05.31
【World MR News】[de:code 2018]今年のテーマは「LOVE to CODE」――「de:code 2018」基調講演をレポート
マイクロソフトが主催する、ITエンジニアのためのイベント「de:code 2018」が、5月22日~23日に、東京・港区のザ・プリンス パークタワー東京で開催された。本稿ではその初日に行われた基調講演の中から、Mixed Reality (MR) に関連する部分を中心にご紹介していく。
日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長の伊藤かつら氏のスピーチから始まった、今回のイベント。この1年で、クラウドが当たり前になり生活のあちらこちらでAIが姿を現すようになった。今やITは、あらゆる組織や個人のありかたを大きく変えてきている。
今年の「de:code 2018」は、「LOVE to CODE」をテーマに掲げて行われた。コードを書くこと、イノベーションを起こすことを重要だと語った。コードを書いてイノベーティブなアプリケーションを動かすことで、組織などが持つ繊細的な可能性を解き放つことができるのだ。
「Microsoft 365」の中心にあるのは「Graph」
Microsoft CorporationのMixed Reality Studiosで、ジェネラルマネージャーを務めるロレイン・バーディーン氏が登壇。同士からは、「Microsoft 365」の中でマルチデバイス、マルチセンスの世界をどうサポートしているか。その中で、MRがどう使われているという紹介が行われた。
「Microsoft 365」は、ウィンドウズとオフィスを統合し、マルチセンス、マルチデバイス、サービスレイヤーを提供するために作られたものだ。これらはあくまでも人が中心で、デバイスが中心ではない。
「Microsoft 365」の中心にあるのは「Graph」だ。これを使うことにより、ユーザーのアクティビティ、様々な場所で使われるデバイスを収集しながら、デベロッパーがいろんな形でそのデータを使えるようになる。個人だけでは、組織のデータも収集することができる。
開発者はそのデータを収集し、利用し、それを拡張して、自分たちのアプリの一部として作ることができるのだ。
この「Graph」はあくまでも拡張性のあるものだ。開発者は、「Graph」に対してどんどん価値を付加していくことができる。AdobeやGitHubなど多くの企業は「Graph」の開発者であり、「Microsoft Graph」との統合に価値があると考えている。
個人の情報や組織の情報などはウェブに掲載されている形になっているが、これらはデジタルオンリーのデータである。そこで、次のステップに行きたいと同社では考えている。つまり現実世界のデータ。たとえば病院や工場、職場や家庭から取り込んで、データ化などをして「Graph」の中で出していきたいと考えている。
そうすることで、単にデジタルとしてデータを使うのではなく、デジタルと物理的な世界の両方で使えるようになるのだ。
「Microsoft HoloLens」では、こうした作業はすでに始まっている。SaaSの一部としてアプリケーションを出している。「Microsoft HoloLens」を使い、空間データを「Microsoft Graph」に入れるということを初めてやっている。
ファーストラインワーカーに対してエンパワーメントすることが重要
「Microsoft 365」の「Azure」と「Graph」が一緒になったら、コンピューティングのパワーがデジタルと物理の世界を超えてどれだけ生まれてくるのだろうか。
最前線で働く人たち(ファーストラインワーカー)は、顧客と一番近いところで働く人々だ。つまり、顧客の問題を最初に知る人たちである。マイクロソフトでは、この最前線で働く20億人に対して、エンパワーメントをすることが非常に重要だと考えている。
そうすることで、イノベーション、成長、会社の成功などもっと多くの貢献ができるようになるのである。既存のスキルを全く新しい人たち、つまり最前線で働く人たちのために使う大きなチャンスとなる。
何百という顧客と緊密に仕事しながら行った結果、価値の高いワークフローは「遠隔支援」「空間プランニング」「トレーニング・開発」「製品中心のコラボレーション」の4つの分野であることがわかった。
リアルタイムの空間&IoTデータへのアクセスも、第一線で活動している人たちにとって非常に価値が高いこともわかった。MRをワークフローの中に取り込むことにより、人と技術の両方を統合できるようになるのだ。
