02.14
【World MR News】先進コンテンツを活用した多産業展開――「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」レポート①
経済産業省・映像産業振興機構は、VR/ARコンテンツの活用や産業間での新規事業マッチングを促進する目的のセミナー「VR・AR活用全国セミナー関東・さいたま新都心」を、2月7日にさいたま新都心合同庁舎1号館 1号館講堂で開催した。
本稿ではその中から、映像産業振興機構 榊原晋氏によるセッション「先進コンテンツを活用した多産業展開について」を中心にお届けする。
ちなみにこの日のイベントは「観光・文化財×VR」「歴史再現・文化財×VR」「建築・製造業×VR/MR」「会議×VR」などVRやARの体験会も行われており、多くの人たちが列を作っている姿が見られた。
VR/ARが日本の諸問題を解決する未来も
はじめに、今回のセミナーを共同開催している経済産業省から、「コンテンツを見る視点」についての紹介が行われた。
働き方改革や生産性革命が進む中で、デマンドサイド(需要側)ではライブワークバランスが変化。これにより余暇が増加して、娯楽消費が増大してきた。また、サプライサイド(供給側)では、AIや機械が担うことができない、高度な創造性が求められるようになってきた。
これらの状況から、近い将来クリエイティブな人間の経済活動が価値化する経済社会が到来し、コンテンツ産業の重要性も高まるという。
コンテンツの市場は、余暇市場消費市場だ。動画やゲーム音楽といったコンテンツと、スポーツ、旅行や観光、外食など可処分時間の奪い合いとなっている。また、コンテンツのデジタル化に伴い、メディアなど流通チャンネルも劇的に変化している。
余暇時間を時間と空間の関係で考えると、スポーツや外食、観光などのフィジカルな要素を持つ体験は、空間と時間の双方を同時に消費する。これに対して、コンテンツはノンフィジカルであるため、空間と時間の自由な持ち運びや切り出しが可能だ。
また、コンテンツと体験の融合による、新しいコンテンツも台頭している。これは、音楽におけるライブやゲームにおけるeスポーツのように、フィジカルとの融合がマネタイズのキーとなってくる。
VRやARは、PCやモバイルに続く、第3のプラットフォームとして社会を変えていくものになると期待されている。少子高齢化や都市部への人口集中など日本が抱えている諸問題に対して、VRやARによる新たな価値体験がなんらかの解決に繋がることも、将来ありうるのだ。
時代にあわせてコンテンツのニーズが変化してきた
コンテンツとして、世界最古のもののひとつに壁画がある。約6万5000年以上前に、旧人類のネアンデールタール人によって描かれた、スペイン北部にあるラパシエガ洞窟の壁画が最も古いものと言われている。
その後ときは流れ、1825年にフランスでフィルムが誕生。1895年には、ルイ・リュミエールによる世界初の短編モノクロ映画『工場の出口』が公開されている。こうしたもので目指していたものは、「時間・空間を超えて再現したい」ということだ。
元々日本ビクターに務めていたという榊原氏は、「あたかも自分がそこにいるかのように再現するために、コンテンツをアナログからデジタルにしました。音楽もデジタル化しました。画面も、アナログ時代からSDがHD、FHD(2K)、4K、8Kのテレビ放送が始まりました」と語り、これらを「デジタルコンテンツ1.0の基軸」と定義している。
こうしたものから、ニーズに変化があることがわかってきた。世の中が望んでいるモノや変化していることへの対応が必要なのだ。そこで榊原氏が思い出したのが、3人組テクノポップユニットの「Perfume」だったという。「Perfume」は口パクで声が電子化されている。パッションがあり踊りがあり、レーザー光線があり、映像を瞬時に加工して、リアルなものとマージさせるテクノロジーを使っている。あたかもそこにいるだけのものではなくなってきているのだ。
Perfumeに限らず、スポーツ・エンターテイメント分野でも、最近様々なアングルから映像の視聴ができるようになるなど技術革新も進んできている。このように、コンテンツのニーズが全体(Common)から個(Personal)へと変化してきているのだ。これは映像コンテンツ業界だけではなく、家電や医療、介護、旅行、教育、訓練など様々なサービス分野へと広がってきているのである。
インターネットが普及してインタラクションできるようになり、ブロードキャストからピア・トゥ・ピアになったところで、世の中が大きく変わってきた。コンテンツ自体も2Dから3Dになり、VRやAR、MRというXR技術が広まってきた。そこに、AIやブロックチェーンといった新技術が入ってきている。
デジタルコンテンツ4.0は多産業展開に
コンテンツは、ただ単に見たり記録したりするだけのものではなくなってきており、パソーナル化されて個人に最適なものになってきた。「デジタルコンテンツ2.0」では、インタラクションなものが登場し、ゲームやシリアスゲーム、SNSが発展した。
「デジタルコンテンツ3.0」では3D化され、映画やスポーツ、エンターテイメントなど多産業展開が行われるようになってきた。そして「デジタルコンテンツ4.0」では、XRにAIが加わることで教育(トレーニング)や安全、バーチャルな空間に軍事、エンターテイメントなど多産業展開が拡大してきている。
榊原氏は、「デジタルコンテンツ4.0」で解決したい課題や目指したい対応は、見えてないものを見えるようにする「可視化の対応」であるという。見えるようにしたものをデジタル化することで、データとして扱えるようになる。そのデータを蓄積して分析することで課題が見えてくる。これにより、PDCAサイクルが回せるようになるというわけだ。
また、体験することで見て理解していたものよりも認知度も経験値も上がる。こうしたものでも、社会課題や事業課題を解決することができる。さらに、遠隔に対応することで、離れた場所にいる人とコミュニケーションができたり、手術など具合が悪い人への対応が行えたりもする。
コンテンツ活用事業では分析が重要
発信側は、昔はブロードキャストが中心だったのが、インターネットやSNSの拡大で、個から全体へ、あるいは日本から世界へという形に変わってきている。マーケティングも双方向になり、物販では大きなビジネスになってきている。
コンテンツ活用事業においては分析が重要だ。コンテンツを作ってそれを正しい人に届け、その結果を分析することで、次のPDCAサイクルの改善ポイントがわかる。XRソリューションは、すでに企業に革新をもたらしていると榊原氏はいう。そうしたところに、AIとコラボレーションすることで、あらゆる企業レベルに変革をもたらすことができるのである。
企業や社会が持っているそれぞれの課題を解決するひとつの手段として、VRやARを活用することができる。プロモーションやエンターテイメント、アーカイブだけがコンテンツではなく、産業のインフラとして活用するものがコンテンツとなるのだ。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。