04.22
【World MR News】日本マイクロソフトの高橋忍氏が『HoloLens 2』のスペックを独自に読み解く!――「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.14」レポート
マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』のアプリ開発者が登壇し、アプリの特徴や開発秘話などが披露される恒例のイベント「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.14」が、4月13日に東京・品川の日本マイクロソフト セミナールームで開催された。本稿ではその中から、日本マイクロソフト パートナー テクニカル アーキテクトの高橋忍氏によるセッション「HoloLens 2 /MR関連技術 最新情報(仮)」の模様をレポートする。
■『HoloLens 2』では前モデルに比べて3倍快適に!
2月に『HoloLens 2』が発表されて以来、初の開催となる「de:code 2019」。そこに、アレックス・キップマンの登壇が決定した。2年ぶりとなる「de:code」の参加だが、マイクロソフトが主催する他国開催のイベントに同氏が登壇したのは、日本が初めてだったという。これは、それだけ日本を重視しているということもでもある。
1月に開催された「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.13」で、アレックス・キップマンが「See You Soon」というメッセージをのべていたが、それが実現した形だ。
今回高橋氏がテーマにしたのは『HoloLens 2』だが、同氏もまだ触ったことがないのだという。また、ほとんどの情報についても、そのほとんどが公開されている。そこで、高橋氏の独自解釈を含めて、『HoloLens 2』のスペックを読み取っていきながらの紹介が行われた。なお、スライドに「いらすとや」風のイラストが入っているものは、高橋氏の意見が盛り込まれたものとなっている。
前モデルの『HoloLens』には、他の人に使ってもらうときにあわせづらかったり、頭が痛くなったりするなど様々な不満点があった。また、3人にひとりはエアタップができない人がいる。それはエアタップという操作のコストが高いからだ。また、視野角が狭いという意見もよく出てくる。
業務で使おうととしたときに、アプリがないことがわかる。これがiPadなどならば、購入してアプリをダウンロードしてすぐに業務で使うことができる。また、カメラの精度が低すぎて、認識させようとすると精度が甘くなってしまうという問題もある。こうしたフィードバックを世界中から受けて、開発チームが新たに設計しなおして作られたのが『HoloLens 2』である。
この『HoloLens 2』では、「快適性の向上」「没入感の向上」「価値創造時間の短縮」といった3つの改善が行われている。まずは「快適性」だが、こちらは3倍向上している。頭に付けたときのホールド感や長時間付けたときのフィット感に対する不満点が、世界中で多かったという。そこで、対象となる14歳以上の95パーセントの人にフィットさせる改善をおこなっている。
かなりの人数の頭の形をとってモデル化し、どのような形にすればよいか思案された。東アジアの一部で、頭部の形状が異なり、どうしても当たってしまうことから悩んだそうだが、最終的にはおでこの部分にカップ型のものを付け、前後で挟む形にすることで解決している。
これまでの『HoloLens』は重さが前方に集中しており、どうしても重く感じる人が多かった。これは、本当に重いというよりも重心のバランスが悪いから感じることだ。そこで、『HoloLens 2』では後部にも重心を集めるようにしてバランスを取っている。体感した人の話では、「軽く感じる」「付けやすい」という意見が出ていたそうだ。
つまり、前モデルと比べて3倍の時間使用しても疲れないという意味も含まれているという。
『HoloLens 2』といえば、話題になったのが新たに採用されたバイザーをフリップアップできるところだろう。『Windows Mixed Reality』にもフリップアップ出来るモデルがあるが、あちらは完全に没入するため現実世界を見るために必要な機能だった。
しかし、実際に人と面と向かって話すときに、バイザーのようなものがあると邪魔になってしまう。こうした問題は、工場など実際に使用する現場では顕著に出てくるという。
■『HoloLens 2』では視野角も2倍に!
