03.27
【World MR News】伝説のARアプリ『セカイカメラ』を最新テクノロジーで作ったらどうなる!?――「Tech-on MeetUp#05」レポート④
Tech-on ~Networking for Techies~は、3月11日に東京・渋谷のTECH PLAY SHIBUYAで「Tech-on Meet Up #05」を開催した。本稿ではその中から、Still Day Oneの小島英揮氏とカブクの高橋憲一氏によるトークセッション「AR今昔 ~セカイカメラから10年、最新テクノロジーでARはどうなる?」の模様をレポートする。
現実世界にタグ付けする『セカイカメラ』
高橋氏は、10年ほど前に大きな話題を呼んだARアプリ『セカイカメラ』の開発に携わっていた人物である。今年の2月に開催されたAndroidの開発者が集まるカンファレンスで、「あのARアプリを2019年の技術で再現する」という試みが行われたことがきっかけで、今回の小島氏と高橋氏のトークセッションが実施されることになったそうだ。
現在は第三次AIブームと呼ばれているが、過去に何度もブームが来ていたがビジネス的にはものにならなかった。それは、AI単体でビジネスになる素養がなかったからだと小島氏はいう。クラウドが登場した2006年よりイノベーションが始まり、モバイルとビッグデータが伸び、AIの技術が始めて商用になりそうになってきたのが今の状態である。
つまり、テクノロジーだけではダメで、ビジネスとしての素養が重要なのだ。クラウドがありモバイルがあり、それらの上に乗っかっているのがAIやIoT、XRだ。
今回のテーマでもある『セカイカメラ』は、カメラに写したリアルな世界に「エアタグ」と呼ばれるCGのオブジェクトを、写真や文字など見えているものをタグ付けするイメージで、その場所におけるというアプリだ。この「エアタグ」は、タップすることでフォルダを開くように大きく情報が表示されるようになっていた。
そこでユーザーが得られるものは、その場所に行ったという証拠が残せるということだと高橋氏はいう。中には、子供の成長記録をエアタグで残していた人もいたようで、残念ながらサービスが終了してしまったことに対してくやしさがあるという。
今の視点でいうと、まさにARアプリといった感じだが、こちらはすでに10年前にサービスされていたものだ。
ちなみにこの『セカイカメラ』で必要な機能には、カメラプレビューの表示とその上に乗せるCGのオブジェクトである「エアタグ」の表示。「エアタグ」自体も何も作れなければ表示されないため、テキストを入力したりイメージを撮影する機能、そしてそれらを緯度経度に結びつけるための位置情報の取得などだ。
当時はUnityなどの便利なツールは使っていなかったため、様々な言語を使用して作られている。特にAndroidはパフォーマンスが引き出しにくかったため、Javaだけでは出来ず、C++なども利用されている。
高橋氏によると、『セカイカメラ』の課題はマネタイズ出来なかったことだった。「エアタグ」に広告を入れようと考えたときに、不動産屋と提携して近隣の物件情報を見られるようにした。そうしたところ、うまくフィルタリングができず、物件情報ばかりで溢れるようになってしまい、ユーザーからは「不動産カメラ」と揶揄されることがあったそうだ。
膨大な情報をその人に合わせて取捨選択して表示するという、UXがうまく作れなかったのが失敗してしまった原因になったというわけだ。
現在はサーバサイドのコードは一切書かずに済む!?
この『セカイカメラ』を、現在のテクノロジーであえてUnityを使わずにAndroid向けに作るとした場合、ARCoreとSceneformを利用することで、カメラプレビューの上にCGを重ねるといったことが簡単に作ることができる。
しかも、今回の実験ではサーバサイドのコードは一切書かなかったそうだ。凝ったことをやろうとするとコードを書くことも必要にはなるが、「エアタグ」をサーバサイドに保存して、今いる地点を中心に半径1キロメートルのデータを端末側で取得するということならば、コードを一切書かずに実現できるのである。
「C++でコードを書いていた時代と比較すると、XMLでレイアウトを書くようにさらっと作ることができる」と、高橋氏。今回はJavaでコードを書いているが、もちろんUnityでも作ることは可能だ。
Android Studioのプラグインで、3Dモデルのインポートが出来るが、これがないと膨大なコードを書く必要があり、かなり役だったようだ。
エアタプを描画するにはUnityを使ったときのほうが多くコードを書くことになりそうだが、とはいえUnityを外すことはできないと高橋氏はいう。『セカイカメラ』を作っていた頃は、「OpenGLを直接使って自分で書けるし、こんな素人が使う物はいらない」といっていた時期もあるそうだが、現在はUnityの書籍まで出しており、当時の同僚からは驚かれているという。
Unityは3Dアプリを制作する敷居を下げ、プロフェッショナルの人もよりよい物が作れるツールとして使えるのである。
冒頭の話にも出たAIも、クラウドやビッグデータと共に進化している。スマートフォン自体もハイパワーになってきたことで、新しいアプローチでARを実現するものも出来てきた。
たとえば『InstaSaber』というアプリは、普通のA4の紙を丸めて筒状にして撮影するとライトセイバーになるというものである。これは、筒とそれを持っている手の画像を機械学習で認識した後に、その先にある部分をCGで描いているのだ。
同様の技術はビジネスでも応用されており、『Wanna Kicks』というアプリでは、足の形を機械学習で認識して欲しい靴のイメージを被せて表示することができる。こうした技術は、ほかにもネイルやジュエリーなどでも登場してきている。
単にCGを重ねるのではなく、その中に映っているものを認識して何かをするという流れになってきているのだ。
10年前に苦労して作っていたセカイカメラも2019年の技術を使うとかなり楽に作ることができる。高橋氏は、「作る敷居が下がったことで、アイデアさえあれば誰にでもできると」と語り、本セッションを締めくくった。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。