2019
06.03

【World MR News】XRの最前線がわかるセミナー「スタートアップ・トレンド」をレポート!

World MR News

今の世の中で席巻しつつあるテクノロジーやビジネスモデルを取り上げ、ゲストを招いてセミナー形式で最新動向を共有するイベント「スタートアップ・トレンド」の第1回目が、5月16日に東京都の創業支援施設「Startup Hub Tokyo(スタートアップ ハブ トウキョウ)」で開催された。

今回のテーマは「XR」で、TISの森真吾氏、瀬戸内未来デザインの湯浅浩一郎氏、Psychic VR Labの渡邊信彦氏が登壇し、VERSUS代表取締役の山口哲一氏およびParadeAll株式会社代表取締役の鈴木貴歩氏が全体のモデレーターを務めた。

■AR/VR/MRとは&エンタメ寄り事例紹介

TISの森真吾氏から、「AR/VR/MRとは&エンタメ寄り事例紹介」をテーマにXR関連の概要や社会的インパクなどについて紹介が行われた。

▲TIS 森真吾氏。

「Mixed Reality」とは、1994年に発表されたアカデミアによる定義によると、実世界やAR、VRすべてを複合現実感(MR)連続体であるとされている。最近は、これらをまとめて「XR」と呼ぶことが多くなってきた。

VRは、アカデミアによると「本質的あるいは効果としては現実であり現物であること」と定義されている。実際のものがあり、それを再現したものがバーチャルというわけだ。よく「仮想現実」と言われることがあるが、それは誤訳である。ここ最近はヘッドマウントディスプレイデバイスのことをVRと呼んでいるが、定義上では「VR≠HMD」である。触覚やテレイグジスタンス、360度動画なども含めてVRとして扱われている。

VRでは、ヘッドマウントディスプレイを被ったとこで、体験者自身の位置や手の位置を現実世界とリンクさせるために2種類のTracking方式が採用されている。

「Outside-In」では、外部のカメラやセンサーを用いて位置や傾きを検出している。「Inside-Out」はヘッドマウントディスプレイ自体にセンサーが付いており、外部のカメラやセンサーなどが不要なものだ。最近は、「Inside-Out」のほうが主流になってきている。

また、デバイスによりTrackingの自由度がある。こちらには3DoF(Degrees of Freedom)と6DoFの2種類があり、3DoFは首の回転だけ取得できるもので比較的ローエンドのデバイスで採用されている。6DoFは移動も含めて取得でき、VRの中で歩くことも可能だ。また、かおを近づけたときにちゃんと近づくことができる。こちらはハイエンドデバイスで採用されており、体験の質も高くなる。

1年程前にスタンドアロンの3DoFデバイス『Oculus Go』が発売された。こちらは体験の質としてはそこまで高くはないが、低価格で一般の普及を目指したデバイスとして注目を浴びた。その後継機ともいえる『Oculus Quest』が、5月21日より出荷開始されている。こちらはスタンドアロンの6DoFデバイスで、価格が約5万円台からということもあり、期待も高い。

これらVRヘッドマウントディスプレイは、エンタメ分野ではどのように使われているのだろうか? まずは大きく分けて実写360度動画を使うタイプとCGを使うタイプの2種類がある。これらは用途に合わせて機器を選定する必要がある。また、VR機器をユーザーが当たり前のように持つ時代は、まだまだ先の話だ。

最近はVTuberなども話題になっているが、体験者自体は非VRであることが多いため、本セミナーにおいては事例を取り上げなかった。

ARは、アカデミアによる定義によると3つの条件がある。ひとつは現実と仮想の組み合わせ、ふたつ目は実時間で動作する応答性を備えていること。3つ目は三次元的に整合性がとれているものだ。

大きく分けると、「位置型(ロケーションベース)」「マーカー型」「マーカーレス型」のARがあり、これで現実を拡張していく。視覚的な拡張が大半を占めているが、聴覚や味覚といったものも多少ある。用途としては、作業支援やナビゲーション、ゲームまで幅広く採用されている。また、スマートフォンやタブレットなど対応するデバイスが広く普及しているところも大きなメリットである。

エンタメARのポイントとしては、iPhoneとAndroid向けでは通常は別のアプリになる。難しいのが、どうやってユーザーにアプリをインストールしてもらうかという動機付けだ。有名IPを使うなどしないと、なかなかインストールしてもらえないのが現実である。しかし、インストール不要なブラウザで動く「WebAR」といったものも登場してきたので、こちらにも一定の価値があるという。

MRは、3年前にマイクロソフトから発売された『HoloLens』が主流となっている。しかしこちらは、基本的に高性能高価格のB向けデバイスである。視野角の狭さや入力の困難さなどはあるものの、産業界では今後の発展が期待できる分野でもある。様々なデバイスが登場しているが、日本では実質『HoloLens』一択となる。

