2019
01.21

【World MR News】VTuberを支える技術の「ボイスチェンジャー」に注目!「VRSionUp! #1 高校生VRを国際会議へ」をレポート

World MR News

GREE VR Studio Labは、1月13日に「VRを通したイノベーションの発掘」をテーマにしたVR研究系ワークショップ「VRSionUp! #1」を東京・六本木のグリー本社で開催した。

「第26回 国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC2018)」で、立教池袋高校 数理研究部の作品が、ユース部門金賞と協賛企業賞のGREE賞とメルカリ賞をW受賞したことから企画されたこのワークショップ。昨年12月12日の「VRSionUp! #0」に続き、2度目の開催となる。

今回テーマとしてピックアップされたのは、「ボイスチェンジャー」だ。一般的にはカラオケなどで声を変換する技術というイメージかもしれないが、ここ最近はVTuberを支える技術としても注目を集めている。

本イベントを主催者である、グリー株式会社 「GREE VR Studio Lab」ディレクターの白井暁彦氏。

ボイスチェンジャーも試せるデモ体験・公開実験のコーナーも登場

会場内では、デモ体験・公開実験のコーナーも用意されており、実際に訪れた参加者が体験できるようになっていた。その中から、急遽参加が決まったクリムゾンテクノロジー株式会社の波多江良徳氏によるデモ体験をピックアップしてご紹介する。

こちらは、立教池袋高校 数理研究部の作品『Avoid the Risks of CO』。多くの人が体験をしていた。

■クリムゾンテクノロジー『リアチェンvoice』

クリムゾンテクノロジー株式会社は、iPadでリアルタイムに自分の声を変換することができるボイスチェンジャーアプリ『リアチェンプレイ』のデモ体験を実施していた。

クリムゾンテクノロジー株式会社の波多江良徳氏。

一般的にボイスチェンジャーというと、単に自分の声を変えるというものといった印象だが、こちらはなるべきターゲットの声に変換することができるというのが特徴である。そこで使われているのが、「リアチェンvoice」という技術だ。

事前学習として、ターゲットとなるキャラクターとナレーターが同じ内容を発話した音声データを使用し、AI音声学習してデータベース(metamorphoneDB)に入れていく。そのデータベースとピッチシフターを利用し、ターゲットとなるキャラクターの声に似せていくことができるというものである。変換に掛かる時間も約70msと短く、ラグも許容範囲で自然に聞くことができる。

ちなみにiPad版のアプリはすでに配信済みだ。PC版は現在開発となっており、今春発売される予定である。

猫田あゆむプロデューサーによる「ボイスチェンジャーの現状と奥深さ」

会場内でも体験デモが行われていたが、VTuber猫田あゆむプロデューサーによる「ボイスチェンジャーの現状と奥深さ」のセッションも行われた。こちらでは猫田氏のプレゼンとしてご紹介していく。

猫田氏がボイスチェンジャーとして主に使用しているのは、ROLANDのボイス・トランスフォーマー『VT-4』である。ウィンドウズのデバイスドライバー設定がわかりにくいものの、オーディオインターフェイスとしても利用出来るため人気の機種となっている。

この『VT-4』を使用するうえで肝となってくるのが、ピッチ・エフェクトとフォルマント・エフェクトの調整だ。セットアップが終わった後で、最初にすることは自分が裏声を使うのか地声の高い方を使うのかという選択である。その方針に基づいて、ピッチとフルマンとの値を調整していく感じだ。

VTuber猫田あゆむプロデューサー。

そもそもこうしたボイスチェンジャー使う理由は、キャラクターの見た目と声を一致させて可愛くなりたいからだ。可愛いキャラクターの声がおじさんだと、「あれ?」と疑問に感じる人もいる。だが、それが可愛い声ならば気にならなくなるのだ。

『恋声』などのソフトウェアボイスチェンジャーもあるが、どうしても遅延などの問題がある。この遅延があることで、脳がバグってしまい会話がしにくくなってしまうのだ。しかし、『VT-4』などのハードウェアを使用することで、ほぼ遅延を感じることなく使うことができる。そのためこちらのハードウェアを選択している人が多いのだが、最大の問題は入手が困難となっているところだ。

人気のボイス・トランスフォーマーROLAND『VT-4』。

猫田あゆむ氏は、自分の声を作るために、『VT-4』を使用しているのだが、そのままではある声の帯域でケロケロ感が出てしまう。その部分を抑えるためにイコライザーを使用し、さらに削った音域を持ち上げて整えるためにエキサイターを使用しているとのこと。

