2018
09.05

【World MR News】VRの進化を妨げる最大の要因を軽減!「VR空間で酔わない移動方法の実現」【CEDEC2018レポート③】

World MR News

8月22日から24日まで、パシフィコ横浜 会議センターで開催された日本最大のゲーム開発者向け技術交流会の「CEDEC2018」。本稿ではその中から、最終日に行われたセッション「VR空間で酔わない移動方法の実現!」の模様をお届けする。講演者は、株式会社EXPVR CEO・藤川啓吾氏とCIO・藤川駿氏のVR兄弟。

VR酔いはVRの進化を妨げる最大の要因

VR兄弟として知られる、兄・藤川啓吾氏と弟・藤川駿氏の株式会社EXPVR。同社では、忍者ヒーローになれるVRアクションゲーム『BE THE HERO』などを手がけている。彼らがVRゲーム開発とともに研究しているのが、「VR空間で酔わない移動方法」だ。

藤川啓吾氏。

ファンタジーやSF、アドベンチャーの世界が大好きだったという両氏。VRならば、そんな憧れのヒーローになることができるということで、現在ゲームの開発を行っている。しかし、ご存じのようにVRにはつきものの「VR酔い」というものがある。

藤川駿氏。

これはVR体験で、視覚が動いているのに体が動かない感覚の不一致で陥るものだ。車酔いにも近く、ひどい状態になると吐き気や頭痛の原因にもなる。これはVRの進化を妨げる最大の要因でもある。

そのVR酔いの対策として、多くのコンテンツで採用されているのが「ワープ移動」だ。これは限定的な移動でVRの可能性を損なってしまう、いわば鎖に繋がれたような状態である。それでは不満のため、酔わないVRでの移動方式の開発に着している。

VR酔いしにくい移動方式を10種類以上開発

VRで移動することは、誰しもが思い描いていることだ。ということは、すでに世界中の先駆者がチャレンジしているはずである。しかしそうしたものはあまり見かけることはない。はたして、世界中の企業ができなかったことが実現できるのかと悩んだが、とりあえず試していくことにしたという。

スティック移動は酔ってしまったので、トリガーを押しながらコントローラーの指す方向に移動するという方式を試したところ、酔わないことがわかった。これは、スティック移動よりも直感的で、すぐに理解することができるからだと考えたという。

ならばより感覚的な操作をと追求したところ、腕を振ったら前に進むというのも酔わないことがわかった。こうして「アームスイング方式」が誕生している。

同社では10種類以上の移動方式を開発している。これらはヒーローのような移動ができるため、「VR HERO Locomotion」(特許出願中)と名付けている。今回のセッションでは、その中から8種類の移動方法の紹介が行われた。

ひとつ目は先ほどの「アームスイング」だ。これは腕を振って移動する方式だ。ふたつ目は「スイングジャンプ」。これは腕を振り下げて飛ぶ方式である。3つ目は「ウォールラン」。これは壁に当たって上を向くと壁を登ることが出来る方式だ。

4つ目は「ハンドバースト」。映画『アイアンマン』のような移動方式で、腕からの推進力を使って進んでいく。5つ目は「魔法の箒」。箒にまたがり、前屈みになるとスピードが上がり起き上がるとスピードが落ちる方式だ。

6つ目は「オブジェクトワープ」だ。これはクナイのようなものを投げた場所に移動する方式である。7つ目は「ビースト」だ。普通に登れるが、地面や壁などを掴んで移動するという方式だ。最後は「ロングハンド」である。これは、腕を伸ばして掴んで引き寄せる方式だ。

こうした移動方式を、組み合わせてパッケージ化し「韋駄天システム」と名付けている。

酔わない移動方法には5つの要素がある

10種類の酔わない移動方法を開発する中で、共通するポイントが見えてきたという。それには「身体を動かす」「ツーステップ」「ラーニングカーブを鋭く」「自分をコントロール」「感覚フィードバック」の5つの項目が関係している。

まずは「身体を動かす」だが、スティック移動の場合は親指しか動かさないため自分の身体が動くというイメージができない。この「イメージ」=「予測」であるため、予測できない動きは酔ってしまうのだ。

