2018
09.07

【World MR News】ユニークなアイデアが数多く生まれた「ゲームの問題をブロックチェーン技術で解決するアイデアソン」をレポート

World MR News

開催案内ページ:https://gwbc-ideathon2018.peatix.com/view

gumiとUnityは、「ゲームの問題をブロックチェーン技術で解決できるのか?」をテーマにしたハッカソンを、9月1日に開催した。主に仮想通貨に用いられていることが多い「ブロックチェーン技術」。それを応用したゲームも出てはきているものの、ゲーム内アイテムや通貨の置き換え以外の用途に関しては、まだまだ研究段階であるところが多い。

そこで今回のハッカソンでは、それらとは異なるアプローチで「ブロックチェーン技術」を使ってゲーム内の問題を解決する試みで開催されている。

この日は朝から6組のチームにわけてアイデアソンが行われ、17時より各チームのプレゼンテーションが実施された。審査員は、カレンシーポート株式会社 代表取締役 CEOの杉井靖典氏と株式会社gumi 代表取締役会長の國光宏尚氏、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 プロダクト・エヴァンジェリストの簗瀨洋平氏。

写真左から、今回の審査員を務めた簗瀨洋平氏と國光宏尚氏、杉井靖典氏。

■アズマゴローと愉快な仲間たち

トップバッターととして登場したチームは、アズマゴローと愉快な仲間で、テーマは「ブロックチェーンで現実のMMOをSAOに近づけるアイデア」。

MMOで生産職がやりたいと思っても、そこで出来上がってくるのはシステム側であらかじめ用意された武器というのが現実だ。そこで同チームでは、プレイヤーがオリジナルの武器を作成して直接売買を行うというアイデアを考えた。

これをデータベースでやろうとすると煩雑になる。そこでERC721と分散ストレージを使うことで、すっきりさせることができる。分散ストレージには3Dモデルや2D画像、スキル効果に制作者名などを乗せることができる。それを直接売買して支払手数料を運営が徴収するというモデルだ。

メリットとしては、運営が画像やモデルをアップデートする手間が減り、ゲーム参加者がバトル以外の裾野を広げることができる。また、モデリング技術者が脚光を浴びるようになる。例としては、有名な制作者などが作ったもの価値になるということも考えられる。そのほか、現実のものをスキャンして作った武器が人気になったり、ダンジョンやモンスターにも拡張できたりするというところだ。

■転生させたら毒消し草でした

元々ゲーム業界で働いていて、現在は弁護士をしているというユニークなメンバーが揃ったチーム・転生させたら毒消し草でした。彼らが考えた課題が、ゲームが終了してしまったらその中で蓄えた資産がなくなってしまうということだ。それをほかのゲームも持ち込めたらいいというところから、アイデアがスタートしている。

まずユーザー側の問題解決として、ゲーム間をまたいで使えるユニバーサルアイテムを導入する。また、運営側の問題解決としては、Aゲームで取得したユニバーサルアイテムをBゲームに持ち込むときに、Bゲーム側の運営者に収益が入るようにしている。

共通アイテムを作ろうとしたときに、ゲーム性の違いなどもあり規格化や共通化をするのは難しい。そこで、レアリティ(アイテムの出現確率)を図り共有化することを考えた。アイテムのID空間からゲーム内アイテムに対して、各ゲームがマッピングを行うようにする。

問題点としては早い者勝ちだったり、2重にIDを取り合ったりするということが起こりうることだ。そこで、「ガチャの女神」というもの用意するという仕組みを考えている。女神にお布施をすることで、アイテムIDがもらえるという感じだ。

アイテムIDドローエンジェルちゃんというものが、ブロックチェーン上で事前予測不可能な乱数を発生させ、ハッシュ値でアイテムIDが払い出され、その戦闘に0がいっぱい並んでいるものがレアアイテムIDとなるような仕組みとなっている。

ゲームAからゲームBに渡すときも、一度女神に渡すようにする。このときに関税が掛かり、最初に女神があずかっていたイーサより支払われる。

■DJ AMATA

ノー技術者の5人チームで結成されたDJ AMATAが考えたのは、「オンラインゲームサービス終了の悲しさをブロックチェーン技術でちょっとだけ軽減するアイデア」だ。

オンラインゲームのサービスが終わると寂しい。また、サービスが終了してしまうと見せられるものもなくなってしまう。そこで、アセットやユーザーデータを最初から分散ストレージ上に置いておくようにして、ゲームとは別にウェブで閲覧できる「ビューワー」を用意するようにする。

