2019
07.04

【World MR News】『Mirrativ』にカラオケ機能「エモカラ」が追加されるまでの開発秘話――「AR Service Design Meetup #1」レポートその②

World MR News

話題になったARサービスのデザインプロセスが学べるミートアップイベント「AR Service Design Meetup #1」(主催:MESON、共催:サイバーエージェント XRギルド)が、6月21日に東京・渋谷のAbema Towersで開催された。本稿ではその中から、Mirrativの河原崎ひろむ氏によるセッションの模様をお届けする。

▲河原崎ひろむ氏。

■『Mirrativ』の良さはカラオケと同じ構造!?

『Mirrativ』は、スマホ1台で、ゲーム配信とVTuberアバター配信ができるサービスだ。画面収録機能を使うことで、スマホゲームの実況配信やアバターを使った雑談配信ができる。コンセプトとしては、「友達の家で『ドラクエ』を遊んでいる感じ」だ。そこに追加されたのが、今回のテーマである「エモカラ」という機能である。

この「エモカラ」は、アバター配信の途中で曲の選択ができ、BGMと歌詞が流れてカラオケの配信ができるというものだ。こちらはジョイサウンドと提携しているのだが、なぜこんな機能を追加したのだろうか。

河原崎氏が『Mirrativ』のいいと思った部分が、ユーザーの配信/視聴者反応の心理的コストを極限まで下げることができるというところだった。通常のライブ配信では、雑談配信のようなものにはハードルがある。ある程度のトークスキルがないと面白い配信にならず、顔出し配信ではネットに流れるという怖さもある。

それを押し下げたのが、『Mirrativ』のゲーム配信とアバター配信なのだ。フリートークがさほど上手くなくても、ゲーム配信しているだけでなりたつ。視聴者側もそれなりに楽しく見られるのである。

このような、様々なユーザーが投稿するサービスでは、まずこうした部分を抑えていくことが大事だ。その結果、配信者数やユーザー数が日本最大級にまで成長している。配信者比率も高く、ユーザーのうちなんと20パーセントが配信者となっている。

そして、それと同じ構造を持っているのがカラオケであると河原崎氏は考えていた。その時に社長の赤川氏と同じ話をしたことがきっかけで、今年の1月に今回のプロジェクトがスタートしている。

■後から変更出来る部分はできるだけ削った

最初にMVPをリリースするときに気を付けていたのが、とにかく定量的に改善できるところは極限まで削るということだったという。アバター画面にはボタンを置くだけにして、500曲ある選曲画面もただリストを並べるだけにしている。

検索できるようにすれば曲を選ぶ確率なども上がるが、そうしたものは後からいくらでも変更ができる。そうした部分こそ、最初は削っているのである。

それとは逆に、定量的に測ることができない感覚的なところに関しては、できる限り力を入れて作っている。この部分が面白いと思ってもらうことが大事で、検証したい部分でもあるからだ。

例えば元の曲情報にはテンポなどは入っていなかったため、音源から自動解析してアバターのモーションに反映している。さらにミラーボールアニメーションなどの細かい演出も、直前までブラッシュアップが図られている。そもそも、カラオケ配信自体が面白いのかということを検証できるにした。

■企画構想から約1ヵ月で一部のユーザーに公開

そうして、3月に一部のユーザーに限定してリリースされている。ここまでが、企画構想から約1ヵ月という早さだった。

実際にMVPリリースしたところ、熱狂的に利用するユーザーがいることがわかった。KPIが底堅いのだ。長期間になればなるほど熱量が高まるユーザーがいた。これまで、『Mirrativ』では中高生のユーザーが多かった。しかし、少し年齢層が高めの女性など、これまでとは異なる層も取れそうであることがわかったという。

コメントやギフトといった、視聴者エンゲージメントにおいても、既存の配信を超えた箇所があったほか、最低限の広告検証でも獲得状況が良好だった。

これらの結果から、5月22日に全公開することを決定している。

本リリースに向けて、ジャンル絞り込みやアーティスト名絞り込みといった検索機能を追加。それに加えて、紙吹雪ギフトを実験的に追加した。

リリースして気が付いたところは、カラオケ中にあまりコメントが盛り上がらないということだった。そもそもリアルなカラオケでも話をするという行為はあまりしない。そこで、タンバリンに相当するコミュニケーション方法のために追加したのが「紙吹雪ギフト」だった。

そこまで押されることはないと思っていた「紙吹雪ギフト」が、かなり押されて配信が落ちてしまうという自体になった。そこで、リリース初日にすぐに対応している。

1秒間に100~200程押されたという「紙吹雪ギフト」だったが、KPI的にはポジも確認。ユーザーのエンゲージメントや投げられた人のリテンションレートを見ても、悪くはないことがわかったという。

ARやVR、VTuberといった新しいものを作っていくときには、リアルのコミュニケーションで何が行われているかが大事だと河原崎氏はいう。カラオケ屋なら話さないといったことや、タンバリンがあったら叩くというように、コミュニケーションを見つめていくことが大事なのだ。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。