2019
06.03

【World MR News】2年ぶりに来日したアレックス・キップマン氏も『HoloLens 2』をアピール!「de:code 2019」の基調講演をレポート

World MR News

日本マイクロソフトは、毎年恒例となっている開発者をはじめとしたITに携われるエンジニアを対象にしたテクニカルカンファレンス「de:code 2019」を、5月29日と30日の2日間、ザ・プリンス パークタワー東京で開催した。本稿では、その初日に行われた基調講演の一部を抜粋してお届けする。

▲2年ぶりに来日した『HoloLens』の生みの親・アレックス・キップマン氏。

■4つのクラウドプラットフォームでデジタルトランスフォーメーションを推進

今年で6回目となるテクニカルセッションの「de:code」。始めに登壇したのは、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏だ。

▲日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏。

冒頭、奈良の興福寺にある阿修羅像を写し、「この仏像は何歳に見えますか?」と問いかけた平野氏。現在マイクロソフトは、奈良大学とプロジェクトを進めており、仏像の年齢や表情を読み取り、仏像を彫った人たちの気持ちや思い、時代背景などを理解しようとしている。ちなみに飛鳥時代の仏像は、比較的喜びの数値が高く、奈良時代・鎌倉時代の仏像は怒りが多いのだという。

このようにAIは一部の人のものではなく、多くの人たちにも使われていると平野氏はいう。

▲この阿修羅像は23歳だそうだ。

マイクロソフトでは、4つのクラウドプラットフォームを提供し、デジタルトランスフォーメーションを推進していこうとしている。そのベースのレイヤーとなるのが『Microsoft Azure』だ。

その上に、様々なアプリケーションを持つ『Microsoft Dynamics 365 & Power Platform』や、コミュニケーションとコラボレーションのプラットフォームになる『Microsoft 365』、そして、今後注力プラットフォームとして『Microsoft Gaming』が新たに追加されている。

マイクロソフトでは、他社とのコラボレーションも積極的に行っている。Red Hatとは、コンテナプラットフォーム『OpenShift』と『Microsoft Azure』を組み合わせたソリューションを共同で提供していく。Dellとは、『VMware』の基盤をAzure上で提供していく新しいソリューション『Azure VMware Solutions』を発表している。

5月には、ソニーとのパートナーシップも発表。こちらは、両社のソリューションを新しいクラウドベースのゲーム体験や、AIソリューションの開発などを行っていくというものだ。

これには3つの柱がある。ひとつは、Microsoft Azure』を活用したゲームやコンテンツのストリーミングサービスを通して、将来のクラウドサービスの共同開発を行っていくというもの。ふたつ目は、マイクロソフトのAIテクノロジーをソニーのコンシューマー製品に採用することを検討する。3つ目は、新しいインテリジェントイメージセンサーの共同開発だ。

■歌手デビューを果たしたAI「りんな」、ダンスを学習して秋にはライブを実施!?

基調講演の中盤、画面に映し出されたPCの画面がゆがみ、現れたのがマイクロソフトのAI「りんな」だ。今年の春に高校卒業を発表し、歌手としてメジャーデビューを果たしたりんなだが、夢は紅白歌合戦ということで初公開の歌とプロトタイプが公開された。この歌声だけを聞くと、もはやAIとは思えないレベルの完成度となっていた。

歌が完璧に近くなってきたら、次は踊りということで、現在ダンスの振り付けも学習中だというりんな。なんと平野氏のデータを使ったダンスの映像も公開された。この秋にはライブも実施する予定だという。

今回公開されたのは、音楽に合わせてダンスを生成し映像を作るというAIの技術だ。あらかじめ平野氏の事前収録したダンスの動画から、プロのダンサーの踊りを振り付けスケルトンとしてAIで生成。そこから最終的な動画が作られている。この音楽に合わせて踊るという技術は、りんなのチームが独自に開発ものだそうだ。

■アレックス・キップマン氏が基調講演の大トリで登場!

