10.30
【ワタシの拡現(格言)】関電工 戦略技術開発本部 技術研究所 所長 酒井重嘉氏
10月17日に、茨城県牛久市にある人材育成センターで行われた関電工の社内イベント「技術・技能競技大会」。その忙しい合間を縫って、関電工 戦略技術開発本部 技術研究所 所長 酒井重嘉氏に話を聞いて参りました。
――VRやAIなど最新のIT技術について、それぞれどのように取り組まれていますか?
酒井:関電工は、建物や発電所に変電所、病院、工場など、広い範囲で世の中に係わる建物の電気設備工事を生業としています。元々工事業界と言うこともあり、古いやり方というか、必ず人が介在しています。
私が現場に出ていた頃は、手書きで図面を書いたり、電卓を使って材料を拾い、見積もりを作っていたりしました。ここ数年は現場も進歩してきて、場合によってはロボットを使うほか、タブレットを活用しています。そうした意味では、ここ数年でIT化がものすごく進んでいる状況です。
そうした中で、当社が電気工事といった視点でITに取り組んでいるかというと、まず一番大きいのは人が係わるところです。現場の業務の中で、一番忙しくなるのは後半の時期です。後回しになった作業で残業が増えてきてしまうのですが、そうしたところをITの技術を使って山を平らにできれば現場としては非常にありがたいことになります。そのため、後ろのほうの作業をIT化できないかという視点で、取り組んでいます。
照明が基準に達しているか、絶縁抵抗値が基準値以上になっているかなど、電気は必ず品質検査をする必要があります。そうしたものを、これまで人の手で行っていました。それをIT技術で自動化し、現場作業の山積みを滑らかにしようとしています。
佐々木:関電工さんの高所作業車を町中でよく見かけていて、恥ずかしながら電気産業の仕事の内容は、今年に入って詳細に把握し始めたところです。東京電力さんとMixed Realityに関する取り組みをやり始めてから、いろいろと見せてもらい自分なりに勉強して、ようやくこの世界がわかってきました。
おっしゃられていた取り組みにプラスして、絶対に言われるのが「安全」です。安全に力を入れるのは当たり前という世界に、衝撃を受けました。
弊社には建設業や製造業など、いろんなお客さまがいてそれぞれの業務を見せていただいているのですが、電力産業・・・・・・とくに御社のところでは、建設と設備というハイブリッドな業務をほかに比べてやっているイメージが強くあります。工程管理と施工管理に近いようなところと、設備の点検手順が合わさったようなところなのかなと思っています。
建設業界の中で叫ばれている、最近のIT化の話なども、そのまま適用できるところもありますし、もっと難しく取り組まなければいけないところもあるのかなと思いました。大きな意味での課題は、どこのお客様も人手不足やトレーニングなど共通化したキーワードがあります。
そうした中で、弊社ではMixed Realityに取り組んでおり、これから大きく打ち出していこうと思っていますがAIを絡めていこうと思っています。画像認識系の技術開発が得意分野でもあるため、グラスを掛けて現場に行くと自動で診断することもできます。
また、人がやることによって見落としてしまうようなことも、補助できる仕組みが盛り込んでいけるといいのかなと考えています。安全面に関しても、設備の稼働状態によって今は大丈夫だけど、ある瞬間は感電してしまうといような、状況に応じて危険かどうかサポートすることもできます。
酒井:建設工事も電気工事もそうですが、人が係わることがものすごく多いんです。人に頼っているというか。ということは、その逆を返すとこれまではデータという見方で工事を捉えていたため、IT化やAIが浸透してきませんでした。もしかしていろんなデータを取れば、人が介在しているためAIと繋がってきます。
実は建設業界や電気工事業界は、もっとAIが取り込まれる業界ではないかと思っています。そこを今どうしていこうかと、思っているところです。その一方で、センサーをいろんなところに取り付けようという動きも始まっています。
大きな話になりますが、VPP(バーチャルパワープラント)と呼ばれる「仮想発電所」を見立てて、太陽光を家庭の屋根に付けたり電気自動車のエネルギーを家庭用から供給するというものがあります。
電気が欲しいとかいらないなど発電所のほうでコントロールするということではなく、「今電気はいらないから止めてよ」「電気自動車に繋いでよ」といったコントロールを電力会社から送り、家庭の電気もコントロールしようという動きがあります。
家の中の動きを知るためには、大量にセンサーを取り付ける必要があるのですが、今はセンサーが安価になってきています。そうした意味でも、いろんなセンサーの情報をうまく取り込むことができれば、それをAIで活用するほかMRやVRなどにも活かしていけると思います。
佐々木:個人的に取り組みたいと思っているのが、人の行動解析です。これができると、点検の手順をマニュアル化や動きから危険を引き起こしてしまうのではないかと、推測できるようになるのではないかと考えています。
センサーを付けるのもアリだと思いますし、人の動きを画像から取得することができます。センサーが付けられないところもあるかもしれないので、画像の力をサポートとして使うというのも必要なのかなと思っています。
酒井:今日行われた講演で、芝浦工業大学 工学部 電子工学科 教授の加納慎一郎氏が、生体信号を使って様々な社会活動に繋げていこうという研究のお話をされていました。我々も今、共同研究をしています。
ウェアラブル端末で生体信号を取得し、熱中症の疑いがあるか検知するというものにも活かすことができます。もしかしたら熱中症だけではなく、いろんなものと組み合わせて行くことで、人に対して指令が出せるなど新しい見方ができるのかなと考えています。
そうした意味では、これからデータを沢山取っていき、解析していけば非常に面白い業界になるのではないかなと思います(笑)。
――IoTのいいところと悪いところあげるとしたら、どんなところがありますか?
