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【World MR News】日本のアニメ市場が2兆円を突破、コンテンツはVtuberなど多様化へ向かう――アニメ産業レポート2018刊行記念セミナー
一般社団法人日本動画協会は2018年12月5日、アニメ産業レポート2018刊行記念セミナーをJETRO東京本部展示場で行った。当日はアニメ産業研究家で報告書の編集統括を行った増田弘道氏をはじめ、全7名で2017年度の総括が行われた。また、ミクシィXFLAG PICTURES プロデューサーの猪子敏行氏が特別ゲストとして登壇し、同社のゲームとアニメを中心としたクロスメディア戦略について語った。
内容が多岐にわたる聞き応えの多いセミナーだったが、本稿では市場の概要と、ゲームやXRコンテンツに関する内容を中心に整理してレポートする。
登壇者
- 増田弘道(アニメ産業研究家、株式会社ビデオマーケット常勤監査役)
- 数土直志(ジャーナリスト、日本経済大学大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授)
- 陸川和男(株式会社キャラクター・データバンク代表取締役社長、一般社団法人キャラクターブランド・ライセンス協会専務理事)
- 伊藤直史(株式会社アサツー ディ・ケイ コンテンツ本部コンテンツ戦略室長)
- 森祐治(株式会社電通コンサルティング取締役シニア・ディレクター、亜細亜大学都市創造学部・大学院アジア国際経営戦略研究科 特任教授)
- 亀山泰夫(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科後期博士課程)
- 原口正宏(アニメーション研究家、リスト制作委員会代表)
- 猪子敏行(デジタルエンターテインメント事業本部IP開発室室長兼XFLAG PICTURES プロデューサー)
アニメ産業とアニメ業界がそろって過去最高の市場規模を記録
はじめに増田氏からアニメ産業全体のトレンドについて解説がなされた。増田氏は8年連続で売上が増加した結果、2017年度にアニメ産業全体の市場規模が初めて2兆円を突破したと説明。また、アニメの製作・制作に直接関わっている企業・スタジオの売り上げ(アニメ業界市場)についても、統計史上最高となる2044億円を記録。ともに2015年度から急速に上昇し、いまやテレビに次ぐシェア第2位を占めるにいたった海外市場の存在が大きいと分析した。
一方、過去10年間の傾向を分野別に見ると、テレビは115.7%だが、2015年をピークに横ばい状態。映画は193.4%で年々上昇傾向。ビデオは59.9%と明確な書こうトレンド。配信は551%と大上昇。商品化は87.6%で2014年をピークに下降しているが、この中にはスマホゲームやデジタル商品化権などの数字が含まれておらず、実際は上昇トレンドではないかとした。音楽は99.2%で2009年をピークに横ばい。海外は226.6%で、前述の通り大きな存在となっているとした。
他に2009年度から新ジャンルとして設定された遊行(パチンコ・パチスロなど)は2014年にピークを迎えた後、緩やかに下降トレンドに入っているが、それでも175.9%の伸びを維持しているとした。最後に2014年に誕生したライブエンタテイメントは、市場額は小さいものの、251%と急速に伸びている市場だとした。
2014年を境に国内市場と海外市場が急接近
続いて森氏から海外市場の報告がなされた。グラフを見るとおり、国内市場が2014年にピークを迎えた一方で、海外市場が急成長しており、早晩逆転することが予測される。ただし中国市場ではチャイナリスク、欧米市場ではNetflixなど大手配信プラットフォームによる流通独占などの懸念材料も多く、自主流通網をもたない日本企業にとっては、国内外の市場バランスを保つことが重要だとした。
また、2020年にモバイルインフラが5Gに移行することで、世界的にみてメディアやコンテンツ配信のあり方が変化すると分析した。森氏は例として通信会社が放送局やコンテンツ企業を買収する動きが加速していること。また米Walt Disneyがストリーミング配信サービスのBAMTechを買収し、2019年に独自の映像配信を開始することなどをあげた。その上で、日本企業も5G時代における海外連携を模索することが重要だが、現時点では予測が難しいとした。
このほか、アニメ業界市場(アニメの製作・制作にかかわる企業の売上)が増加している背景として、3DCGの普及で他産業からの新規参入が増えている点を上げた。実際に動画協会でも正会員企業の数を準会員企業が上回っており、こうした企業は従来型のアニメーターを雇用していない可能性も高いという。