これより、ゲームが終了した後も運営側からすると開発した履歴になる。また、世に公開された状態で残すこともできるようになる。

CDN運用コストが低減できるほか、ユーザー側も、サービスが終了しても思い出の参照場所が残るというメリットが生まれる。また、公開アーカイブ化することで、二次創作使用促進にも繋げていくことができる。

ゲームのサービス終了はその世界の死を意味することが多いが、何かしらの形で世に残しておくことで誰かが再生してくれるタイムカプセルにならないかというのも、このアイデアのねらいのひとつである。

■チームアローン

今日結成したばかりというチームアローン。彼らが考えたのは、「ブロックチェーンで実現するオンラインゲームのインフルエンサー・レピュテーション!」だ。

利用者の理論として、ゲームのすごさを伝えるのが難しい。作り手の課題としては、若年層が減ってきている中、似たり寄ったりのゲームが増えてきている。そこでゲームを作ってもすぐに飽きられてしまうという問題がある。そこで考えたのが、コンテンツの質を上げることで、ユーザーが戻ってくるということだ。

コンテンツの質を上げるきっかけとして仮説を考えたのが、コミュニティがないとゲームが広まらないためインフルエンサーに広めてもらうということだ。企画段階からインフルエンサーにはいってもらい共同開発し、布教活動とコンテンツを提供していく。

そこでインフルエンサーは誰がいいのかというレピュテーションを共有する仕組みが必要となってくる。その解決策として、見える化する。高いレピュテーションを持つ人をインフルエンサー化して、共有アセット化するというアイデアを出している。

ソリューションとしては、ゲーム内でデータを蓄積していく。スマートコントラクトを使ってレピュテーション情報を入手し、一緒にゲームを作っていくという仕組みだ。

これより、ゲーム外での自分のすごさをアピールできるほか、ゲームを遊ぶ層を広げてアプローチができるようになる。また、ゲームを改善することで、特徴性を引き出せるほか、ゲームを継続的に行ってもらえるようになるのである。

■ラーメン

次は、お隣の韓国からこのために来日したチームのラーメンだ。実は本来7月28日開催されるはずだったこのハッカソンだが、そのときにも来日しラーメンを食べて帰ったことからこのチーム名が付けられたそうだ。

ゲームは、クリエイターがゲームワールドを作るところから始まるため、完全に分権化することができないという問題がある。様々なソリューションを利用しても、十分な性能を発揮することはできない。そこで、部分的に分権化が可能で偽変造ができないものが必要となってくる。

過去に『グランブルファンタジー』でユーザーが70万円をガチャに使っても欲しいキャラクターが出なかったということがあった。また、海外の例でいうと、とあるユーザーが『デスティニーチャイルド』で360万円もガチャに使用し、確率が異なったことを証明している。

そうした問題もあり、アップルなどではガチャの確率を表記しなければならないというルールが生まれている。

そこで彼らが考えたのが「B-ガチャ」(ガチャ on Blockchain)というアイデアだ。このソリューションでは、ERC721発行所で、そのアイテムがどれぐらいの確率で排出されているか確認することができるようになるのだ。

■Match BoX

最後に登壇したチームがMatch BoXだ。今やゲームはオンラインで遊ぶのが当たり前になってきた。しかし、そこで問題となるのがチーターや回線切断など、ユーザーのマナーだ。そこで、彼らがたどり付いた答えが「仏教」だった。

「業」と「徳」という概念をゲームに導入することで、不正ユーザーを減らすことができるのではないかと考えた。ゲームで対戦中に、誰と対戦しているか表示できるように、いいプレイヤーには「徳ボタン」を押せるようにしておく。また、マナーが悪いプレイヤーには「業ボタン」を押し、完全にチーターなどの場合は「告発ボタン」を押せるようにしておく。

これをブロックチェーンで実現するために、プライベートチェーン上でワールドステートとしてポイントを管理する。一定期間分析した結果を、徳トークンとして発行される。いろんなゲームを横断し、各ゲームで貯まった結果がひとつのトークンに貯まっていくという仕組みになっている。

