2019
02.04

【World MR News】松戸市コンテンツ事業社連絡協議会主催でMRに関するトークイベントが開催

World MR News

松戸市コンテンツ事業社連絡協議会が主催するトークイベント「クリエイティブ系ワーキングスタイル・トークセッション」で1月19日、株式会社ポケット・クエリーズ代表取締役の佐々木宣彦氏が登壇。メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏をホスト役に、「VRの向こう側 MRのあるべき姿を求めて」と題して対談形式の講演を行った。トークは佐々木氏の経歴からポケット・クエリーズ創業の経緯、XR事業のビジョンなど多岐にわたり、会場からも活発な質疑応答がおこなわれた。

松戸市コンテンツ事業社連絡協議会はコンテンツ産業振興事業の一環として、市内のコンテンツ事業者を中心に2016年3月に設立された事業者団体。クリエイティブ系ワーキングスタイル・トークセッションは松戸市のゲーム会社ディッジがプロデュースする多目的スペース「DH-Movie」で定期的に開催されているもので、今回で10回目を迎える。サブテーマに「エンタテインメントの入り口はひとつじゃない……!?」が掲げられており、毎回多彩なゲストが登壇する。

黒川文雄氏(左)と佐々木宣彦氏(右)

トラックの設計から一転してソフトウェアの世界に挑戦

トークセッションは佐々木の経歴を振り返るところからはじまった。三菱ふそうに入社後、トラックの設計を行っていたものの、「生来の空きっぽい性格(佐々木談)」からソフトウェアに関心がむき、会社を退職。以後数度の転職を経て、2010年にポケット・クエリーズを創業するに至った佐々木。もっとも、その時は「特に強い思いや勝算があったわけではなかった」という。事業も老人ホームの検索アプリなど、実用系ソリューションのスマホアプリ開発が中心だった。

そんな中、出会ったのが日本に上陸しつつあったUnityの存在だったという。さっそくダウンロードして使用してみたところ、その先進性に驚かされた。「当時は日本語の解説書が出たばかりで、英語のドキュメントを見ながら自分なりに使い方をマスターしていきました。Unityの勉強会で講師をしながら、そこで出会った人から仕事をいただくという営業スタイルが、当時の鉄板でした」(佐々木)。そうした中から徐々にゲーム会社からの依頼が増え、IT企業からゲーム会社へと事業転換を進めていったという。

続く転機となったのが2013年に発売されたVR HMDの「Oculus Rift」だった。「過去に自動車会社のVR施設向け制御ソフトウェアの開発などにも携わっていたため、VRが個人用のPCで開発できる点に衝撃を受けました」(佐々木)。さらに第三の転機となったのが2016年に発売されたマイクロソフトのホロレンズだ。VRでもARでもない、MRに大きな可能性を感じ、日本発売前から先行して研究開発を開始。2018年5月には国内ゲーム会社で初となるMicrosoft Mixed Realityパートナープログラムの認定も受けるに至った。

ゲーミフィケーションで付加価値を高める

このようにVR・MRコンテンツの開発を通して、徐々にポケット・クエリーズの事業内容も、ゲームの受注開発からソリューションベンダーに回帰してきたと語る佐々木。もっとも、そこにはゲーム開発で培った、操作をわかりやすくしたり、人を夢中にさせたりするノウハウが大量に投入されている。公式ホームページにも「『ゲームのちから』 と 最新の『Mixed Reality(複合現実)技術』の融合により、全人類の限りある時間の有効活用を図り、産業の創造に貢献します」とミッションを掲げているほどだ。

こうした中、東京電力ホールディングスと共同で2018年5月に発表したのが、MR活用ソフトウェア「QuantuMR(クアンタムアール)」の研究開発だ。工場などの現場でホロレンズのディスプレイ上に機器の操作説明やアラートを表示するなどして、現場での作業性を向上させたり、レポート作成や本部へのデータ転送を支援したりするもので、オペレーター側のPCと現場作業者との間で、リアルタイムなやりとりもできる。すでに基礎開発は終了しており、2019年度は現場で活用しながらの実証実験も予定されている。

会場では宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協業事例についても紹介された。1月18日のイプシロンロケット4号機打ち上げに先立ち、2018年12月の記者発表用に用いられたMRコンテンツだ。ロケットに搭載された「革新的衛星技術実証1号機」に内蔵された7つの人工衛星の機能をMR技術を用いてインタラクティブに説明するというもので、記者発表では実際に記者がホロレンズを装着して、コンテンツを体験する機会も設けられた。いずれもゲーム開発で培ったノウハウが生かされた形だ。

MRとAIとIoTで社会を変える

他に質疑応答では2018年10月に発表された、HEROZ(ヒーローズ)との資本提携についても説明された。HEROZはAIエンジンの構築・提供を行っており、ポケット・クエリーズの「高品質なグラフィックや表現力、演出力」と組み合わせることで、大きな可能性が開けるという。具体的には工場のアナログメーターなどをMR技術で読み取り、針の動きを機械学習で画像認識させて数値を読み取り、サーバ上のソリューションにデータを送信する、といった具合だ。

「AIによる『分析』をMRによって『見える化』し、さらにIoTによって『社会と繋がる』新技術を開発いたします」(HEROZ広報資料より)。5G時代を迎える中で、こうした技術はますます必要になっていくと思われる。一方で全世界で多くの企業が同種の研究開発を進めており、いち早くデファクトスタンダードを打ち立てた企業が市場を総取りするであろうことも、また事実だ。今後の展開に注目していきたい。

Photo&Words 小野憲史

「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーランス。

ゲームジャーナリストとして国内外のイベント取材・ゲームレビュー・講演などを手がける。他にNPO法人IGDA日本事務局長、ゲームライターコミュニティ代表、東京ネットウエイブ非常勤講師。