また、腕を振ることは誰しもがやっていることであるため、無意識に「移動」を予測することができる。箒のように大きく前をかがむなど身体を動かすこともイメージがしやすい。

同社の研究では、最低でも手首以上の大きな身体の動きを伴う必要があるという結論を出している。

ふつめの要素として重要なのが「ツーステップ」だ。身体の動きと同期して、実際に移動するまでのステップ数も酔わないようにするには注意すべき点である。たとえばハンドバーストでは、トリガーを押してパワーを貯めてトリガーを放すことで手を向けた方向に移動する。

この「押して放す」という行為が重要なのだ。この「ツーステップ」は、10種類の移動すべてに共通している点でもある。このステップ数はふたつ以上必要だが、多すぎればいいというわけではないので注意が必要だ。

3つ目の「ラーニングカーブを鋭く」は、「イメージできる状態」=「予測できる状態」が重要なポイントであるという。それには、すぐに直感的に操作できる必要がある。操作が複雑だと、予測できるようになるまで時間が掛かってしまう。また、うまく操作ができないとやる気も失ってしまう。このイヤイヤプレイしている状態は、VR酔いに悪い影響を与えてしまうのだ。

また重要な点はふたつあり、ひとつは複数の試行のうちに思ったように動かせるようになることだ。もうひとつは、ステップ数が多くなると、考えることが多くなり直感的ではなくなってしまうことである。直感的でないと、トレーニング中に酔いが発生してしまうのだ。そのため、移動可能になるまでの試行回数をへらすことが大事なのである。

4つ目は、自分をコントロールできているという感覚を持つことが大事であるという点だ。「イメージ=予測できることが重要」だが、これは移動の最中にもいえることである。自由に移動していたつもりが急発進して、方向転換できずにぶつかってしまったりすると、自分がコントロールできないとユーザーが思い酔ってしまう。そのため、コントロール不能になる状況は、絶対に避けるべきだ。

また、プレイヤーがコントロールできないと思った時点で酔いは進行してしまう。本当にコントロールできているわけではないものの、プレイヤーがコントロールできているという感覚に思い込むように作ることが大事なのである。

速度の制御や方向転換は簡潔にし、頭を向けた方向に移動するのが一番直感的でわかりやすい。このように、自然な行為が一番コツを掴みやすいのである。

失敗例として、「魔法の箒」の場合バイクのアクセル用に絞って移動するようにしたときに、かなり酔ってしまったという。バイクの場合は横方向にハンドルがあり、それを握ると前に進むが、箒を立てに絞って移動するといった状況は普段まったくないからだ。

5つ目の「感覚フィードバック」を与えることで、ユーザーは自分の状況が把握できるようになる。また、自分の状況を把握すればするほど酔わなくなっていくのである。そのためには、「視覚」「聴覚」「触覚」を活用することがオススメだという。

ユーザーが、「今こっちに進んでいるんだ」「今着地した」など、直感的に理解することが大事だ。たとえば「視覚」ならば、進行方向へガイドバーティクルや着時の砂埃を表示させることで理解させることができる。

「聴覚」なら、着地の瞬間に音が鳴ったり、ジャンプの瞬間も同様に効果音を鳴らしたりすることが効果的だ。「触感」は、ぶつかったときやジャンプ後の着時などに振動させることでも表現できる。

これら5つのポイントは、どれかひとつだけでも効果はある。本当にVR酔いしない移動方法を実現するには、すべての項目が必要である。これらはVR酔いをなくすのではなく、軽減させるためのものである。

この5つのポイントに加えて、もうひとつユニークな要素が「プレイヤーの熱狂度」だ。イヤイヤプレイするのはVR酔いに悪い影響を与えるが、逆に熱狂したり興奮したり楽しんだり、ポジティブな感情でプレイすることでもVR酔いは軽減することができることが研究でわかった。

酔いやすさには個人差があるが、これに熱狂度を追加すると対策の程度にかかわらず酔いにくくなる。熱狂度がマイナスになると、対策がされていても酔いやすくなる。そのため、人々を熱狂させるVRコンテンツを作ることも重要となるのだ。

 

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。