これにより、プレイヤーにとってはゲーム間で自分が行ってきた「徳」が引き継げるようになる(徳が積める)。逆に良くない行動を取ると徳トークンがもらえないため、インセンティブが下がっていく(業を背負ってしまう)。そのため、今後のことを考えると、そうしたことはやらないほうがいいということになるのだ。

これにより良いユーザーを増やすことができ、チート対策のコストも減らすことができる。

また、ゲームにはサービス終了という問題がある。そのゲームの情報を引き継ぐことは現実的ではないが、「徳」という自分の振る舞いを引き継いでいくことができる。最後に同チームからは「諸行無常もゲームの醍醐味だが、前世の努力も無駄にならない」ということばでプレゼンテーションが締めくくられた。

最優秀賞はMatch BoX! 優秀賞はラーメンに決定!

懇親会などを間にはさみ、20時より審査結果の発表が行われた。まずは優秀賞として選ばれたのが、韓国のチーム・ラーメンだ。ここで審査員からの講評が発表された。

簗瀨洋平氏:受賞おめでとうございます。評価された点は、運営にしかわからないニッチな問題をきっちりと解決してくれたところと、非常に現実的で実装可能な内容であったところです。開発者の気持ちがよくわかったプロジェクトだなと思いました。難点をいうなら、アイデアソンはもっと言いたい放題なので、夢とかを語ってもらった方がよかったのかなと思いつつ、ぜひこの技術を世の中に広めてもらいたいなと思いました。

受賞者の言葉:個人的に、私たちラーメンチームのアイデアは面白くないと思っていました。優秀賞を頂いて、ありがたく思います。チームとしても、ゲーム業界が面白いと思っているので、機会があれば一緒に働きたいです。楽しみにしています。ありがとうございます。

そして今回のハッカソンの最優秀賞として選ばれたチームは、最後にプレゼンを行ったMatch BoXだ。こちらは審査員の杉井氏から講評が発表された。

杉井靖典氏:評価された点は、考え方や着眼点、面白さといったところなど非常にポテンシャルがあったところです。おそらく本人たちよりも、審査員のほうが「あれ、こういう風に使えるんじゃないか」とすごく盛り上がりました。質問の中に、どういったところが使うことを想定していますかというものがあり、ソニーの話がありましたが、それはこじんまりとしすぎだろうという評価はありました。なので、最優秀賞ですが、いろいろと課題はいっぱい出てきました。徳が売れるなどもありますが、それは別の評価軸としてありえるのかなと思います。これはぜひ、ソニーやアップルではなく、これを世界の中心のシステムにして、広めていくべきでしょう。着眼点として、世界中のゲームを持っている課題を解決しうるだと評価しました。おめでとうございます。

受賞者の言葉:今回大事にしたのは、コンセプトをしっかり固めていこうというところでした。業と徳という概念があったら、こういうこともできるああいうこともできるというアイデアが浮かんでくるというところに着眼点を置いたので、今回のアイデアソンの8割方はそこに時間を使っています。決まったのがこの1時間ぐらい前で、ここからどうアイデアを練っていくかという生まれたのが今回の発表でした。そういういみでは、攻めた感じでしたが(笑)。おかげさまで話題を提供できたのは良かったと思います。ありがとうございました。

最後に全体的な講評が國光しから語られた。

國光宏尚氏:今回本当にアイデアソンだったという感じで、いろんな面白いアイデアがいっぱい出て良かったと思います。自分たちでブロックチェーンのゲームを開発しはじめると、とにかくムズイことがわかります。モバイルゲームやVRゲームと比べても、そもそもスマートコントラクトがややこしすぎるし、技術的にもややこしい上にトークンのインセンティブ設計もややこしい。最終的には、法務的や財務的などとにかくややこしいことが多すぎる感じです。

今考えているアイデアを実装しようとすると、「スマートコントラクトというけどぜんぜんスマートじゃない」というのが見えてきます。とりあえず、このへんでやっていくという感じであったら、『クリプトキティーズ』のパクリを作るところからはじめるのが一番いいと思っています。それをやっていく中で、いろんなアイデアが見えてくると思います。

ただこの領域、一番最先端が『クリプトキティーズ』ぐらいです。まだまだチャンスは腐るほどあるので、一緒にいろいろと頑張っていけたらと思います。今日はみなさん、長い間お疲れ様でした。

 

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。