2018
10.12

【World MR News】「エネルギー産業へのMixed Realityの業務適用研究の最新状況共有」――Tokyo HoloLens ミートアップ vol.10レポート③

World MR News

マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』のアプリ開発者が登壇し、VR/MRに向いたアプリやHoloLensアプリ開発の裏話などの紹介が行われるイベント「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.10レポート」が、10月6日に日本マイクロソフト セミナールームで開催された。

本稿ではその中から、株式会社ポケット・クエリーズ 代表取締役 佐々木 宣彦氏によるセッション「エネルギー産業へのMixed Realityの業務適用研究の最新状況共有」の模様をレポートする。

2010年に会社を創業し、9年目となるポケット・クエリーズ。受託開発で3Dを中心にしたアプリケーションの開発を行っている。5月にMRPP認定を取得し、今年はMixed Realityの技術を提供し「働き方に『革命』を」キーワードに活動を行っている。

株式会社ポケット・クエリーズ 代表取締役 佐々木宣彦氏。

数年前までスマホゲームの開発が多かったが、ここ最近はコンシューマー系ゲームやVR、MRの開発が増えてきている。『FINAL FANTASY XV』の開発に携わるなど、社内でハイエンドCGを制作するノウハウもあり、竹中工務店とは災害時の人が避難するときのシミュレーションをVRで可視化するシステム『maXim』も開発中である。

MRを目指すきっかけとなったのは2015年に「東京ゲームショウ2015」に展示したものだ。『HoloLens』の発売がアナウンスされた時期で、MRのことを考えるようになった。業務的なソリューションとして展開されていくのは、VRよりもMRが増えていくと予想し映像ベースで実験的に作ったものである。

このときに、映像のずれや空間の認識をどうするか考え、画像解析と画像認識の技術を取り組んでいくことになった。

自分たちだけでやっているだけではお金が掛かるばかりだ。そこで、実プロジェクトに適用してアピールしていくということをはじめている。竹中工務店向けには、『杭打ちラインAR表示アプリ』を開発。こちらは、30メートルほど離れたところにあるARマーカーを読み取っている。

同じく竹中工務店の『ZEBにおけるセンサーデータAR表示』では、ライトの横にマーカーを貼って認識するというものだ。どちらも通常はARマーカーをうまく読むことができないのだが、様々な工夫でこれらの問題を解決している。

これから同社が取り組もうとしているのは、設備の点検などをリモートで指南することで便利になるような領域に絞っていくことだ。MRデバイスは現実空間に紐付いて表示するデバイスだ。また、空間上にボタンを配置するなどのインターフェイスでもある。

そのため、業務で使用するには様々なアイデアや接続が必要となってくる。クラウドと接続することで、多くのことができるようになるのだ。

5月より東京電力ホールディングスとMRの共同研究を開始

同社は、東京電力ホールディングスとMixed Realityにおける共同研究を今年の5月より開始している。まずは、『HoloLens』の性能検証からスタート。そこでわかったことから、業務的なソリューションを考えるという作業を、昨年後半から今年の前半にかけて行っている。

同社では『QuantuMR』(クァンタムアール)というMR活用ソフトウェアを開発し、どうのように業務に使えるかという部分を共同で開発している。

東京電力がこうしたものに取り組むことになった背景のひとつが、「稼ぐ力の創造」だ。これには、カイゼン(省力化)により時間を短縮するほか、ひとりでいろんなことができるようになる多能工化などといったことが含まれる。様々な効率化を図り、余裕が出た人材を活用して新たなビジネスが創出できるようなるというわけである。

大きな課題として、業務ノウハウが属人化しているところだ。また、退職などにより人材も不足している。どのようにして、業務を簡単に引き継ぐことができるかということが重要となる。また、それを解決するために、ベテランの作業を誰でも効率よく安全に行えるようにする必要があるのだ。

発電所には、中央監視室と呼ばれる場所があり、設備機器運転状態のモニタリングを行っている。実際にアラートが出たときは、現場に行って状況を確認するのだ。そのほか、保守など定期的な点検も行われている。

つまり、普段いる中央監視室からリモートで作業をしに行くといった環境である。現場に行くことで、初めてわかる不具合もある。温度の状況など、現場で見られるものもあれば見られない情報もある。これまでは、そうしたときに電話で確認するといった作業が行われていた。

また、現場では図面や作業指示書を確認しながら様々なことが行われるが、突発的な条件ではそれらを持っていかなかったということもありうる。そうした課題を解決するのがMRである。現場で好きな図面を実物大で好きな位置に配置して作業が行えるようになるのだ。

先ほども触れた『QuantuMR』という名前は、MRの空間に細かい情報が紐付いて管理できるというキーワードから「Quantum」(素晴らしい、画期的なという意味)と「MR」を融合して名付けられている。

システムとしては、PC側でバーチャル空間を作り、『HoloLens』やタブレット、『WindowsMR』といったVRデバイスなどに対応している。『HoloLens』にはシェアリングの機能があるが、ここで重要となってくるのがオンラインゲームの技術だ。オンラインを通して共有する場合、サーバ側の工夫も必要になってくるのである。これらには、同社がゲームの開発で培ってきた知見が活かされている。

東京電力における実証試験で具体的に何を行っているかというと、まずはシンプルに使うというところに特化して行っている。

たとえば変電所で取り組んでいるものでは、テーマとして安全性の向上やヒューマンエラーの防止、作業の迅速化、人材育成、点検手順などを記録してトレーニングコンテンツに使用するということを行っている。これらにより、生産性の向上を目指しているのである。

MR商談領域のキーワードはリモートとトレーニングコンテンツ

MRの商談領域としては、発電や送配電、顧客の窓口である小売りなど様々な電力産業に携わっている企業がある。これらは国の方針などもあり、ほかの電力会社も順次分散していく。それをとりまく発電機を作っている会社や施設の設計、建設など2次産業も含めるとかなりの人が動いている産業でもある。

同様にガス会社なども概ね似たような感じだ。また、情報通信(電話系)も中継基地があるほか工事があるなど、似ている部分も多い産業である。

このように、現在東京電力と研究しているソリューションは、すぐにでもほかでも応用することができる。

ここでキーワードとなっているのは、リモートで点検などを行いトレーニングコンテンツに使えるというところだ。この部分だけに絞っても、ニーズがあるという。

また第一線現場の業務は、デジタルトランスフォーメーションが遅れている分野でもある。未だに紙を現場に持って行き作業を行っているような状況だ。そのため、MRによる業務の効率化が望まれているところでもある。

こうしたMRの開発に必要な技術は、これまで取り組んできたゲーム開発や画像認識などの知見を活かせるところが同社の強みである。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。