その理由として森氏はアニメの知的財産やキャラクターの使い勝手の良さをあげ、これが3DCGになることで、さらに二次利用・三次利用の割合が増加していくとした。実際、海外のアニメスタジオでは、その多くが3DCGで作品制作を進めており、XR系のコンテンツ増加が今後も見込まれる中で、国内における従来型のアニメスタジオも対応していく必要があるとした。
多様化するコンテンツのあり方と懸念点
セミナーではクロスメディア、特にゲームとアニメのコラボレーションが増加する一方で、懸念点もあがった。問題となるのはスマホゲームとデジタル商品化権のライセンス料で、特にスマホゲーム業界では他社IPや自社IPだけでなく、オリジナルIPでアニメを制作し、そこからゲーム化を行う例も見られる。現在、スマホゲーム各社は動画協会他に会員加盟していない例が多く、こうした作品群は統計から漏れてしまうことになる。そのため、会場ではスマホゲーム各社との連携を求める声が聞かれた。
また、Vtuberを巡る動きでも、興味深い議論が行われた。近年、急速に成長したVtuberコンテンツだが、本レポートでは作品数に計上されていない。これはVtuberによる未編集の動画は「配信」であって「創作物」ではないという観点からだ。過去にも「ウゴウゴルーガ」などの番組は、デジタル画像ではあるがアニメーションではないという判断で、計上が見送られた経緯がある。ただし、今後はVtuberによる「動画編集作品」が登場してくると考えられる。また、編集の有無が視聴者側からわかりにくく、なにをもって編集とするか、定義が曖昧な点もある。原口氏は「アニメとアニメ風表現の違いが何か、議論する時期に来ている」とまとめた。
ミクシィのコンテンツ作りは「遊び場作り」がベース
最後にミクシィの猪子氏より、同社のアニメ&ゲーム戦略が語られた。それぞれ別々のメディアで語られることの多いアニメとゲームだが、ミクシィではどちらも「みんなで遊ぶ場を作ること」として捉えていると説明。ゲーム「モンスターストライク」は4人で遊ぶと楽しいゲームで、中高生プレイヤーが多いため、YouTube公式チャンネルでアニメを配信することで、スマホで見やすい環境を整えたという。実際、昼休みに学校でYoutubeを見ながら友達同士で昼食をとる、といった視聴慣習もみられるという。
「1年間かけてアニメのシリーズを展開し、キャラクターに感情移入をしてもらった上で、最後にゲームでガチャとして登場させ、課金してもらう。このサイクルをいかに作るかが重要」だとする猪子氏。そのためにはお客様に納得してもらうクオリティのアニメ作品を作り続けることが重要だという。伝統的な手描きアニメからスタートした本作が、まずモンスターが3DCGになり、ついでキャラクターも3DCGに変更されたなどは好例で、今後も常に驚きを持って見ていただける作品作りをめざすとした。
「ゲームが海外展開するとき、アニメはマーケティングツールになり得るか」という質問もあった。これについて猪子氏は「(単にアニメを作って放映するだけでなく)、ゲーム運営とアニメの制作タイムラインを揃えることで、より大きな売上が見込めるようになる。そのための方法論を見つけることが重要」だとした。また、その際にスマホゲームはマーケットインの手法で作るが、アニメはプロダクトアウトの手法で作られることが多く、両者の折り合いをいかにつけるかが課題になるとした。
最後にアニメ業界との連携についても質問があった。これに対して猪子氏は「ミクシィもアニメビジネスにチャレンジしている最中」だとコメント。「配信が終わったゲームのリブート作品」「運営中のゲームとのコラボ作品」「ゲームもアニメも、これから立ち上げるオリジナル作品」の3種類があり、中でもオリジナル作品に力を入れていきたいとした。その上でアニメ業界とも「IT技術とコンテンツをミックスさせて、新しいスタイルでお客様に提供するような形であれば、ぜひご一緒したい」とコメント。アニメは映像手法の一つであり、3DCGのモデリングなどゲームにも共用できる部分が多いので、ぜひ連携してやっていきたいとまとめた。
このように、アニメ市場が拡大していく中で、ゲームをはじめとしたさまざまな周辺領域と融合している現状が改めて確認できた本セミナー。一方で3DCGの進化とともに、ゲーム業界がアニメ製作に自ら乗り出す例も増加しており、コンテンツ産業としての融合が加速していくと考えられる。Youtubeで新作アニメを発表し、SNSで盛り上げたり、視聴者の支持に従って内容を変更していったり、ライブイベントと組み合わせたり、その上でゲームを配信したり、XRコンテンツ化したりといった、新しいスタイルのビジネスもあり得るだろう。今後の展開を期待したい。
Photo&Words 小野憲史
「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーランス。
ゲームジャーナリストとして国内外のイベント取材・ゲームレビュー・講演などを手がける。他にNPO法人IGDA日本事務局長、ゲームライターコミュニティ代表、東京ネットウエイブ非常勤講師。