2019
06.19

【World MR News】わずか500ドルの低価格ARグラス『nreal』など話題のハードも登場! 「世界最大のxRカンファレンス AWE報告会!」レポートその②

World MR News

6月11日に、Yahooロッジで開催されたパネルディスカッション「世界最大のxRカンファレンス AWE報告会!」。米国カリフォルニア州で、5月に開催された世界最大のxRカンファレンス「AWE(オーグメンテッド・ワールド・エキスポ)」の報告会として行われたイベントだが、本稿ではその中から「Smart Glass」のセッションについてレポートする。

■ユニークな発表が多かったスマートグラス

AWEでは、ハード面でも面白い発表が多かった。中でも大きな話題を集めていたのが、『nreal』と『Varjo XR-1』だ。また、Qualcommが提唱している「Smart Viewer」型のARグラスも注目を集めていた。

まずは『nreal』。こちらは、消費者向けARグラスとして、かなり期待できるデバイスとして仕上げられている。その特徴は、軽くてスタイリッシュで安くて十分な機能を持った、サングラス型のARデバイスであるというところだ。

重量はわずか88グラムで、普通のサングラスよりやや重いぐらいだ。サイズも、通常のサングラスより一回り大きい程度に収められている。デザインはストリートブランド風であるため、街中で掛けても恥ずかしいと感じることはない。

なんといっても衝撃なのは、その価格だ。一般消費者向けがわずか499ドル。それに先駆けて、開発者kitが1199ドルで今年の9月に発売されるが、こちらはグラスとコンピューティングユニットとタッチパッドのコントローラーがセットになっている。価格はAWEで初めて公開されたのだが、発表時には会場内が一気に湧いたという。

ちなみに、『nreal』のグラス自体にバッテリーやCPU、GPUが入っているわけではない。スマートフォンと接続して利用するデバイスとなっている。対応しているのは、Snapdragonの最新2バージョンで、コードで接続することで給電と処理系を行っている。

視野角は、『Magic Leap』と実数値は同等だが体感的にはそれよりも広く感じるという。高解像度で6DoFであるため、歩き回ることも可能だ。また、平面検知とイメージトラッキング、Spatial Soundに対応。2台のSLAM用カメラと1台のRGBカメラを搭載しており、ゆくゆくはハンドトラッキングにも対応する予定だ。現在は、どの方式を採用するか検討している段階だという。

▲左は、『nreal』越しに見える映像を撮影したもの。『Magic Leap』や『HoloLens』と比較しても、輝度や解像度が高い。こちらは片眼のものを映し出しているが、実際は両面で見るため立体的に見える。

『nreal』が『Magic Leap』と大きく違う点は、焦点距離だという。『Magic Leap』では近づくと消えてしまうが、『nreal』ではARオブジェクトに近づいても見えるため、体験の質も上がっている。

▲他社製品との比較で使われていたスライド。一番右が『nreal light』で、発色が良く解像度も高いことがわかる。

 

『nreal』のブースでは、3つのデモが体験できるようになっていた。ひとつは、生活空間の中でどのように『nreal light』を活用するかのデモ「Future Home in Mixed Reality」だ。ふたつ目は、台の上に様々なマーカーがあり、様々なARコンテンツが見られるようになっていた。もうひとつは、スタンディング形式でライトに体験できるというデモである。

「Future Home in Mixed Reality」は、家をイメージした空間が用意されており、机とスタンドグラスが置かれていた。そこで『nreal light』を掛けると、空間上にカラーパッドと音符が浮かんでいるのが見える。音符をコントローラーで押すと、スピーカーから音が出る。また、IoTの文脈で、カラーパッドで色を選択するとライトの色がその色に変化する。

また、コントローラーを猫じゃらしのように振ると、どこからともなくヴァーチャルな猫が出現する。『nreal light』が机の高さを認識しており、机の上にポインタを置くと猫が飛び移る。これを見たMESON COO 小林佑樹氏は、仮想ペットのようなことができると感じたそうだ。

特別なアプリも用意されており、『AR Cinema』では100個ほどタイトルが並んでいるものの中から好きな映画を選ぶと、巨大なスクリーンが目の前に出現し自由なところに置くことができる。

『Shopping』というアプリでは、カタログで家具がいくつか並べられており、それをピックすると3Dで色やサイズが変更できるようになっている。このように、自宅にいながら家具のショッピングもできるというデモになっていた。

ユニークなところとしては、近視の人用に『nreal light』のレンズがマグネットで簡単に取り付けられるものも用意されていた。片眼ずつ自由な組み合わせで取り付けることができるため、それぞれの目で度数が異なる人でも対応することができる。

このように、「マス向けのARグラス」にきちんとフォーカスして作られているのも、特徴のひとつである。

更に詳しい情報は、小林氏のnoteでも詳しく紹介されているため、興味がある人はそちらも合わせてチェックしてみて欲しい。

nreal がAWE2019で見せてくれた「消費者向けARグラス時代の幕開け」|小林佑樹(ARおじさん)|note

https://note.mu/ar_ojisan/n/nc16e552f51ef

■Simple ViewerからSmart Viewerへ

Qualcommとnrealはパートナーシップを結んでいるが、そのQualcommのセッションで語られていたのが「Simple ViewerからSmart Viewerへ」という話題だ。最も理想的なものは、スタンドアロンのメガネである。そうした状況になるまで、どのような経緯を取るかということで、提唱しているものが、この「Simple ViewerからSmart Viewerへ」なのだ。

