02.14
【World MR News】Mixed Realityを活用して第一線現場の業務を支援・高度化する――「ENEX 2019」レポート②
一般財団法人省エネルギーセンターとJTBコミュニケーションデザインは、1月30日から2月1日の3日間、東京ビッグサイト東1・2ホールで「ENEX2019 第43回地球環境とエネルギーの調和展」(以下ENEX2019)を開催した。本稿ではその中から、ポケット・クエリーズのセッション「【東京電力HDとの共同研究】Mixed Realityを活用した第一線現場業務の支援・高度化システムについて」についてレポートする。
MRで働き方を改革するソリューション『QuantuMR』
ポケット・クエリーズが東京電力ホールディングスと共同開発を行っているのが、MRソリューションの『QuantuMR(クァンタムアール)』だ。これは、MRを活用した将来像のコンセプトを共有して、共同でソリューションの開発を行うということで双方の意見が一致したところから始まったものである。
東京電力ホールディングス側では、事業環境の非連続的な変化という背景があり、付加価値の高いサービスを提供するために現場技術を強靱化していく必要があった。また、ポケット・クエリーズ側ではAR・VRを社会に浸透させたいという思いと、ゲームの力とMixed Reality(MR)技術を融合することで、働き方改革を実現させ、MR技術を社会展開していきたいと考えている。そこで生まれたのが、MRソリューションの『QuantuMR』だ。
この『QuantuMR』は、サーバソリューションとマイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』(タブレットやPCも含む)を使用して、MR領域の「リモートコミュニケーション」と「インストラクション」をパッケージ化したソリューションである。
『QuantuMR』では、変電所内などの現場で、そこにある施設に合わせて情報を表示させることができる。また、遠隔地にいる管理者ともリアルタイムでコミュニケーションを取ることができるのが特徴だ。
たとえば、現場に行ったときにどこに向かえばいいのかといったナビゲーションも、現実空間に重ねる形で表示することができる。また、点検箇所に着くとどこをチェックすればいいのかも『HoloLens』を通して確認することが可能だ。
点検箇所には、実際の作業手順やマニュアルも表示することができるため、迷わず作業が行えるようになっている。さらに、作業項目についても『HoloLens』でチェックしていくことができ、従来まで紙で行っていた多くの作業をデジタル化している。こうしたことにより、最小限の荷物で済み過去のチェックシートやマニュアルなども持って行く必要がなく、両手を自由に使えるというメリットも生まれている。
遠隔で支援する管理者側では、作業者の位置や見ているところなどもモニターすることができる。声でのやりとりが行えるほか、メーターなど特定の部分を確認してもらいたいときに、空間上の特定の場所に丸などの目印を付けてわかりやすく指示することも可能だ。
『HoloLens』は、「エアタップ」と呼ばれる手のジェスチャーで操作を行うことができる。そのため、専用のコントローラーなどを持ち歩く必要はなく、その場の空間上で指を広げることでメニューを表示できるほか、画像の操作も行うことができる。
MR空間での使い心地の良さも追求しており、新概念のユーザーインターフェイスについても実証実験を行っている。そこから出てきた要望や課題を聞き、アップグレードを続けているところだ。
『QuantuMR』は、電力業界以外でも採用されている。JAXAとの取り組みでは、1月17日に打ち上げられた「小型実証衛星1号機(RAPIS-1)」の広報PR用として、『QuantuMR』を採用しており、通常は見る機会が少ない衛星を『HoloLens』を通して実寸大で見られるようにしている。
ポケット・クエリーズが提示する未来業務イメージ
それぞれの企業には、業務が属人化してしまい、若い社員に伝えることができなかったり、人材が不足していたりするなど、カイゼン(省力化)や技能継承、多能工化などの課題がある。それを実現するために同社では、「MIRAIoT(ミライオ)」という言葉を考え、Mixed Realityが導く未来のファーストラインワークの実現を提案している。
これは、「現実」空間の「現地・現物」情報を取得して、ディープラーニングによる統計分析と「ナレッジ化」を行い、「現地・現物」と「ナレッジデータ」を統合して表示・記録するというものだ。
こうしたものを実現するための技術は、同社がこれまでオンラインゲーム開発などで培ってきたサーバ技術などの知見が活かされている。オンラインゲームでは大量のプレイヤーが参加し、多くのデータを裁いていく必要がある。それと同じようなサーバ技術が、必要となるのである。
昨今、現実世界の製品やモノをバーチャル世界などにコピーする「デジタルツイン」という言葉を耳にすることが多くなったが、同社ではその上をいく「デジタルトリプル」を提唱している。
「デジタルツイン」のインフォメーションワークとファーストラインワークに加えて、研修現場などの「バーチャルファーストラインワーク」を追加している。作業の流れと情報の流れを繋げることで、多くのことができると考えているのだ。
情報の取り組みについては、画像認識やAIなどを活用し「空間と状態の解析」「モノと状態の解析」「ヒトと行動の解析」を行っていく。こうした行動データや学習データを取り込んでいき、それを解析して貯めていく。そうすることで、必要な情報が蓄積されていくという感じだ。
現在東京電力ホールディングスと行っている実証実験では、本格運用した際に熟練者に『HoloLens』を付けて作業をしてもらい、作業手順や行動などを記録していく。そうして蓄積されたものを、若手に展開していく予定だ。このように、『QuantuMR』は技術の継承をしてくための手段として作られているのである。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。