10.12
【World MR News】「HoloLensアプリ開発苦労話~驚愕の無茶ぶり、それはHoloLensではできません~」――Tokyo HoloLens ミートアップ vol.10レポート②
マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』のアプリ開発者が登壇し、VR/MRに向いたアプリやHoloLensアプリ開発の裏話などの紹介が行われるイベント「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.10レポート」が、10月6日に日本マイクロソフト セミナールームで開催された。
本稿ではその中から、株式会社セック 開発本部 第五開発部 主任の団野真一郎氏によるセッション「HoloLensアプリ開発苦労話~驚愕の無茶ぶり、それはHoloLensではできません~」の模様をレポートする。
元々個人で活動していた団野氏だが、2018年5月に同士が所属する株式会社セックがMRPP認定を取得している。同社は今年で創立48年の企業だ。300名ほどの社員がおり、受託で開発を行っている。
宇宙先端システム、モバイルネットワーク、社会基盤システム、インターネットといったおもに4つの事業分野を行っている。これらはMRと親和性が高いため、連携させて面白いことがやりたいと考えているそうだ。
個人の活動から始まりMRPP認定取得にまで繋がった道のり
同社がMRPP認定を取得した背景には、他社とは異なるユニークな経緯があった。昨年の3月に「Mixed Reality/スマートグラス基礎講座2017」という講座があった。そこで、「HoloLensミートアップ」の存在を知ることになったという。
この講座を受けることが決まったタイミングで、一緒に参加する同僚が『HoloLens』を購入。団野氏自身もその話を聞き、即日に購入をしている。『HoloLens』を購入し、作ったアプリを会社で見せびらかせていたところさらに社内で3名の購入者が現れた。
せっかく5人も『HoloLens』所有者が集まったということで、社内の勉強会を立ち上げ『HoloLens』を仕事にする覚悟を決めたという。
人が増えたことによるメリットとしては、Sharingが可能になった。また、ライバル意識が芽生えたそうだ。しかし、徐々にお互いが『HoloLens』に求める方向性の違いが出てきたのだとか。
ここで重要なところは、ひとりしか『HoloLens』を持ってない状況だったら特殊ケースと捉えられてしまうことだ。しかし、人が集まるとただのデバイスではなく何かがあるのではないかと思われるということだと団野氏はいう。
こうした活動がきっかけで取締役の目に止まり、ごはんを奢ってもらい、そこで『HoloLens』について力説をしたそうだ。また、PMのU氏が気を利かせてJAXAとの共同研究を始動している。JAXAでは元々流体シミュレーション結果の可視化を行っていたということも、この共同研究のきっかけとなっている。
本社エンジニアとミーティング中に事件が発生?
MRPP認定までのスケジュールとしては、昨年8月にJAXAとの共同研究を開始。コミュニティで11月にMRPPという認定制度があることを知ったという。12月にMRPP応募をし、今年の1月に書類選考が通過。2月にはマイクロソフト本社でトレーニングを行い4月にPoCを作成。そして、5月にMRPP認定を取得している。
中でもスピーディーだったのは、昨年11月から12月にかけてのスケジュールだという。渡航費など、いろいろな社内の手続きが必要だ。それがわずか2週間で話が通り、社内稟議が通っていたそうだ。
MRPPトレーニングでは、マイクロソフト本社のHoloLensエンジニアによる講義を受ける。そこで教わったのは、「アプリではなくユーザー体験の品質が大切」ということだった。アプリケーションの使い勝手の良さなどに注力してしまいがちだが、しかし『HoloLens』はそうではなくユーザーが体験するものを向上させることこそが大切なのである。
また、実際の開発手法などを学び、3日間でアプリの開発も行っている。これは参加した各企業のメンバーが入り交じった状態で実施されたそうだ。
さらには、本社のエンジニアと各社がPoCで作成しようとしているものについて相談できる、エンジニアミーティングも行われている。そこで事件が起きた。同社のPMのU氏が流体解析のシミュレーション結果を、『HoloLens』の限界を超えた数値で表示すると発言したのだ。
そこでマイクロソフトのエンジニアが答えたのは、「それは『HoloLens』ではできません」だったという。様々な問題があるなか、結局やることになったのだとか。
『HoloLens』単体ではどう頑張っても無理があるため、GPUマシンなどとインテグレーションを行っている。それを使ったとしても厳しかったという。また、Unityが使えないという問題もあり、類似ケースもほとんどなく開発機関も短い中で作成されている。
Unityを使用すると、簡単に『HoloLens』アプリを作ることができる。MR関連のライブラリーもマイクロソフトが公開しているからだ。しかし、今回はそのUnityが使えなかったため、新しいことやわからないことだらけだったが、それも楽しいことがわかったと団野氏は語った。
最終的にMRPP認定を取得することができた。その中で実際にトライすることができたのは、本気で楽しんでいて周りに見せつけていたからこそ、いろんな仲間が増えて会社の目に止まったところだった。
こうしたことは、ひとりで頑張っていてもダメだ。イベントやSNSでの繋がりも大切である。社内だけで盛り上がっていただけでは、ここまではならなかったという。さらに、アウトプットを出すということも大事だ。本気で覚悟を決めて動くことで、本気の人と繋がることができるのである。
最後に団野氏から「これからもMR界隈を盛り上げていきましょう。愛してるぜHoloMagicians!」という言葉で講演が締めくくられた。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。