「Simple Viewer」は、スマートフォンに入っているSnapdragonを活用し、ケーブルを繋いでビューワーとして描画をするというスタイルである。これは、『nreal light』が現在採用している形式だ。

そこから、ビューワー側にもSnapdragonをインストールし、パフォーマンスやパワーを改善したAR体験を実現するのが「Smart Viewer」である。

スマートフォンは一日中使えるバッテリーや熱効率で、持ち運びに効率化されている。また、強力なストレージやメモリも搭載している。一方で、ビューワーはリアルタイム性や即時的な計算を行うことができ、メガネのカメラが常にオン状態になっていることで、それに対して描画をする。このように、役割分担されていることが大事だと語られていたそうだ。

■人の目に近い解像度のVRヘッドマウントディスプレイ『Varjo XR-1』

AWEの全体的なアワードを最終的に獲得したのが、『Varjo XR-1』というデバイスだ。こちらは、フィンランドのVarjoという企業が開発した人の目レベルの解像度を持つMRデバイスで、体験したジャーナリストは「世界で初めて何が現実で何がヴァーチャルかわからなくなるデバイス」と評している。

デバイスにカメラが取り付けられており、カメラ越しに現実世界の映像を見ることになる。通常、このようなビデオシースルー型は解像度や遅延などから、ビデオを見ていることがわかる。しかし、実際にかけて見てもまったくわからないという。

デモでは掛けた後、目の前に車のARオブジェクトが出現する。ARグラスとは異なりビデオシースルー型であるため、本当にそこにある感が強いのだ。車の外の風景が、ベネチアに切り替わっていくのだが、その時の切り替わりの違和感もない。そのため、一瞬どこまでがヴァーチャルでどこまでが現実かわからなくなるそうだ。

Varjoがボルボと協力して行っているのが、実際の車をこのデバイスを付けて運転していることだ。映像の途中でワイヤーフレーム化し、車だけがARオブジェに切り替わる。その時にもまったく違和感がなく、外の映像も遅延無く見ることができるのである。そのため、唯一車を運転しながら装着できるMRデバイスとアピールしているそうだ。

『nreal』はビジネス的な観点で、『Magic Leap』ができることを低価格で実現しているが、純粋な体験として感動したのは、こちらの『Varjo XR-1』だったとMESON CEOの梶谷健人氏はいう。

ちなみに、『HoloLens』はノキアを買収してノキアのARグラスチームを吸収する形で作られている。しかし、Varjoは、そのノキアのARデバイスを作っていたチームが起ち上げた会社だ。そのため、本物の腕を持ったスタッフが開発に携わっているのである。

■ほぼ普通のメガネのような『Focals』

小林氏が掛けているのが、ほぼ普通のメガネのような形状をした『Fpcals by North』だ。約66グラムと、一日中掛けていても気にならない重量で、右目に網膜投影することで情報が描画される。

網膜投影であるため、視力や回りの明るさに依存せず、情報が見られるのも特徴だ。また、自分以外の人に描画内容が見られないというメリットもある。価格は599ドルとお手頃な値段だ。Alexaやメッセージの返信も行うことが可能で、『Loop』と呼ばれる指輪型のコントローラーを縦横押し込むことで、中の情報を変更することができる。

▲小林氏が指にはめているのが、『Loop』と呼ばれる指輪型のコントローラーだ。ちなみに、電源はOFFになっている。

購入フローはやや複雑で、このAWEの会場に計測器が持ち込まれており、3Dモデルの顔を作って自分に合うメガネを作ってもらう。なぜここまでやるのかというと、網膜投影であるため、ピッタリ合わせないと何も見えないからだ。そのため、他の人に渡しても使うことは出来ない。そのため、オンラインでは購入することができないのである。

小林氏が数日使用した感想としては、着け続けていても苦にならなかったという。見た目も違和感がないため、街中で付けていても変な目で見られることがない。表示される情報も少ないため、日常生活が妨げられることもない。位置づけとしては、メガネ版Apple Watchという感じだそうだ。

中でも便利なのが、Google Slideと連携できるところだという。ここで台本を表示させながら、読み上げるといったこともできるのだ。また、従来までのメガネ型デバイスは、メガネ側にタッチするものがほとんどだが、指輪型コントローラーであるため手を下ろした状態でも使うことができる。

■音のARの可能性と『Bose AR』

『Metaverse』の著者であるCharlie Fink氏が、「サウンドは究極的なAR体験への重要な足がかりになる」と語っている。いきなりARデバイスに乗り換えていくというのはハードルが高いが、音から入るのは敷居が低い。サウンドデバイスは誰でも持っており、シンプルな情報であれば音だけでも十分だからだ。

そうした意味から『Bose AR』は要チェックだとCharlie氏は述べている。この『Bose AR』は、GPSと3軸センサーが入っており、自分がどこにいてどの店を見ているのかがわかるようになっている。お店の方を見ながら操作すると、その情報を音で流してくれるのだ。また、Special Soundで立体的な体験もできる。

SDKも提供されており、今回のセッション内でも20~30程のアプリが出ていたそうだ。欧米ではかなり売れ行きがよく、2019年中には100万台を出荷する予定である。

『nreal』も『Bose AR』もサングラスタイプだが、西海岸ではほぼ全員がサングラスを掛けている。わざわざARグラスを買って掛けるのはハードルが高いが、普段使っているサングラスを切り替えるのはハードルが低い。

▲梶谷氏が手に持っているのが『Bose AR』だ。一見すると、普通のサングラスにしか見えない。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。