たとえば声を高い音域から低い音域へと変化させていき、一番ケロケロしてしまう帯域をイコライザーで調整していくとい感じである。

ややわかりにくいが、ラック上でつまみがいっぱい並んでいるのがイコライザーの『DBX 131s』で、その下の白い方がエキサイターの『APHEX EXCITER』だ。

リリスAHリリーホワイト氏による「VR適応力認定テスト」

VTuberとしてアカデミックな発表を行っている、リリスAHリリーホワイト氏によるセッション「VR適応力認定テスト」も実施された。当日、リリス氏はリモートで参加する予定だったが、体調不良ということで代理に内容の紹介が行われた。

VTuberなどの登場で、アバタを身にまとうという文化が形成された。その一方で、アカデミックな分野ではアバタを身にまとうことでポジティブな心理的効果があることがわかっていた。しかし、VTuberが「新しい自分になりきる」という方向に対して、アカデミックな分野では自分の態度が人助けになるという方向を向いており、大きなギャップがある。

そこで、ポジティブな心理的効果がVTuberなどの現場(バーチャルの世界)で本当に得られるのかということを実証していく必要が出てきた。

アカデミック分野では、身体化感覚(Sence of Embiodiment)が重要だ。通常のVRコンテンツではコントローラーで操作するだけだが、VRChatなどでは全身化したアバタが存在する。そのアバタと同期することで、あたかも自分がなりきった感覚になる。そうしたことを指しているのが、この身体化感覚である。

そこで考えられたのが「VR適応力認定テスト」だ。準備運動として、鏡を見ながら腕を上げたり手を振ったりする。そして、「魂が入った」という状態になってから、3D空間の中で積木を積んでいくといったタスクを誰かと一緒に行う。

この誰かと一緒に行うというところが重要で、アバタの種類を変更することで何かが異なるのではないかという仮設の検証を行っている。例えばロボットのようなものと可愛いアバタとでは、反応が違うのではないかということを確かめているのだ。こちらについての結果は、今後発表される予定とのこと。

「Laval Virtual」では賞を取りたい――立教池袋高校 数理研究部の取り組み

VRフェスティバル「Laval Virtual」への投稿を目指して、現在準備中の立教池袋高校 数理研究部から、この1ヵ月の進捗状況などが報告された。立教池袋高校が取り組んでいるのは、『Avoid the Risks of CO』という作品だ。

こちらは、「一酸化炭素中毒」に注目し火災現場からの脱出をシミュレーションしているVRコンテンツだ。「TATAMI360」と呼ばれる歩行感覚提示デバイスを使用し、畳の上をセンサ付きのスリッパで歩くことで移動を検知。「VR酔い」の症状が一酸化炭素中毒の症状に近いことから、症状である吐き気などの身体的障害を再現しているのが特徴である。

同校では「Laval Virtual」に向けて、企画書の作成や英語の字幕を付けた動画の作成を行っている。この英語字幕に関しても、自ら付けているとのこと。これらを冬休みの短期間で作る必要があり、苦労したそうだ。

最終的に、2018年末までに「Laval Virtual 2019 ReVolution #students」への投稿を完了させている。

また、『Avoid the Risks of CO』の「CO」の部分は、一酸化炭素の意味から付けられていたが、それでは説明しにくいということで「Laval Virtual」では「Conflagration(火災)」の略語に変更している。

また、「TATAMI360」のサイズも現在の67センチメートルでは海外の人は窮屈に感じてしまう。そこで、予算が通れば磁気センサを16個追加した合計に32個にし、80センチメートルにする予定とのこと。さらに軽量化を図るために、素材をスチールからアルミにするという案も出ている。センサ部分もむき出しになっているところがあるため、プロテクターの強化も考えているそうだ。

「Laval Virtual」では、Professional dayとPublic dayがある。Professional dayでは、東大にインタビューなどを行いそこで学んだことを英訳して紹介する。Public dayは、体験の流れをわかりやすくしていく。

目標は「#student demo」部門で賞を取ることだ。また、メンバーの英語力向上や海外の作品を通し、IVRCとの違いも実際に体験していきたいと語っていた。

次回「VRSionUp! #2」の開催は、3月1日の予定だ。テーマは「VRChat」「ボイスチェンジャー」「クラウドファンディングでイノベーション支援」となっており、興味がある方はぜひ参加してみてほしい。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。