2019
06.03

【World MR News】5G時代到来でXRはどう変わる? 「5G×XR:5Gで広がるXRの世界」レポート

World MR News

NTTドコモは、4月24日に東京・渋谷のドコモR&Dサテライトスペースでイベント「5G×XR:5Gで広がるXRの世界」を開催した。2018年から数えて、今回で5回目となる本イベント。毎月異なるテーマで開催されているが、今回はタイトルにもあるように「XR」に焦点を当てて、同分野の著名人を招きプログラムが実施された。本稿ではその模様をレポートする。

■5Gをうまく活かしたコンテンツは明確には打ち出せていない

はじめに登壇したのは、NTTドコモ イノベーション統括部クラウドソリューション担当 担当部長の秋永和計氏だ。今回は「5Gイノベーションとは?」をテーマに、NTTドコモの5Gに対する取り組みが紹介された。

NTTドコモ イノベーション統括部クラウドソリューション担当 担当部長の秋永和計氏。

「5G」とは、第5世代の無線通信のことを指している。当然のことながら、NTTドコモでも5Gに向けての準備を進めており、2019年9月にプレサービスを開始し、オリンピックイヤーである来年から商用サービスをスタートする。

この5Gを説明するときに、よく取り上げられるのが「高速・大容量」「低遅延」「多数の端末との接続」の3つが描かれた三角形の図だ。5Gになるとピークレートが20Gbpsとかなり速くなり、無線も1msという低遅延で繋がる。また、10の6乗デバイス/平方キロメートルあたりまで、多数の複数端末が同時接続できるようになる。

こうした特徴をうまく活かすために、5G直結のクラウド基盤「5Gオープンイノベーションクラウド」を立ち上げ、クラウド上にコンピューターのリソースを置き活用してもらおうという取り組みを行っている。

しかし、コンテンツを作る立場からみると5Gはわかりにくい。「5Gをうまく活かしたコンテンツやアプリケーションは、現時点では明確には打ち出せていないというのが、全世界のキャリアの共通した特徴」と秋永氏はいう。

同氏は今回のイベントに取り組んでいる理由について、「速度が速くなることはいいが、それにプラスアルファして何が出来るか一緒に考えていきたい。今ならまだサービスが開始されるまで1年半の期間があるので、アーキテクチャにとらわれずに今足りていないものを考えて、5Gの理想型を作っていきたい」と話す。

低遅延や広帯域以外に、5Gには大きな特徴がふたつある。ひとつは、「ネットワークスライシング」だ。従来までは、SIMを挿せばある程度同様の品質でサービスを利用することができた。より多くの料金を払っている人に多くの帯域を割り当てるというのが、この「ネットワークスライシング」の考え方である。

もうひとつは「エッジコンピューティング」だ。これまでは、自分のスマホから交換機を通ってネットワークが繋がっていくのに、そこそこの時間が掛かっていた。しかし、それではせっかくの低遅延や広帯域が活かせずもったいない。そこで、できる限り手間にサーバを置いた方が速く通信が出来るのではないかという考え方である。現状はアイデアとしてはあるが、まだ議論が行われている最中である。

例えばネットワークの対戦ゲームを例に考えたときに、現在はひとつのサーバに多くのプレイヤーが接続する「クライアントサーバー型」よりも誰かがホストになって、他のプレイヤーがそこに接続する「P2P型」が多い。しかし、そのなかでひとりでもチーターが含まれていると、ゲーム性そのものが壊されてしまうことがある。それをクライアント側でどうにかしようとしても難しい。しかし、サーバがより近くに置けるようになると、こうした問題が低減したり、高品位なゲームが楽しめるようになったりするのだ。

こうしたアイデや考え方は、「5Gイノベーションプロジェクトページ」で、随時公開されている。過去の記事も読むことができるので、興味がある人はチェックしてみてほしい。

5Gイノベーションプロジェクトページ

https://5g-innovation.com/

■5GでXRは何が変わるのか?

Mogura代表取締役の久保田瞬氏からは、「5GでXRは何が変わるのか?」をテーマに、XRの現状と未来が語られた。

Mogura代表取締役 久保田瞬氏。

VRやARに5Gが必要な理由は、「コンテンツの容量が膨大だから」と久保田氏はいう。頭にデバイスを身につけるため、低遅延であるところもメリットである。実写の360度コンテンツなども目にする機会が増えてきたが、現状は4Kほどの画質までしかリアルタイムで中継することができない。それならば実際にスタジアムなどにいったほうがいいという話になるのだが、よりリアルに近づけるには画質を上げていくしかない。こうした部分に関しても、5Gは有効なのだ。

仮にARグラスを全員が掛けている時代がやってきたとしても、目の前にあるオブジェクトが同じ位置に見えないと意味がない。これらを同期させるシステムのことを「ARクラウド」と呼んでいる。

これは、現実世界にバーチャルのオブジェクトを3Dの座標に置き、それを投影して複数人が同時に共有できるというものだ。大手の企業も取り組んでいるが、世界中のどこでも使えるようなものにならないと、常時使えるというものにはならない。

当然のことながら、「ARクラウド」は常にサーバを介してデータをやりとりする必要があるため、5Gの性能を活用することができるのだ。しかし、実際にはこのようなARデバイスは現時点ではまだ存在しないため、ハードの面の進化も含めてもう少し見守っていく必要がありそうだ。

5Gの時代が来たからといっても、すぐに劇的な変化が出てくるわけではないと久保田氏は語る。デバイスもスタンドアロンタイプのものが登場し始めてから、まだ1年程度しかたっていない。ARにいたっては、市販のデバイスがほとんど存在しない状況だ。