酒井:パッと思いつくいいところは、いろんなデータが簡単に取れるところです。それを集約できるシステムが、比較的簡単にできるところがメリットですね。デメリットはなんですかね・・・・・・?
佐々木:デメリットというか、気を付けなければいけないというような話になりますが、発電機の膨大な情報を記録するのは、IoTという言葉が生まれる前から行われていたということを、昨日行ったセミナーで聞きました。その中で、施設の中がわかりテロの対象になるというリスクもあるため、データのセキュリティをものすごく気にされているということがわかりました。デメリットとしては、そうしたデータが漏洩してしまう可能性があるというところかもしれません。
酒井:100Vや200Vの電圧を扱う世界で生きてきたので、セキュリティや情報通信という話はまったくの素人で、よくわからない世界です。逆によくわからないため、セキュリティの怖さがあまり実感できません。そうしたこともあり、デメリットを感じていないのかもしれません(笑)。
佐々木:データが直接取得できないように、リモートデスクトップのようなものでしか接続して覗けないようにするといったところから、気にされている企業があります。データ管理をされているところが何社かありますが、だいたいそうしたものがセットになっています。
我々がよそのシステムを繋げようとなったときに、まず繋げにくい状態になっているというのが、開発会社から見るとデメリットになります(笑)。このように、接続のハードルが高くなっているということがありますね。
酒井:どこかでセキュリティはしっかりしておかないといけないことですが、あまり制約をしても業界が発展していかないので、そのあたりの見極めは難しいところですね。
――ITを導入してこんな未来になるといいといった予測はありますか?
酒井:私が考えているのは、ITもそうですし先ほどのAIもそうですが、経験してきた人が自分の動きを数値化して若い人にフィードバックを行い、AIを使ってわかりやすいように解析するなど、データは共通言語だと思っています。
共通言語が増えてくれば、若い人と年配の格差や海外の人とのコミュニケーションもデータが上手く取れて、それを共通言語にして設備設計をするということができれば、海外などいろんなところに出ていけるようになるのかなと感じています。
ITの未来という話でいうと、我々の仕事のエリアがもっともっと広がっていく可能性があるのではないかと思います。
佐々木:まったく同じで、人の行動を記録するところから始まり、分析して指南されるというところで、熟練じゃなくても誰でもできる仕組みを作るということを望まれることが多くなっています。私としてもそこを目指したいと思っています。
そのために、データの蓄積をAIでどのように分析するか。データの蓄積についても、センサーで取れるものと取れないものがあるので、そこを含めて取得する仕組みと分析する仕組みを作り上げていきたいと考えています。
ここは要素要素で取り組んでいけば、ある程度実績は出来ていきます。その先に、蓄積されたデータがナレッジとして、活用出来るものになると思います。早めに取り組んで蓄積すればするほど、その情報をマスクした状態で様々なお客様に販売できたり、全然違う業種に使えるデータになったりするかもしれません。
そうした、違った観点の事業的なメリットを作ることができるのではないかと思っています。そうしたことが、業務として当たり前の世の中にしていきたいです。
酒井:今、領域という言葉がなくなりつつあります。たとえば学校がいい例です。昔は工学部や文学部など、はっきり学ぶものが学部ごとに分かれていました。しかし今は、工学部の中にも人間科学部というように、工学だけではなく数学もやれば文学もやるといった感じで、非常に広い範囲で学部を作ろうとしています。
大学の先生が、「学際がなくなりつつある」と表現されていました。昔は工学を習っていれば工学者や工学博士というような、自分のステータスになりましたが、今はみんなごちゃ混ぜになっています。そのため、昔ほどステータスにならなくなっています。
そうした領域がない中で、「自分の立ち位置をどういう風に表現していくのかが重要になります」と同じ大学の先生がおっしゃられていました。我々の業界も、いろんなデータを取得して、いろんな領域で活用していけるようになると思います。
自動車業界や違った業界に展開できる可能性もあり、そうしたときに十把一絡げになるのではなく自分をどう表現していくか・・・・・・そのデータを使って、自分がオンリーワンになるために何をしていかなければいけないかが、重要になってくるのではないかと私は思っています。
佐々木:今日の競技大会で行われていた、ベテランの方たちの動きの情報がそのまま展開できると、またすごいことになりますし。
酒井:そうですね。あの動きは、自分が見ていても感動します。電気の配管を曲げるという作業ひとつ取ってみても、その人のノウハウが凝縮されています。我我が曲げようとしても、そんなに簡単に曲げられるようなものではありません。
そうした作業をデータ化して、しっかり評価することができれば、もっといろんなところに活かしていけると思います。そうした中で、我々の電気設備工事という芯がぶれないように、世の中に展開していきたいと思います。
佐々木:IT的な取り組みとしては、大きなロードマップとして直近でやってしまおうというところと壮大な夢に分かれている感じなのか、それともある程度繋がった綺麗なプランになっているのでしょうか? 今のイメージレベルでかまわないので、教えていただけますか?
酒井:非常に難しいですね(笑)。実は私、今の部署に来てこの7月で1年になります。そのため、まだまだ何年先のビジョンというのは描き切れていません。今なんとなくイメージはできつつあるのですが、なかなか10年先ははっきりした言葉としていうことができません。
ただ直近は、測定のIT化がまずは1番だと思います。その次のステップ、次のステップをもう少し具体化していくのと、その先にある5年後、10年後にどうなっていたいかというところを、この数ヵ月間で具体化していこうと思っているところです。
佐々木:ありがとうございます。
酒井重嘉氏の『ワタシの拡現(格言)』
データは共通言語。上手く活用すれば年齢格差や海外とのコミュニケーションにも活用できます。領域という言葉がなくなりつつあるなか、自分の立ち位置をどういう風に表現していくのかが重要になります。