2018
11.15

【World MR News】米国マイクロソフト本社CEOのサティア・ナデラ氏が登壇――「Microsoft Tech Summit 2018」基調講演をレポート

World MR News

日本マイクロソフトは、企業や組織のIT導入運用にかかわる技術者および意思決定者を対象としたイベント「Microsoft Tech Summit 2018」を、11月5日から11月7日の期間開催した。その初日である11月5日に、米国本社マイクロソフト コーポレーションのCEOであるサティア・ナデラ氏が登壇した基調講演の模様を、一部抜粋してお届けする。

米国本社マイクロソフト コーポレーションCEOのサティア・ナデラ氏。

社会、ビジネス、パーソナリティを充実させるためにAIのテクノロジーを活用

日本マイクロソフト代表取締役 社長の平野拓也氏が、ソーシャルAIチャットボット『りんな』と会話をしながらネクタイの選んでいる場面から中継映像がスタートした、今回の基調講演。全般的にAIにフォーカスを当てた内容となっていた。

日本マイクロソフト代表取締役 社長・平野拓也氏。

『りんな』は、スマホのカメラを自分の目として見た画像を認識した結果を回答するのではなく、人間と同じような感想を自発的に行っている。AIと人間が同じモノを見て会話ができるようになってきたのである。

現在日本の開発チームが、共感視覚モデルをはじめとする最先端の技術を開発中だ。他の地域に先駆けて、まず日本でリリースする予定となっている。

共感視覚モデルは、AIが見た風景やものを見るだけではなく、名称や形などを認識結果として回答することにとどまらず、感想をのべることができる。共感視覚モデルを採用することで、リアルタイムで感情のこもったコメントを音声による自然な会話で行うことができるのだ。

これらを実現するための、3つの先進的な技術が採用されている。画像認識では、先ほどの「共感視覚モデル」が、音声会話では自然な会話が行えるように「全二重方式」が採用されている。さらに、ユーザーとコミュニケーションが長く出来るように、AIが自ら考えるように設計された「共感チャットモデル」も採用されている。

マイクロソフトでは、社会、ビジネス、パーソナリティがより充実させるためにAIのテクノロジーを使っていくと平野氏はいう。これは人に置き換わるものではなく、人間の創造性を拡張するところに重きを置いている。日本市場においても、最先端のテクノロジーを使ったイノベーションを推進していく。

これから先に成功するには「Tech intensity」が重要

自分たちの目の前にあるOpportunity(機会)は、コンピューティングが私たちの日々の生活から離れていないところを考えるのが簡単だとナデラ氏は語る。

コンピューターは物理世界の中に埋め込まれている。それが自宅であろうが、職場であろうが、工場であろうが、コンピューターが存在している。小売り、医療、金融サービス、産業機械、すべての業界がコンピューティングによって変革を迎えているのだ。我々が普段使用する冷蔵庫や温度計など、すべてコンピューターになりつつある。

この、非常に大きな変革というものから、我々全員に対して機会が生み出されている。すべてのビジネスリーダーやテクノロジーリーダー、デベロッパーにとって大切なことは、「Tech intensity」ということを考えてみることである。これから先成功するためには、ひとつの公式が重要となってくるというわけだ。

この方程式には、ふたつの要素がある。ひとつ目は、どれぐらいのスピードで、ワールドクラスのテクノロジーを採用しているかだ。それは入力だ。新しい生産要素として、テクノロジーを導入することである。

もうひとつは、テクノロジーの差別化だ。非常に特有な能力を、組織の中にどのように入れていくのか。銀行であろうが、小売りであろうが自動車であろうが、どこでもいい。これらふたつの要素から公式が成り立つのである。

時間やエネルギーの多くをかけて、簡単に外から調達できるものを内部で作るのは無駄である。信頼できないサプライチェーンに依存するのも、望ましくない。

サプライチェーンはもっとも重要な要素だ。コモデティであったとしても、自分たちのケイパビリティを培っていくにあたり、サプライチェーンが必要となる。そのため、今後はビジネスモデルを信頼することが重要となってくる。安定かつ足並みの揃った、リレーションシップを持てるパートナーを組んでいくことになる。

