2019
03.27

【World MR News】「xR × 施設型エンターテイメント」誕生の裏側は?――「Tech-on MeetUp#05」レポート②

World MR News

Tech-on ~Networking for Techies~は、3月11日に東京・渋谷のTECH PLAY SHIBUYAで「Tech-on Meet Up #05」を開催した。本稿ではその中から、ティフォンの村上俊介氏とYichuan Shao氏によるセッション「xR × 施設型エンターテイメント」についてレポートする。

ホラー系VRアトラクション『コリドール』の開発秘話

写真左より、ティフォンのサウンドデザイナー/エンジニアのYichuan Shao氏とエンジニアの村上俊介氏。

アートとテクノロジー、クリエイティブを融合して魔法のような新しいエンターテイメントを、ひとりひとりに届けるために活動しているティフォン。同社ではこれまで、シリーズ累計4000万ダウンロードを記録したスマートフォン向けアプリ『ゾンビブース 2』や、ディズニーアクセラレータプログラムで支援を受けて作ったディズニーキャラクターに変身できるアプリ『Show Your Disney Side』などを提供してきた。 

現在は、施設体験型のMRアトラクションとして、ホラー系のアトラクション『コリドール』とファンタジー系のアトラクション『フラクタス』を展開している。

これらのコンテンツは、お台場と渋谷のMR体験施設の「ティフォニウム」で体験することが可能だ。

『コリドール』は、洋館コリドールの中を探索していくVRコンテンツだ。ここではかつて惨劇が起こり、現在は廃墟になってしまっている。その中に迷い込んでしまったプレイヤーは、生還を目指して館の中を探索していくことになる。

こちらは、4.5メートル×8.5メートルの空間を、ヘッドマウントディスプレイとバックパックPCを背負って歩き回るというものになっている。一般的なVRコンテンツは座ったまま体験するものが多いが、実際に自分の足で歩き回るため高い没入感が得られるほか、酔いにくいという特徴がある。

また、ヘッドマウントディスプレイを被っているときでも、実際に人の姿が見られるようになっている。こちらは、ヘッドマウントディスプレイ側のカメラで実写の画像を取得し、紫で覆われたブースをクロマキーで切り抜いて、合成して表示している。

開発当初は、ステレオカメラやデプスセンサーをヘッドマウントディスプレイの外部に装着することを検討していた。しかし、接続の問題やデータ転送の負荷が高いなど、様々な問題があったという。

そこでHTC VIVEを使ってみたところ、その内蔵カメラの使い勝手が一番良かったところから、このような仕様になっている。

実際に内蔵カメラで取得する画像は、明るい部屋であるためそのままでは明るいままになってしまう。そこで、アトラクション内のライティングに合わせた明るさになじませるようにしている。

内蔵カメラでは、奥行きが取れないという問題点がある。アトラクション内にふたつの部屋があったときに、片方が奥にいると壁に隠されて見えないハズなのに見えてしまうということがあるのだ。

また、同じ場所を歩き回るコンテンツになっているため、片方だけがどんどん先に行ってしまうことも問題となる。そこで、解決策としてプレイヤー同士がリングを手に握りながら、探索するようにしている。

ヘッドマウントディスプレイを被ったプレイヤーが見ている景色は、広い空間やどこまでも続く廊下だ。単純にそのまま歩いていくと、現実世界の壁にぶつかってしまう。また、壁を表すUIを出してしまうと、没入感が損なわれてしまう。そこで、床に魔方陣を配置して、ユーザーを誘導するようにしている。

プレイヤーはこの魔方陣をたどっていくことで、どの方向に行けばいいのか理解することができる。ちなみに最初は光る板を置いていたそうだが、それではプレイヤーに気付かれにくかったという。これは、プレイヤーが見る視点は自由であるため、なかなか床に気が付かないためだ。

そこで、光が進行方向に波打つようなアニメーションを追加したほか、光の粒が上に立ち上るようにしている。

また、初期のバージョンではエレベーターが登場し、その中に入って振り返るとスイッチが押せるようになっていた。しかし、この振り返るという行為が難しいという問題が発生した。そこで、最初にエレベーターに入り振り返るという操作を追加することで、コンテンツの仕組みを学べるようにしている。

さらには、最悪の場合、インタラクションが行われなかった場合でも一定時間でコンテンツが進んでいくように対応している。

1年間運営してきた反応をみてサウンド面も大幅アップデート

『コリドール』のサウンドは、渋谷店をオープンするときにアップデートが行われている。2017年10月にお台場店がオープンした時点では、スケジュール的な理由から、サウンド面を煮詰めることができなかったという。

