03.26
【World MR News】VR焚き火シミュレータの工夫&Oculus Store申請でハマったポイント――「Standalone VR Meetup #01」レポート①
3月18日に、東京・六本木のDMMグループセミナールームで、スタンドアロンVRに関連した知見やアプリに関する情報を共有するイベント「Standalone VR Meetup #01」が開催された。前半と後半合わせて8組の発表が行われたが、本稿ではその中からオレノディナー氏と田村祐介のふた組みの発表をピックアップしてご紹介する。
■VR焚き火シミュレータの技術と工夫
オレノディナー(@oreno_dinner)氏がテーマにしたのは、「VR焚き火シミュレータの技術と工夫 ―個人制作の情熱編―」だ。
オレノディナー氏がリリースしたアプリが、Oculus Go専用VR焚火の『BONEFIRE』である。こちらは、焚き火をVR空間で楽しむといった内容のアプリで、周りにある薪を拾って火の中に入れることができるというものだ。
外部ファイルでVRMのファイルを読み込むことができ、表示することが可能だ。また、MP3を朗読することもできる。こちらはリップシンクにも対応している。
今回の発表で、オレノディナー氏が伝えたいと考えたポイントは、「限られた時間でVR作品を作り上げるコツ」だ。個人制作では限られた時間内に作業を行うことになるが、それを念頭に置いて妥協するものと注力するものの選択が大事だとオレノディナー氏はいう。
この『BONEFIRE』では、何に注力して何に妥協したのだろうか?
まずは見た目にも影響する「ポリゴンモデル」だ。こちらは『Blender』で制作している。モデルは、基本は豆腐で問題なくテクスチャなどは豪華にする必要はない。むしろ、それが負荷低減になるという。
複数のアセットを混ぜてしまうと、ちぐはぐな感じになってしまいがちだ。それらの微調整をしたいと思っても、自分が作ったものではないため大変な作業になってしまう。つまり、修正を前提にするなら自作モデルの方が楽というわけだ。
人型も人間に擦る必要はなく、豆腐でも問題ない。灰色のゴツゴツしたものが、茶色のプレーンに乗っていれば岩。炎に茶色い棒があれば薪なのだ。しかし、ライトと影は大事だという。影がある豆腐とない豆腐では大きな違いが出てしまう。
ライトの位置も重要な要素で、オレノディナー氏は、立体感を出すために、いろいろとライトの位置を探したそうだ。また、負荷が高かったものの、焚き火で光量が増減する要素は、なくしてしまうとぐっとこなかったためはずせなかったという。
次注力したのが「音」だ。VRは音で世界の実在感が圧倒的に増す要素でもあるため、かなり重要となる。だが、自分で作るのは大変だと考え最初から探し回ったそうだ。
今回は、空間音響にする「Oculus Audio」はVRMモデルの朗読にしか使用していない。これは未確認ではあるが、処理が重そうと感じたことと、3DoFということもあり、朗読以外はすべて正面で音がなる。そのため、バイノーラル音源がそのまま使えるところもメリットと感じたとのこと。
次は「コントローラーとボタン」だ。Oculus Goには、コントローラーはボタン付きタッチパッドとトリガーしかない。しかも、タッチパッドの精度はさほど高くはない。そこで、ふたつの作品を参考にしている。
ひとつ目は『Virtual Virtual Reality』だ。こちらはタッチパッドのフリックで、コントローラーモードの変更ができる。また、ボタン押し込みとタッチパッドの座標検出による仮想増やしはかなりお手本ととして優秀で、使ってほしいという。
もうひとつは『Dead and Buried』だ。こちらは、コントローラーを捻ることでリロードできる部分を参考にしている。ジェスチャーっぽいので、簡単に実装できる良いお手本だという。
このように、工夫次第でもボタンの代わりになる物は増やせるものの、やはり数は少ない。責めてバックボタンは自由に使わせて欲しかったとオレノディナー氏。
続いて、重い処理で工夫した点が紹介された。Oculus Goでは常時60FPSが要求されているが、スペック的に厳しいところがある。そこでいろいろ試し、一番効果があったのはマルチスレッド レンダリングとシングルパス ステレオ レンダリングだった。そのため、できるだけ、これらに対応したシェーダーを使った方がいいという。
可能な限り先読みしており、シーンの開始時はフェードインでごまかす。OnCollision判定は、判定されるオブジェクトが増えると処理が重くなる。そこで、今回は速度変化で判定したところ、処理が軽くなったそうだ。また、人は動きには敏感だが変化には鈍感なところがある。そのため、色や形状などの変化は前処理をしなくても問題ない。
次に演出のポイントだ。個人制作では、作業可能量が少なくなってしまう。そこで、作業量に対して効果が大きかったコスパのいい演出が紹介された。
まずは「見た目より動き」。ポリゴン数やテクスチャよりも、動きのほうがぐっとくるという。つまり、挙動や世界観の統一のほうが重要ということだ。薪の増減による炎と音の変化、薪が崩れて灰になる動き、飛んでくる薪の回転具合、飛んでくる火の粉が舞う動きなど、同じ制作時間をかけるならば、動きや挙動にこだわった方がいいとオレノディナー氏はいう。