この「Tech intensity」こそ、我々のミッションの礎である。このミッションとは、地球上のすべての個人と組織が、より多くのことを達成できるようにするということだ。

テクノロジーがどのように日本を変えていくのだろうか。もっとも重要なことは、テクノロジーのためのテクノロジーではないということである。我々が作ったテクノロジーではなく、パートナーや顧客がテクノロジーによってどんな成功を収めることができたか。ワールドクラスのものとして何を作り出したかということだ。それが、マイクロソフトの核となっているとナデラ氏はいう。

今後、テクノロジーのパラダイムはインテリジェント・クラウドとインテリジェント・エッジになる。マイクロソフトが作っているソリューションを積木として使い、その基盤としてインテリジェント・クラウドとインテリジェント・エッジがある。

これらのビルディングブロックやソリューションは、デジタルトランスフォーメーションの手助けをしてくれる。

データ&AIでは何が起こっているのだろうか? Azureは、現在世界中で54のリージョンで稼働している。各リージョンには複数のデータセンターがある。認証については、どのプロバイダーよりも多く取得している。データセンター間のケーブルに至っては、月まで3往復できる長さになっている。日本にも2ヵ所のデータセンターがあるが、その容量をこの1年で2倍にする予定だ。

どんなアプリケーションを作ってもAIの影響を受けると、ナデラ氏は語る。マイクロソフトは、AIのリサーチでは最先端をいっている。ここ数年間で、AIに関して大きなマイルストーンを達成している。

2016年に画像認識率で人間以上の96パーセントを達成。また、2017年には音声認識の誤認識率で人間以上の5.1パーセントを達成している。また、今年の1月には文章の読解率で人間以上の88.5パーセントを達成。同じく今年の3月には、リアルタイム翻訳では人間と同等レベルの69.9パーセントを達成している。

 

これらは、演算能力、データ、画期的なアルゴリズムの3つがあったからこそ実現したものである。これにより、すべての組織がAIの組織になることができる。AIの積木を取り、自分たちのビジネスの一部やサービス、アプリケーションの一部にすることができるのである。

Azureは世界のコンピューターでAIの能力を持っている。『Microsoft 365』や『Dynamics 365』でもAIが使われており、それで変革を起こしている。それは生産性や協業、現代的な仕事の仕方の全てにおいてだ。

すべての『パワーポイント』のデザイナーが、もっと効率的にコミュケーションができるようになる。これらはすべてAIの能力である。

こうしたテクノロジーの進歩が何を意味するのだろうか。重要なのは、技術が現実社会でどのよう人によって使われているか、組織をどのように差別化しているかということである。技術によって、意思決定やエネルギーの使われ方がどう変わったかが重要だとナデラ氏はいう。

テクノロジーはコモデティ化している。しかし差別化する部分は、ビジネスで作り出す結果だ。いずれの企業もデジタルビジネスになっていくため、共通の責任が生まれる。テクノロジーがもたらす、不測の事態に責任を持つ必要があるのだ。

そのひとつ目は「プライバシー」である。ここでは、絶対的な変化が起こっている。ひとりひとりが、プライバシーを人権として扱う必要があるのだ。アプリケーションでユーザーのデータを扱う場合、それに対して透明性を持ち、あらゆるすべての規制にそうものにする必要がある。このプライバシーはまだ黎明期だ。

ふたつ目は「サイバーセキュリティ」だ。マイクロソフトでは、6.5兆のセキュリティがらみの信号を見ている。ログインは毎年4000億、マルウェアは10億以上のサンプルを検査している。これらは、『Windows Defender』などに活かされている。

3つ目は「AIと倫理」だ。すべての製品を作るときにAIが導入されている。コンピューターで何ができるのではなく、何をすべきかを考える時代となった。そのため、設計の原則が必要となる。

全ての開発者に対して、人を入れたデザインをし、堅牢なセキュリティを取り入れて作ることが原則となる。

マイクロソフトの内部には倫理委員会があり、多様な人が参加している。全ての製品デザイナーやフロントラインの人たちに、AIの倫理的な使用例についてレクチャーしている。どうやって倫理的なAIを世界のために作るか、グローバルな原則を作る必要があるのだ。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。