しかしながら、「VRはより安価に高品質なものが体験できる」という状況が続いている。新しい製品であるため、製品自体のサイクルが早いのがその理由だ。1~2年前に高いと感じていたとしても、それらを解決したデバイスが次々と登場してきているのである。

ちなみにARグラスに関しては、サムソン、ファーウェイが開発を表明しているほか、アップルも開発をしていることは間違いないと見られており、2020年以降次々と登場してくる予定だ。

■現実視界とCGの見分けがつかなくなるXR視界

トライゼットの西川善司氏からは、「現実視界とCGの見分けがつかなくなるXR視界」というテーマで、XRに関する解像度の話題が紹介された。8KのVRデバイスなどもちらほら登場してきているが、そもそも解像度はそれほど必要なものなのだろうか。この解像度だけに関していえば、「現実世界と区別がつかないもの」が究極のゴールだといえる。

トライゼット 西川善司氏。

2013年にNHK研究員の正岡顕一氏が解像度に関する論文を発表しており、カメラで撮影した映像をモニターに映し出したものと現物を比較し、どれぐらい離れたときに区別ができなくなるかを調査している。

その結果、映像の横解像度が1分あたり2ピクセルくらいに見える距離になると、区別がつかなくなったという。現状の解像度に当てはめてみると、フルHDでは画面の高さの6倍、4Kテレビでは3倍、8Kテレビでは1.5倍程度離れる必要があるというわけだ。 

これをXRに当てはめてみると、一般的なVRゴーグルの視界が水平100度程度であることから、片目あたり12Kぐらいになると現実と区別がつかなくなるという。1枚の映像パネルを中央で区切り左右の目に割り当てるというアーキテクチャに当てはめた場合、概ね24K程になる。

これは8Kの9倍ほどのピクセル数だが、それを60フレームで伝送すると900Mbpsほどになる。これを次世代コーデックのH.266を使ったとしても450Mbpsは必要だ。さらにVRで60フレームは辛いため、120フレームほど必要だと考えると、やはり900Mbpsは必要ということになる。

映像パネルとしては、6インチ/24Kで4400ppiぐらい必要だ。現行の最新技術では1000ppiぐらいまでしか作れないが、それほど技術的に大きな開きがあるというわけではない。西川氏によると、「今後は、大型の映像パネルよりも小型の映像パネルの高精細化が求められてくる」という。

■5G-XRライブへの挑戦

テンセントの番組でARバーチャルアイドルやアバターによるテレコミュニケーションサービスなどを手がけてきた時空テクノロジーズ。同社が今挑戦しようとしているのが、「5G-XRライブ」だ。

時空テクノロジーズの代表取締役CEOの橋本善久氏。

先ほども5Gの特徴を表すトライアングルの図が出てきたが、実はこれは同時に全部取りすることはできない。そうしたときに、「ネットワークスライシング」や「優先制御」「エッジコンピューティング」などを駆使して、バランスを取っていく必要があるのだ。

テーマとしては、やや無茶な要件で5GのXRライブを作り、5Gをいじめてみてその限界を探るのだという。

現実空間に客やタレント、バンドやオーディエンスがいるほか、別の場所にも出演者やオーディエンスがいたり、さらには複数の場所での参加や中継を行っていたりするときなど、考え得る様々なパターンを用意。これにより、歌や演奏、コール&レスポンスができるのかということや、客のグルーブ感が出るのかということを検証していく予定だ。

■VR世界にはデジタルならではのコンテンツが必要

キズナアイをはじめ、多数のバーチャルタレントのプロデュースや企画、運営を行っているActiv8。同社の代表取締役である大坂武史氏からは、コンテンツサイドの紹介が行われた。

Activ8 代表取締役 大坂武史氏。

数年前に、PCでバーチャル世界を作り上げる『セカンドライフ』というサービスが流行した。時代が早すぎたともいえるが、「セカンドライフが流行らなかったのは、キラーコンテンツが無かったのが理由。こうしたVR世界を成立させるには、デジタルならではのコンテンツが必要になる。そのコンテンツの中心にいるのは常に人。デジタルならではの人をプロデュースしていくことが、デジタルで注目を集めるきっかけになると信じている」と大坂氏はいう。

現在7000人以上のVTuberがいるが、世界でもバーチャルな存在がメディアで活躍し始めている。Instagramで150万人ものフォロワーを持つインフルエンサーのリル・ミケーラは、実在する人物ではない。また、中国でもバーチャルアイドルの市場が一気に立ち上がってきている。

これは、メディア自体がアナログからデジタルに変わってきており、デジタルコンテンツがメインになってきている。漫画などでもコンテンツの中心は人だが、そこにはこれまでテクノロジーが介在していなかった。

しかし、モーションキャプチャーやCGなどの技術が進化してきたことで、人をデジタル化することが容易になり、バーチャルな存在が活躍するきっかけになったのだ。

ちなみにキズナアイのファンは、7割が海外である。チャンネル開設して1年ほどは、8~9割ほどが海外のファンだった。日本のYouTuberは国境を越えられないという悩みがあるが、見た目を自由に設定できるということも相まって、海外でも受け入れられているという。

通常のライブでは、例えば投げ銭をしても何も反映されないが、バーチャルタレントの場合はそれ自体がデジタルであるため、VR空間の中に花束を贈ることができるほか、バーチャルタレントがその花束に干渉することも可能だ。

音楽ライブでは、人間のアーティストができる演出には限界がある。それがデジタル化されることで、様々な可能性が広がってくる。VRゴーグルさえあれば場所を問わず体験できるため、5Gのような通信環境が整ってくればライブ自体の体験も変わってくるという。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。