2020
07.10

【World MR News】IoTを活用して仮想的現場のデジタルツインを作り現場に反映――「de:code2020」をレポートその④

World MR News

6月17日からオンライン上で開催された、マイクロソフトのテクニカルカンファレンス「de:code2020」。本来は6月30日までだったが、7月17日まで期間を延長。そのため、今年は約ひと月にわたって行われるという、大規模なイベントとなった。

開催期間中は、全108セッションが公開されたが、本稿ではその中から日本マイクロソフト 技術統括室 博士の千葉慎二氏によるセッション「Azure Kinect DK テクニカル Tips」と、IoT & MR 営業本部 技術営業部 テクニカルスペシャリストの東賢一朗氏によるセッション「Azure IoT 最新動向 – クラウドからエッジまで網羅的にご紹介」の模様をお届けする。

Azure Kinect DK テクニカル Tips

Azure Kinect DK(以下AKDK)の最大の特徴は、高視野のデプスを含むビデオキャプチャーと骨格追跡がオフラインでできるところだ。クラウドと連携することで、音声認識や画像認識も簡単に行える。AKDKには、カメラ以外のセンサーも付いている。従来までの『Kinect V2』と異なり、デバイスの向きだけではなく回転角も取得することができる。

Accelerometerだけを使っても、ある程度姿勢の状態はわかる。しかし、Accelerometerだけでは、完全な姿勢のデータを取得することはできない。その理由は、重力方向には変化のない軸回転には反応しないからだ。

一方、ジャイロを使用した場合でも姿勢はわかる。こちらは軸回転もしっかりとれ動作もスムーズだ。だが、こちらの場合も問題がある。ノイズが蓄積してドリフトと呼ばれる現象が起こるのだ。AKDKを机に置いた状態でも、徐々に回転して正しい角度からずれていってしまうのである。

それぞれは一長一短だが、このふたつのセンサーを組み合わせることで強みと弱みを補うことで問題を克服することができるようになっている。

IMUは、上手く活用することで床面を推定することができる。正確にはIMUに加えてデプスカメラの情報も合わせて使用している。

AKDKには、高感度の7つのマイクがある。マイク入力のサイクルレートは48kHzの7ch、32bit-floatの波形がやってくる。隣り合うマイクがちょうど40mmの正六角形に配置されている。中央のマイクは最初のチャンネルで、カメラレンズを上に向けた状態で12時の方向から時計回りに2~7チャンネルが割り振られている。

このマイクアレイの入力特性を活かして、空間的な音源を推定することができる。

データをローカルだけで処理しきれない場合や、他の環境でリアルタイムに使いたいときなどにデータを転送する必要が出てくる。『Kinect V2』よりも解像度が上がっているため、Depthデータをベタで送ってしまうと1MP×16bit×15FPSの255Mbpsにもなってしまう。このままでは効率がよくないため、通常は何らかの形でデータを圧縮することになる。

もっとも単純な方法は、リージョンを区切ることだ。フレーム数などを減らしても限界はある。そのようなときは、DepthをいったんRGBの色相にマップしてAKDKのカラーストリームでも使われているモーションJPEGといった、ビデオ圧縮の既存の映像圧縮技術を活用してしまうのもひとつの手である。

『Kinect V2』まで骨格追跡は機械学習で推論していたが、AKDKではディープラーニングベースになり使用が変更された。これにより、カメラ視野内の人物追跡がより強力になった。しかし、その反面システム側により多くの性能が求められるようになった。

この状況をどうにかするためのひとつの可能性として、クラウドリソースを利用する手がある。最近Azure Remote Renderingというサービスがリリースされたが、その発想に似たものだ。

Azure IoTの最新動向

2020年には、200億を超えるコネクテッドデバイスが存在するといわれている。1時間あたりにすると、100万台ものデバイスがインターネットに繋がっていく計算になる。こうした背景には、デジタルトランスフォーメーションを推進していく潮流がある。

デジタルトランスフォーメーションを進めていくには、クラウドだけではなく現場に近いエッジでAIを使うなどをしていくことも重要となる。現場にエッジやAIを入れれば終わりというわけではない。現場からクラウドに上がってきたデータを元に、現場に近い内容をクラウド側にもコピーして仮想現実を作成。それを元に未来を予測するデジタルツインといった使い方も必要となってくるのだ。