狭いと言われていた視野角も、『HoloLens 2』では2倍に向上する。ただ視野角を広げても、解像度がそのままならば映像が粗くなってしまう。そのため、解像度も合わせて向上している。
ちなみに視野角とは、目から見てスクリーンで表示可能なエリアのことを指している。VRも同じだが、スクリーンは大きくない。ピントを合わせるという意味もあるが、凸レンズを使用しスクリーンのサイズを大きくしているのだ。周りの周辺もひしゃげてしまうが、逆にあらかじめひしゃげておき四角く見えるようにしているのである。
VRとは異なり『HoloLens』の場合、視野角を広げるにはスクリーンサイズを大きくするしかない。しかし、ここで疑問が出てくる。そう、スクリーンの下側がはみ出してしまうのだ。じつは、『HoloLens 2』ではスクリーンの下側は欠けている。それでも、全体としての視野は大きく見えるように設計されているのだ。
開発者ならばわかるかもしれないが、『HoloLens』の下側両サイドの角はいらない部分でもある。見えたとしても使い切れない。むしろ、上の角の方が有効である。ちなみに、前モデルの『HoloLens』もよく見るとスクリーン下側の角は欠けている。
視野角度と合わせて向上した解像度だが、こちらは23pixed per degreeから47pixed per degreeと、ほぼ倍になっている。1角度あたりの光学ポイントは、前モデルとあまり変わっていない。ただし、スクリーンサイズは前モデルがHDの16:9だったのに対して、『HoloLens 2』では2Kの3:2になっている。
■両手10本指が認識可能に
新たなセンサーを搭載することで、両手の指も認識できるようになった。これまでは、エアタップとハンドポイントだけと操作が限られていたが、これにより掴むといった動作も認識可能になっている。これらを実現したのは、「Azure Kinect」のおかげだ。
「Kinect」にはIRの深度センサーとRGBカメラなどで、身体の骨格をハードウェア側で認識する機能が備わっている。これまではRGBカメラの画像検出のみで行っていたため、エアタップとハンドポイントだけだったが、より高精度なものが認識できるようになったのだ。
高橋氏によると、これまでの『HoloLens』を被ったときの手は、いわばドラえもんと同じだったという。中心点が1点だったのが、2点になることで方向を示せるようになる。これが3点になると、面を作ることができる。つまり、モーションコントローラーに近い情報が取得できるようになるのだ。
『HoloLens 2』では、片手で25点取得することが可能だ。しかし、これをひとつひとつジェスチャーに置き換えるのは大変である。掴むや握るという部分に関しては、イベント側で取得してくれたり、ボタンで拡張して取得してくれたりするようになる。また、掴んだというような情報も、MRTKで吸収してくれる。
3つの機能を持ったアイトラッキング機能を搭載
新たに搭載されたアイトラッキングには、大きく分けて3つの機能がある。ひとつ目は「Windows Helloの虹彩認証によるログイン」だ。こちらはPCの顔認証とは異なり、目の網膜を使った認証である。そのため、マルチユーザーで『HoloLens 2』を使うときに、被った瞬間に認証されログインできるのだ。
ふたつ目は「瞳孔間距離の自動調整」だ。黒目の位置を認識して調整してくれるため、不特定多数の人に被ってもらうときも、キャリブレーションが楽になる。
3つ目は、入力装置としての「視線追跡(アイトラッキング)」だ。アイトラッキング自体は細かい操作はあまり得意ではない。しかし、左右を見るとメニューがふわりと現れるなどのものや、大きく上下にスクロール程度はできる。そこで、おそらく当初はアイトラッキングでブラウザをスクロールするような機能が入ってくるのではないかと、高橋氏はいう。
ウィンドウズ10に、アイトラッキングでブラウザ操作が行えるという機能が半年ほど前のアップデートで実装されている。それが入ってくるのではないかと予想されるというわけだ。
TechCrunchの記者の記事によると、最初のバージョンのテストで気が付いたのが、IPD測定のキャリブレーションが自動的に行われるところだったという。目の前に光の点が現れ、そえを目で追いかけていくだけで調整されるという。設定が終わった後、ユーザーが手のひらを出すと、そこにハチドリが現れてキャリブレーションが完了するという。
その他のスペックは?
カメラは静止画8MP、動画は1080p30フレームと高画質化しており、キーノートなどで使用しても普通に動画を撮ることができるのではないかと思われる。マイクとスピーカーは従来モデルと同じものを継続して採用している。
これまでは「Atom x5-Z8100Pの1.04GHz」が搭載されていたが、『HoloLens 2』ではSocに「Qualcom Snapdragon 850」が採用されている。クロック数は明らかになっていないが、「Snapdragon 850」は約3GHzまでオーバークロックで動かすことができるため、かなりパワフルになることは間違いなさそうだ。
HPUも第2世代になり、Wi-Fiが802.11 AC 2×2が使えるようになっている。これにより、Wi-Fiの速度もかなり上がるのではないかと期待できるという。USBもType-Cになり、以前よりも抜けにくくなるかもしれない。また、スペックには書かれていないが、高速充電ができるかもしれないと、高橋氏は期待しているという。
「Holographic Processing Unit 2.0」にも、面白い機能が搭載されている。「ネイティブDNN(深層学習ライブラリ)」がハードウェア的に実装されており、音声認識などをローカルで高速処理することができる。また、画像を使ってマッチングしたり認識したりといった、AIの機能である「Custom Vision処理」も搭載されている。
こうしたスペックを見ていくと、『HoloLens』のセンサーでデータを取っていくという考え方から、『HoloLens 2』ではセンサーから取得したデータを理解するという風に変わってきていると高橋氏はいう。
人の写真があってデータとしてもらうという感じではなく、そこに3人座っていると認識するというところまで、処理してくれるようになるのだ。ヘッドトラッキングで顔の方向だけで見ていたものが、アイトラッキングによりもう少し深い部分まで傾向分析できるようになる。また、ハンドジェスチャーだけだったのが、手を握ったというのを理解することまでできるようになる。ボイスコマンドについても「セレクト」といってたが、自然言語でできるようになるのだ。
『HoloLens 2』は、デバイスのみと『Dynamics 365 Remote Assist』が付属した2種類が発売される。価格は、デバイスのみが1台につき3500ドルとなっている。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。