同社では、「Microsoft Remote Assist」と「Microsoft Layout」という、ふたつの新しいMixed Realityビジネスアプリケーションを発表している。
前線で働く人たちが問題に直面したときなどに、常にエキスパートが現場にいることはない。そこで迅速に問題を解決するために、「Microsoft HoloLens」を使って遠隔のエキスパートと共同作業を行えるようにしたのが、「Microsoft Remote Assist」というアプリだ。
ハンズフリーでビデオ通話や画像共有、MRで注釈付け機能などを利用し、問題を解決していくことができるのである。
「Microsoft Layout」は、現実世界にCGを表示することで信頼性とスピードを兼ね備えた空間設計が行えるアプリだ。また、関係者同士がきちんと意思決定できるようなものとして作られている。
空間デザインには様々な方法がある。しかし、実際にビジュアライゼーションをしようとすると、現実のサイズや環境などで問題が起こったり時間が掛かってしまったりすることがある。しかし「Microsoft Layout」を使うことで、これまで数週間~数ヵ月掛かっていた意思決定が、わずか数日間でできるようになるのだ。
ロレイン氏は今回が初来日だが、多くのパートナーと話し「Microsoft 365」とMixed Reality、IoTの連携で弾みが付いているという。すでに大きなインパクトのあるプロジェクトが動いているという。
東急建設は、Mixed Realityのパートナー企業であるインフォマティクスと連携し、「Microsoft HoloLens」のアプリケーション「GyroEye Holo」を構築している。これは工事現場などで利用できるもので、青写真をかぶせることで計画通りに工事が進んでいるか確認することができるのだ。
すでに東急建設ではこのメリットを見いだしており、精度も高くミスも少なくできる。また、パイプが本来あるべきところに設置されているかという確認もできる。これにより、全体の建設工程を短くすることができ、各ステイクホルダーもより早く意思決定ができるようになる。
また、舶用機器メーカーのJRCSでは、Mixed RealityとAIを組み合わせて海運・海洋産業の働き方改革を推進するプロジェクト「JRCS Digital Innovation LAB」を推し進めている。
このプロジェクトでは3つのシステムがある。「海洋事業者向け遠隔トレーニングソリューション」は、「Microsoft HoloLens」を使ったトレーニングが行える。
ふたつ目は、「海洋事業者向け遠隔メンテナンスソリューション」だ。こちらは、エキスパートと現場にいる人の距離が離れているときに、共同で問題解決ができるようにしたものである
3つめは、「将来的な船舶の自動航行を見据えた陸上での操船ソリューション」だ。自動で航行する船舶の実現を目指しており、遠隔コマンドですべての船舶に対して指令が行えるようになるイノベーションを追求している。
Microsoft Mixed Realityパートナーにセック、ポケクエ、シャンティ、iSiDの4社が追加に
基調講演の最後に、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長の平野拓也氏より、新たにMicrosoft Mixed Realityパートナープログラムの認定パートナーに選ばれた企業の紹介が行われた。
「Microsoft HoloLens」は昨年1月に発売されて以来、多くのユーザーから好評を得ていると平野氏。建設、不動産、製造業、教育、医療、文化、陸・海・空と、様々なところで活用されデジタルトランスメーションがどんどん進んでいる。毎月のように新たな事例が登場し、こんなやり方もあるのかと驚いているという。
昨年9月から日本におけるMixed Realityのパートナープログラムを開始した同社だが、これまで11社が認定されている。認定されたパートナーは、マイクロソフト本社で技術研修を受け、Mixed Realityのアプリケーションサービスをどのように顧客に提供するかといったノウハウを合わせて準備をしていくという。
そして、今回新たに株式会社セック、株式会社ポケット・クエリーズ、株式会社シャンティ、株式会社電通国際情報サービスの4社がパートナーに認定されたことが発表された。
Mixed Realityという分野はまだまだ新しい。いろんなアイデアや使われ方などがたくさんあるので、大きなチャンスであると平野氏は語った。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。