そうした中で、マイクロソフトが提唱している世界観が「Intelligent Edge, Intelligent Cloud」である。これは、クラウドの実質的に無制限なパワーとネットワークのエッジにある応答性に優れたデバイスを組み合わせることで、それぞれのメリットを活かすソリューションを構築するというものである。

それを実現するために、マイクロソフトではIoTの分野で50億ドルの投資を継続的に行っている。これによりクラウドはもちろんのこと、より現場に近いところにもリーチできる投資している。

クラウド側にフォーカスしたAzure IoTには、「Azure IoT Hub」がある。こちらは、エッジ側から上がってくるテレメトリをクラウド側で受け止める窓口のような機能だ。クラウド側からエッジに指示を出したり、エッジ側からクラウドに対してテレメントリを送ったりもできる。さらに100万台のデバイスをクラウド側に繋げるほか、ファイルのアップロードも行うことが可能だ。

もうひとつが「Digital Twins」というサービスだ。こちらは、エッジから集めてきたテレメトリを元に、クラウド上に仮想的な現場の状況を作ることができるサービスである。この仮想的な現場の状況を元にして、クラウド上で設計・製造・メンテナンスを試行錯誤して現場に反映することができる。

「Azure Maps」は、エンタープラズ向けの地図空間APIプラットフォームだ。なぜこちらが必要になるかというと、たとえば故障したときなどに地図がないとわかりにくいことから、こうしたサービスを提供している。

単に地図を提供しているだけではなく、A地点かB地点への経路計算や座標の変換、IPベースのローケーション情報取得などが行える。

エッジ側のAzure IoTには、包括的なポートフォリオを提供している。最近プレビューになった「Azure RTOS」は、リアルタイム性求められるデバイスに対して使うことで、エッジの組み込み部部に対しても使えるようになるものだ。

これにより、従来のOSに近い機能を備えつつ、リアルタイム性を確保したOSをエッジ側で使用できる。

パブリックプレビューで提供されているのが、「Azure Edge Zones」というサービスだ。こちらは、「Azure Stack Edge」と5Gの技術を組み合わせてエッジとクラウド間で発生するレイテンシを解決するサービスである。

こちらを利用することで、より現場に近いところでVMやコンテナといったAzure上で稼働するサービスやIoT Edgeを動かすことができるようになる。

このように、マイクロソフトではIoT領域で様々なサービスや製品を提供しているが、それらをどうやって構築すればいいのだろうか。同社では単純にサービスを提供しているだけではなく、サービスをどう組み合わせて顧客のニーズに答えるためにリファレンスアーキテクチャを用意している。

「IoTリファレンスアーキテクチャ」では、モノ(Things)、洞察(Insight)、アクション(Action)の3つの要素に対して、どんな領域のサービスを使っていけばいいのかアドバイスをしている。

「製造業向けリファレンスアーキテクチャ」では、サービスのユースケースの全体像を元に必要な業務ファンクションとサブシナリオ、業務ファンクションを現場の絵で図解したイメージ、必要なシステム機能とシステム構成図、サブシナリオでのシステム連携イメージ、マイクロソフトのサービスで構築するときのリファレンスで準備している。

本当に必要な業務にフォーカスを当てて、それをいかに技術的に解決していくことを目的としている。

「Smart Buildings & Spacesサービス連携リファレンスアークテクチャ」も準備している。こちらは、Smart BuildingsやSmart Spacesを作っていく上でのベストプラクティスのようなものだ。

マイクロソフトがIoT分野においてクラウドからエッジまで包括的に注力している理由は、同社のミッションが「地球上のすべての個人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにする」であるからだ。それを実現するために、デジタルトランスフォーメーションが必要な時代に、顧客を支援したいという思いが込められているのである。そして、そのために準備しているのがAzure IoTというわけだ。

こうしたサービスに加えて、導入視点から考えてどうAzureのサービスをマッチングしていくのかというリファレンスアーキテクチャも用意することで、総合的にIoT分野をサポートしているのである。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。