今年はその後継機種である『HoloLens 2』が発売される。こちらは視野角や表示密度が向上しているほか、手や指を認識しアイトラッキング、虹彩認証、快適性の向上、フリップアップ機能なども備えている。

▲現実世界のライブとMRを融合。サーチライトなども合成で、カメラの動きに追随して動く。

エンタメMRのポイントとしては、デバイス自体は一般に普及する段階ではないため使いどころが難しいと思われるが、アップルやGoogleが手の届く価格帯でウェアラブルデバイスを出してくると、ゲームチェンジャーになる可能性がある。しかし、それをMRと定義するかは微妙なところだ。

光学透過型の場合、現実世界に仮想オブジェクトを重ねるため、透けて見えてしまう。ビデオ透過型の場合は、仮想オブジェクトで現実世界を隠蔽することができる。

まとめとしては、何を提供したいかによってAR/VR/MRのどれを選択するかが変わってくる。ユーザーがわざわざデバイスを買ってくれるかは疑問で、すでにユーザーが所有しているスマホを有効に使うかデバイスが買いたくなるほどの強力なコンテンツを用意することになる。

最後に森氏は、エンタメは1日4時間ほどの余暇時間を奪い合う超レッドオーシャンであり、テレビやSNSと戦っていく熾烈な市場と考えられると述べ、セッションを締めくくった。

■ハードウェア視点からのAR VR MR

瀬戸内未来デザインの湯浅浩一郎氏からは、「ハードウェア視点からのAR VR MR」についてのセッションが行われた。

▲瀬戸内未来デザインの湯浅浩一郎氏。

XRのハイプサイクルは現在幻滅期に入っている。日本市場で6割ほど売れているデバイスが、『PlayStation VR』だ。昨年5月より、Googleのスタンドアロン型ヘッドマウントディスプレイ『Daydream View』が登場し話題になった。そのタイミングに合わせて、スタンドアロンタイプのデバイス『Oculus Go』が発売されている。しかし、一般にまで普及したかというとそこまではいっないというのが、日本の現状だ。

ちなみに海外ではスマホを挿すタイプのヘッドマウントディスプレイは、37パーセントも普及している。それに比べて日本は10パーセント程度だ。『Oculus Go』も売れているといわれているが、発売三カ月で売れたと言われたがそれでも出荷台数は8000台ほどである。同時期に中国では、出した時点で発売日に5万台が完売している。発売日から三カ月で中国とアメリカとも10万台が売れている。

VRで考えなければいけないのが、これからクラウドベースになっていくということだ。そうしたハードウェアの設計から世の中がどうなっていくか見えてくると、湯浅氏はいう。

例としてGoogleが提供する『DayDream』というVRのプラットホームは、様々なデバイスとのクラウド連携が簡単にできるように企画されている。

カメラで撮影したものは、即『Googleフォト』から自分のアカウントで見ることができる。カメラとスマートフォンを繋げて、YouTubeにアップロードすることもできる。さらにすごいところは、3Dで撮影したものを当たり前のように2Dでも見られるようにしているところである。ここからGoogleは今後3Dデータを収集していこうとしている戦略が見えるという。

5Gが主流になってきたときに、3D VRライブストリーミングの販売やフェイスブックなどにある写真も、どんどんVR化されていくのだ。

最近外資のVRストリーミング配信会社で大規模なレイオフが行われるなど、という話も耳にする。実際にVRのハードを売ろうとしたときも、新商品が出たときは売れるがロングテールで売るのは難しい。しかし、Nintendo Switch向けの『Nintendo Labo』に『VR Kit』が加わるなど、いいニュースも出てきている。ちょっと我慢すれば、ハードウェアと回線のクォリティがうまくマッチして、いいサービスが提供できるようになる時代がやってくるのだ。

最後に湯浅氏は、「フェイスブックがOculusを買収したときから、ゲームチェンジは始まっている。VRは、最終的にはクラウドサービスを提供している会社のサービスを体験するデバイスになっていく」と語り、セッションを締めくくった。

■空間を身にまとう時代に向けて STYLYが作る世界とビジネス

Psychic VR Labの渡邊信彦氏は、「空間を身にまとう時代に向けて STYLYが作る世界とビジネス」と題したセッションが行われた。

▲Psychic VR Labの渡邊信彦氏。

同社では、少し先の未来に空間を身にまとう時代が来ると考えている。その身にまとう空間の単位を「レイヤー」と呼んでいる。これは、空間をレイヤー構造のように考え、レイヤーを入れ替えて仕事をしたり、別のレイヤーではリラックするなど、環境を入れ替えるというような発想である。