続いては「予告」だ。予告がないと、ユーザーはびっくりしてしまう。そこで、薪が飛んでくるときに、いったん真上に打ち上げて白い高架線が出るようにしている。オープニングチュートリアルがくる前に、音を鳴らしている。
また、焚き火に集中させる物の配置にも気を使っている。焚き火はもちろんだが、薪小屋も視界に入るようにしている。これは薪をくべてもらいたいからだ。しかし、近くだと気が散ってしまうため、いろいろと試行錯誤をしているそうだ。
最後に、個人制作においてアルファテストは超大事だとオレノディナー氏は力説する。フィードバックは参考にもなるうえに、モチベーションも上がる。また、操作方法の変更はリリース前にしたほうが絶対にいい。多くの人に試してもらい、最適な操作方法を決めた方がよいのだ。
■Oculus Storeへの申請で、わたしがハマった5つのポイント(Oculus Go向け)
田村祐介(@tamusan100)氏は、「Oculus Storeへの申請で、わたしがハマった5つのポイント」をテーマに、ストア申請の苦労話が共有された。
普段はデザイナーをしているという田村氏が、初めて作ったVRゲームが『Halloween Shooting』だ。これは魔法の杖から炎を出して、カボチャのオバケを倒していくといった内容の作品である。また、目線入力で矢を投げるVRダーツの『Eye Love Darts』や、カラー神経衰弱から着想を得た子供向けのVR色当てゲーム『Color Ball Picker』なども制作している。
このようにいろいろと作品を作っている田村氏ではあるが、アプリのステータスは「キーの承認のみ」となっている。これは、アプリの配布はできるがストアには掲載されないという状態だ。つまりストアの配信には至ってはいないのだが、「初心者がハマるポイント」の知見共有として、今回の発表が行われている。
Oculus Storeにアプリの申請をするときに、やたらと画像枚数が必要など、いろいろと面倒なところが多い。しかし、丁寧にテクニカルレビューをしてくれるという。要件を満たしているところとダメなところがわかりやすく書かれており、基本的にはそれを順番に直してことになるというわけだ。
ストア申請でハマった5つのポイントのひとつ目は「Backボタン」の対応だった。初心者だった田村氏は、自分で「Backボタン」を割り当てる必要があることをこのときに知ったという。
ふたつ目は、「両方の利き手に対応しなければならない」というところだった。利き手が左手に設定されているときに、ポインターがへんなところから出てバグってしまうと指摘されている。
サンプルなどではありがちだが、インスペクターから直接「RightHandAnchor」を設定していたのが原因だった。そこで、あらかじめコントローラーの位置を取得し、魔法の杖の位置を自動で合わせるように変更している。
3つ目は「過度の権限要求はNG」というところだ。レビューに「あなたのアプリは、過度にユーザー権限(オーディオ・マイク)を要求しています。不要な権限を削除してください。もし必要なら、理由を説明してください」といわれ、理由がわからなかったという。
音は出しているためオーディオはともかく、マイクは使用しない。そこで調べたところ、「Oculus Integration」のいくつかのファイルが悪さをしていたようで、それを削除したところ通ったという。
ここまでが1回目のレビューだった。それらを直して出したところ、2回目のテクニカルレビューでも「両方の利き手に対応しろ」と言われたという。左利きの場合、炎を出せるがコントローラーが消えてしまい、メニュー上で何も出来なくなってしまっていた。
その原因は、「LeftHandAnchor」の設定が、初期状態で右手のままになっていたからだったという。
3回目のテクニカルレビューでは、「あなたのアプリは、ストアで発表して幅広いオーディエンスに届けるのに、限られたコンテンツです」というような、ふんわりとしたような回答だったという。
検索しても情報がなかったため、「Oculusデベロッパー助け合い所」で聞いてみたという。
そこで「リミテッドコンテンツ」の解釈が、ボリューム不足のことを指しているのではないかと教えてもらったという。Unityの勉強始めたばかりで1面しかなかったため、そうしたことも原因として考えられる。
また、ゲームとしては怖くない物のホラー風ではあるため「年齢的に限られている」ということも考えられる。さらに、遠回しに質が低いと言われているということも考えられたが、いったんレーティングを引き上げてみることにした。すると、数日後にキーの承認が通り、そこで力付きてしまったそうだ。
「Common Oculus Store Review Submission Issues」には、様々なあるある話が書かれているため、目を通しておいた方がいいと田村氏はいう。また、英語のみだが「Oculus Discussion Forums」も翻訳でなんとかなるので見ておいたほうがいいそうだ。先ほどの「Oculusデベロッパー助け合い所」も、書き込んだら助けてもらうことがあるためチェックしておいた方が良さそうである。
最後に田村氏は、「次にVRアプリを作るときはストアに並べてもらうぞ」と力強く語り、締めくくった。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。