすぎるため、シングルボードコンピューターなどを使うことで、もう少し低コストですむ動作環境も構築することができる。現時点では、Unityアプリの実行はできず、Linuxも実質は難しい。こちらでできることは、3D静止画や3D動画の再生や、軽量な3Dモデルの描画が行える。

コンテンツ制作コストについては、3Dキャラクターモデル1体を作るのにざっくり1人月ほどかかる。この3Dキャラクターモデルは簡単に作ることができると思われることが多く、ギャップが生まれやすい部分だ。

安価に3Dリソースを工面するには、既存の3Dデータを再利用したり、フリーダウンロードや販売サイト、3DスキャニングやPhotogrammentry、多視点撮影などを活用したりすることになる。

つまり『Looking Glass』のコンテンツ制作コストでポイントとなるのは、3Dリソースをいかに工面するかということになる。

『Looking Glass』のビジネス用途と方向性については、その特徴からひとつは3次元情報の見える化が考えられる。元々3Dだった世界を2Dディスプレイや印刷してみていたが、当たり前のことではあるが3Dで見た方が把握しやすい。

ふたつ目は、『Looking Glass』ならではの体験や表現だ。こちらは、奥行きを活かした表現や『Leap Motion』との相性もいいので、それを活用したインタラクションなどが考えられる。

各分野の人に『Looking Glass』を見せたときの反応では、展示会ブース設計者は画面サイズが気になると答えていた。ブース設計では、いかにお客を引き込むかという部分が重要だが、画面が小さいためややつらいという。しかし、ブース内で見せて体験してもらえるところはいいと答えていた。

アートクリエイターは、価格の高さや解像度が低いところが気になったようだ。また、世代もあるかもしれないが懐かしい感じがしたと答えていた(昔は、お菓子にレンチキュラーを使用した絵が動くシールなどのおまけが付属しているものがいくつかあった)。

科学館や博物館の関係者は、子度向けの教育学習に良さそうという意見や、すぐに体験出来るところがいいという意見が出ていた。ちなみに、軍艦島デジタルミュージアムではかなり好評だったそうだ。ここからわかったのは、ポイントとなるのはディスプレイサイズや解像度が気にならない使い方が重要だということだ。こちらに関しては、今後のハードの進化に期待しよう。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。