2019
07.25

【World MR News】ゲーム以外の分野でも広がりをみせるVRビジネスの現状――トークセッション「TECH STARTUPS.2」をレポート

World MR News

Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC:ケーニック)は、7月10日にテクノロジー分野の第一線で活躍する起業家迎えたトークセッション「【TECH STARTUPS.2】ゲームだけじゃない!VRビジネスの現状と未来」を開催した。

このKawasaki-NEDO Innovation Centerは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、川崎市、公益財団法人川崎市産業振興財団の3者連携により運営する起業家支援のワンストップ拠点だ。新たなビジネスに挑戦する人に役立つヒント・ノウハウ・出会いを提供することで、起業の実現から事業成長の加速化、資金調達やビジネスマッチングを支援行っている。

今回のテーマに選ばれたのは、タイトルにもあるように「VR」だ。講師としてSynamon 代表取締役の武樋恒氏、モデレーターとしてK-NICスーパーバイザーの岡島康憲氏が登壇し、トーク形式でセッションが進められていった。

■今は活用のフェーズではなくテストのフェーズ

▲Synamon 代表取締役の武樋恒氏。

ビジネス現場でのVRのニーズについては、使いたいと思っている企業は増えていると武樋氏はいう。「何か使ってみたいのですが」というものではなく、しっかりとやりたいことがわかっており、そのユースケースについても質問を受けることが多く、少し前に比べると企業側の理解度も進んできている。

複数人がVR世界に入り活動するためのベースシステム『NEUTRANS』を開発し、これを元にふたつの事業を展開しているSynamonだが、同社VRを扱っている背景には、「会議」だという。その会議の裏側には働き方改革があり、リモートアクセスで家に居ながらにして働くこともできるのだ。

VRにはふたつの軸がある。たとえば、動画VRと3DCGのVRとでは、軽自動車とF1ほどの差があるのだ。動画VRはお手軽だが、もう少ししっかりやらなければいけないと思ったときに、Synamonに相談に来るというケースが増えてきているそうだ。

武樋氏によると、同社が提供している『NEUTRANS』はまだ活用のフェーズではなく、テストのフェーズだ。VRをどう活用すれいいのかよくわかっていないところに対しては、まずは導入して使ってもらうようにしている。これは、スマートフォンが出始め、初めて触ったときの感覚に似ている。言葉であれこと説明するよりも、まずは触りながら試していくというフェーズと同じなのだ。

▲岡島康憲氏。

■VRはあくまでも「手段」に過ぎない

続いて、B2B向けVRビジネスを進めるための営業活動と人材獲得というテーマに。VRの営業は、いきなりゴーグルを持って被ってくださいといっても難しい側面がある。VR×ビジネスでコミュニケーションを扱っている会社は、まだまだ少ない。そのため、Synamonではインバウンドは100パーセントだという。VRに取り組む必要があると考えた企業から問い合わせがあり、そこからディスカッションを行っている。

とはいえすぐに導入するのはやはり難しく、道筋を立てていきながらコンサルティングのように係わっている。それは、あくまでもVRは「手段」に過ぎないからだ。VRを目的にしてしいる企業から問い合わせがあった場合は、「それは違いますよ」と説明しているそうだ。

VRについて理解を深めてもらうために1対1で啓発活動をしていくにも、人的などリソースの問題がある。このような、VR×ビジネスを知ってもらう活動については、悩みながら行っていると武樋氏は語る。

たとえば、動画を見ただけではチープに見えてしまうことがあるが、実際にVRで体験してもらうと反応が変わる。つまり、見せ方が重要でその伝え方がヘタだと「こんなものか」と思われてしまうのだ。そこでSynamonでは、体験してもらうことを前提に営業活動を行っている。そうでないと、自分たちで勝手に想像してミスリードしてしまうことがあるからだ。

ちなみに海外でVRビジネスを行っている企業は複数あるが、こちらは投資の額が日本とは異なるという。日本では、VRのシステムに1億円出せる企業があるかというと、大手でも難しい。もしかしたら1000万円でも難しいかもしれないが、海外では課長クラスが権限を持っており、「じゃ、やってみよう」という感じになるのだ。クォリティはそこまでは高くなくとも、掛ける予算や投資額が桁違いなのである。また、食いつないでいきながらビジネスができる市場があるところも、日本とは異なる部分であるという。

日本では、改善の部分にお金を使ってしまいがちだ。しかし、改善ではイノベーションは起きない。これは、安全なごはんを食べ続けているだけの状況と同じだ。しかし、イノベーションを起こすには食べると死んでしまうかもしれないキノコを、食べる勇気を持った人が必要なのである。成功するかわからないものに対して、企業がお金をかけることができるかどうかということが重要なのだ。

ちなみにヨーロッパではトップダウンになっており、新しいことをやらなければいけないと考えている。まずは300億円用意するといったところから始まり、その半分をスタートアップに使う。その分利益を出していく体質と、上げた利益を分配していかないと自分たちだけではできないという、ある意味追い詰められている部分がある。

日本でも最近は資金が用意されるようになってきたが、使い方でいちいち細かい指摘が入り、結局使いにくくなってしまっている。何を目的にお金を使い、その結果をどのようなパラメーターで表記していくかといったコンセプト検証のリテラシーが、日本の企業はないところが多いのだ。

■デジタルツインは演算能力がまだまだ足りない

ここ最近耳にすることがおおくなってきたのが、「デジタルツイン」という言葉だ。このデジタルツインは双子で、現実世界で動いたものがデジタル世界でも動くというものである。このデジタルツインはVRがないと実現できない。

しかし、これを実現するために一番要求が高い部分が、物理演算である。例えば製造業などではミリ単位で精度が求められている。それをリアルタイムで演算して描画するのは、技術的には演算能力などがまだまだ足りないのが現状だ。そのため、デジタルツインのどこまでをデジタルにするのかが重要となる。

今いる世界がどこかで作られた世界で、そのシミュレーションの中で生きているという「シミュレーション仮説」を実業家のイーロン・マスク氏は信じているそうだが、それを現実に実現するにはかなりの能力を持ったコンピューターが必要となるのである。

■ディズニーランドは現存するバーチャルリアリティ空間

つい最近、ロサンゼルスのディズニーランドに訪れたという武樋氏。これは、現存するバーチャルリアリティ空間だという。外からは中の様子を見ることが出来ないようになっており、施設の中に入ると夢の国が待っている。キャストひとりひとりも含めて世界観が作られているのだが、VRもまさに世界観を作っていくという点では同じだ。

ディズニーは世界最高峰の技術企業でもあり、論文を見ているだけでも楽しめる。一時期は3DCG系の論文がもてはやされていたが、武樋氏がそれらの中でも興味を持ったのはスタントのロボットだという。その動き自体も本物のスタントマンのようだが、ロボット自体も作っているところがすごいという。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。