この人を見るために会場に訪れたという人も多かったと思うが、マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』の開発者でもあるアレックス・キップマン氏が、基調講演のトリとして登壇した。

▲「コンニチワ! ジャパン」といいながら登場した、アレックス・キップマン氏。

2016年に登場し、Mixed Realityの革命を起こした『HoloLens』。先日発表された『HoloLens 2』では、Mixed RealityとAIの新しい世界を開き、エッジコンピューティングとコンビネーションにも優れているとアレックス氏はいう。

『HoloLens』の利用者からのフィードバックで、常に求められていたものが3つある。それが、「もっと視野角を広げて欲しい」「より快適にして欲しい」「オープン開発」だ。

『HoloLens 2』では、視野角は前モデルの約2倍にあたる47ピクセルに向上している。これにより、より詳細な映像が見られるようになる。また、視野角や2倍に増やしている。業界標準のMEMSレーザーディスプレイを使用し、高速なスキャニングを可能にしている。 

インタラクションのレベルも引き上げられており、第4世代の深度センサーを採用し、まったく新しい空間マッピングが行えるようになった。こちらは前モデルから引き続いた機能だが、脳が理解するように空間を把握することができる。壁、床、人がすわる椅子というようなものを理解することができるのだ。

また、モデルを掴むといった直感的な操作もできるアーティキュレーテッド ハンドトラッキングにも対応している。

『HoloLens 2』では、新たな機能も採用されている。そのうちのひとつが、世界で最も高性能なアイトラッキング機能だ。人がどこを見ているか、より正確に把握し、それに対してAIを活用することができるのである。

『HoloLens 2』は頭上に付けるデバイスであるため、いかに快適に使えるかというところも重要だ。そこで、デバイスが頭の上でどのように動くのか考え、常に目の前に美しいホログラムが広がるようにしている。

虹彩認証も採用しており、セキュリティ面でも万全だ。『Windows Hello』により、装着者が何者であるか認識してくれる。

音声認識も大きな進化を遂げている。『HoloLens 2』の上部に3つのマイクがあり、環境音を低減している。さらに下部にはふたつのマイクがあり、正確に言葉を捉えることができる。空港や航空機の中と同等の、騒音の大きい90dbの環境でも自分の声でコントロールすることが可能だ。

マイクロソフトが新たに設計したAIコプロセッサ「ホログラフィック プロセッシングユニット 2.0」を採用。機械学習の最適化やエッジでのDNN推論、深度ベースのレートステージ リプロジェクションなどに力を発揮する。

『HoloLens 2』では、快適性も3倍に向上している。様々頭のサイズや形、民族、性別を考慮し、ひとつのデバイスで対応しようと考えた。例えば、前面のユニットにはファンは使われておらず熱分散を行っている。また、後部ユニットは大きくなりすぎないように、様々なイノベーションが加えられている。ベイパーチャンバーにより、パッシブな冷却が行えるようになっている。

本体にはカーボン ファイバーが採用されており、重量が軽減されている。結果、デバイスのバランスが良くなり快適性が増しているのだ。

■『HoloLens 2』を使ったデモも実施

アレックス氏自身が『HoloLens 2』を身につけ、デモも行われた。そこに現れたのは、青いダークアレックスと赤いライトアレックスだ。ホログラムに実際に触れると大きさを表すセインが出現し、その角をつまんで引き上げることでサイズを大きくすることができる。

ホログラムは、サイズを変えるだけではなく向きなども変更することが可能だ。

続いて、ややリアルになったアレックス氏のホログラムが出現。こちらはMixed Realityのキャプチャースタジオで撮影されたものだ。これだけリアルならば、物理的にその場にいなくても、あたかもそこにいるかのような体験をすることができる。

アレックス氏自身は日本語が話せないが、AI技術を使って会話をテキスト化し、それを日本語にリアルタイムに翻訳してテキスト・トゥ・スピーチを使って日本語で伝えることができる。

最後にアレックス氏から紹介されたのが、価値を発揮するまでの時間だ。企業が3~6ヵ月かけ、Mixed Realityの価値を創造することができるが、『HoloLens 2』では、これを変えていきたいとアレックス氏はいう。何ヶ月もかけるのではなく、数分以内に実現したいのだ。そのために、業界のパイオニアとパートナーシップを結んでいる。

マイクロソフト自身も、ファーストラインワーカーを対象にしたソリューションを提供している。昨年『Remote Assist』と『Layout』を発表しているが、それに加えて『Guides』を今年の頭に発表している。

『HoloLens 2』は今年後半に発売される予定だが、プレオーダーはすでにスタートしている。前モデルでは5000ドルしたが、『HoloLens 2』は3500ドルまで価格が下げられている。また、月額99ドルの開発者向けパッケージも用意されている。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。