1年間お台場店を運営してきたなかで、ユーザーの反応から問題点を洗い出し、新店舗の渋谷店オープンに合わせて大幅なアップデートを実施している。

『コリドール』はUnityで開発されており、当初はサウンドもデフォルトのUnity Audioで実装されていたが、この大幅アップデートのタイミングでオーディオミドルウェアである「Wwise」と、3D Audioプラグインである「Auro-Headphones」を導入している。それに伴い、クオリティーアップや実装方法の見直し、狭かったダイナミックレンジの拡大やリバーブ設定の追い込みを行っている。特にVRコンテンツでは、リバーブの設定は空間の演出という面でも重要である。これらを行うことで、より現実に近づけて没入感を高めている。

また、イベント間は静かな部分が多く寂しい感じだったが、間を埋めるためやクライマックスの盛り上げのためにミュージックエフェクトや音楽を随所に追加している。

個々の音源のクオリティーアップの一例として、ここではコンテンツ内に登場するイナゴというクリーチャーのサウンドが紹介された。このイナゴは、普段は壁の模様のように並んでいるのだが、プレイヤーが明かりを近づけることで動き回るようになっている。 

これまではイナゴが飛んでいる音源を2種類程用意し、プログラムの方で制御している飛んでいるイナゴの数の変数に、それらの音源の音量を関連付けていた。しかし、それだけでは空間の表現が弱く、距離感も分かりにくかったため、空間の表現としては、まずイナゴの群れの音を用意し、リバーブを深めにかけて壁に配置して空間を感じさせ、さらにイナゴの群れが遠目で飛んでいる静かなバージョンと近くで飛び回っているうるさいバージョン、至近距離で耳元にかみついてくる3種類の音源を用意し、イナゴの飛んでいる数に応じて、遠くを飛んでいる音源から近くを飛んでいる音源にスムーズにクロスフェードするように調整し、さらに音源の音量も飛んでいる数に比例して上がるように実装している。
さらに、上記のものとは別に群れが飛んでいる音源を4種類用意して体験者の四隅に配置。音の方向が一定時間ごとにランダムに変化するようにしているそうだ。

イナゴが飛んでいる数に応じて、遠くで飛んでいる音源から近くで飛んでいる音源にクロスフェードするように調整。さらに飛んでいる数に応じて、音量も上がるようにしている。

これらとは別に、4種類ほど群れが飛んでいる音を追加して四隅に配置。それが一定時間ごとにランダムに変化するようにしているそうだ。

作って終わりではないVRアトラクション

MR体験施設の「ティフォニウム」は、コンセプトとして店舗に訪れたときから体験が始まるようにしている。そのため、受付から待合室、実際に体験するまでの意匠設計について、すべて同社が手がけている。

通常のクロマキーでは、緑や青が使われる場合が多い。しかし、そこも同社のこだわりで、世界観を壊さないようにテーマカラーの紫が採用されている。こちらは、様々なカラーサンプルを試し、一番いい結果が出たものが選ばれているそうだ。

こうした店舗の設計では、しっかりとした広さを準備することも重要だ。『コリドール』の場合、アトラクションとして歩き回るスペースは4メートル×8メートルだが、実際はそれよりも余裕を持たせておく必要がある。しかし、柱や防災関連設備などもあり、いろいろと難しい面があったという。

店舗の施工が終わった後、ほぼ社員総出で現場に赴き、トラッキング用のベースステーションや位置調整用のトラッカーを設置したり、クロマキーで抜く際に色むらが出来ないようにライトの位置を調整したりと、アトラクションの設置作業を行った。

VRアトラクションは、作って終わりというわけではない。店舗でしっかりと運営するための運用ツールが必要となってくる。これらはコンテンツごとに必要であるため、当然のことながらコンテンツごとに制作している。

当初は回転率などでも苦労していたそうだが、そうしたことも含めて、どうしても待ち時間が発生してしまう。ユーザーが待っている間も飽きさせないような工夫も必要となってくる。そこで、お台場店では世界観が体験出来る映像やプレイ時の注意事項が見られるようにしている。また、渋谷店ではカフェを併設している。

こちらは渋谷店の待合室。

XR施設では、ほぼ毎日トラブルが発生する。こうしたトラブルは、ソフトウェアよりもハードウェアが原因となることが多い。しかしながら、最初のうちはそうした切り分けが難しかったそうだ。また、個人でトラブルを解決しても情報が共有されないとあまり意味がない。

しかし、一度軌道に乗ると店舗のスタッフだけでもトラブルの対応は可能になるため、スタッフ教育は重要だという。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。