2019年になり、XRデバイスを掛けているのが普通になる時代がやってきていると渡邊氏はいう。しかし、個人が購入するのはもっと先で、現在はホテルや公共機関に置かれているという感じだ。『Oculus Quest』が発売されるということもあり、実際に目にする機会も増えてくるという。

これが2030年ぐらいになってくると、空間自体をOSにして、その上で何かを行うという時代がやってくると考えている。XRの歴史をスマホに置き換えてみると、2016年あたりはブラックベリーで、現在はAndroidが登場してデバイスの価格が下がってきた時代という感じだ。2025年には常時接続のウェアラブルになり、最終的にはIoTで様々なデバイスが街と繋がるようになり、街の中でMRやARで情報がストレスなく見られるようになる。こうした時代は何十年も先ではなく、この10年ぐらいで訪れると考えている。

2019年以降、XRデバイスはライフスタイルの中で利用されるようになっていかなくてはダメだと渡邊はいう。わざわざQRコードを読み取って情報を見るのではなく、知りたいことはわかっているので常に表示しながら買い物や街を歩いたりできるようになってくるのだ。

昔、自宅の大きなステレオで音楽を聴いていたときは、持ち出せるものではなかった。それが『ウォークマン』が登場していつでも持ち出せるようになり、それがファッションになり、音楽を聴くことで歩いている風景や日々を、様々な形で変えることができた。

iPhoneは、コンピューターを持ち出すことでライフスタイルを変えている。昔は駅で待ち合わせるときに掲示板を利用していたが、今は「○○駅で○時ぐらい」というアバウトな予定でも問題なくなってきている。

生活の中にMRが入ってきたときに、ビジネスがどう変わるか。VRは店舗体験やWOW体験が終わり、やっと現在はライフスタイルに組み込むためのクリエイティブプラットフォームが必要とされているに来ている。その中で、みんながコンテンツを作る時期だ。この時代にYouTubeはスマホによって簡単に録画でき編集が可能なツールがあったころこそがあり編集ができるようになっていたからこそ、民主化したのだ。VRにもそんなツールが必要だ。

同社では、「空間を作る」ということが民主化しないかぎりライフスタイルには入ってこないと考えている。そこで、身にまとう空間を事業にしている。

インターフェイスはまだまだ洗練されていない。空間なのに平面のディスプレイを表示して操作しているというものがあるが、今は過渡期であるため、こうしたものもどんどん変わっていくはずだ。

今、10億人が1日に8時間携帯電話を触っているといわれている。この約3兆時間ものメディアを空間というメディアが一気に取りにいこうとしている。そこを狙っているのが、フェイスブックやGoogle、SnapChatなどだ。

大きな変革を迎えるにあたり、圧倒的に足りないものがある。多様なデバイスに対応する必要があったり、回線が遅かったりなど様々な事情があるが、それらを解決するために同社では『STYLY』という配信プラットフォームを展開している。

YouTubeが登場してiPhoneで簡単に撮影できるようになり、みんなが編集して簡単に動画投稿ができるようになったのと同じように、ドラッグ&ドロップで空間を作ることができ、アプリケーション不要のブラウザで動き、MacBook AirやWindows7でも動くサービスを提供している。これはクラウド技術を利用していることで実現したもので、そのビューワーとしてPCを使っているのだ。

『STYLY』では、3つのイノベーションを起こしている。ひとつは、3ヵ月程掛かっていたリリースがわずか3分で終わらせることができるところだ。また、3Dスキャンを数百円レベルまで下げるようなイノベーションを行っている。さらに、アプリを落とすのではなくストリーミングでVRが体験できるようにしている。

一般的なXRデバイスに対応しているため、VRストリーミングで簡単にコンテンツを楽しむことが可能だ。

先ほどの3Dスキャンだが、まだまだコストが掛かる。同社が起業した頃は1億円ほど掛かったが、現在は1000万円で販売している。数年後にはその半額程度にはなりそうだ。プリクラの機械が300~400万円ほどと言われているので、3Dプリクラができるような時代も、そのうちやってくるかもしれない。

同社の3Dスキャナには125個のカメラが設置されており、わずか2秒で撮影することができる。洋服の質感なども、無修正でも十分なクォリティで撮影できる。また、撮影したものにボーンを入れることで、踊らせることもできる。

3人のトークセッションは、今後xRがどう進化していくかを考えるヒントにもなるものだった。ハードウェア、ソフトウェアの双方から大きな注目を集めているxRだが、今後もしばらく目が離せなさそうである。

技術自体はこのように発展してきており、これらを使って見たいと思わせるコンテンツを作ることができるかが重要なのだ。そのためには、みんながこうしたものを作れるようにしていく必要があるのだ。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。