05.18
【World MR News】Unite Tokyo 2018]時間と空間をすべて超越できるところがMRの素晴らしいところ――マイクロソフトによるWindows Mixed Reality 最新アプリ開発情報
5月7日から5月9日までの期間、東京・千代田区の東京国際フォーラムで国内最大のUnityカンファレンスイベント「Unite Tokyo 2018」が開催された。その3日目にあたる5月9日に、日本マイクロソフト株式会社 テクニカルエバンジェリスト・高橋 忍氏によるセッション「Windows Mixed Reality 最新アプリ開発情報 ~HoloLens からVRまで~」が行われた。こちらでは、その模様をお届けする。
マイクロソフトというと、一般的にはオフィスやウィンドウズといったイメージを多くの人が持っていると思う。しかし、社長が平野拓也氏に交代してから違う会社になったという。
去年までやっていたことが全く評価されない。完全にウィンドウズから脱却し、クラウドプラットフォームが中心の会社になってきている。それと同時に力を入れているのが、Mixed Reality(MR)だ。
マイクロソフトは、キーボードとマウスとディスプレイがある現在のコンピューターの形が未来永劫続くとは考えていない。時代によって、コンピューティングの形は変わってくるのだ。
将来、ディスプレイではなくヘッドマウントディスプレイで仕事をするような時代が来たときに、何が必要なのか。たとえVRの環境であったとしても、やはり既存のビジネスアプリは動かす必要がある。そこで「ホロレンズ」には、オフィス製品やほかのアプリゲーションが動かせる環境が用意されている。
しかし、そこで問題となるのは入力が弱くなるというところだ。キーボードやマウスのように緻密な作業ができなくなってしまう。そこで必要となってくるのが、ジェスチャーなど新しいヒューマンインターフェイスを使ったコンピューティングの技術である。そこでホロレンズやKinectの技術を使い、ナチュラルユーザーインターフェイスの研究も行っている。
もちろん音声認識についても行っているが、これは一長一短ではできない。長い時間をかけて育てていくしかないのだ。GoogleやFacebookといった企業が力を入れているが、その理由はこの技術が必要になったときに日常会話でコンピューターとやりとりできないと、話にならないからだ。
音声認識ができるようになって、その次に欲しくなってくるのがAIのアシスタントである。マイクロソフトでも「Cortana (コルタナ)」など、様々なことに挑戦している。だが、ヒューマンインターフェイスのアシストは、AIだけではない。マシンラーニングといった、通常のAIを使った技術が絶対に必要になる。MRのデバイスだけではうまく対処できないところを、AIの力を使って補完するのだ。
マイクロソフトは、Azureのプラットフォーム上でAIのテクノロジーやディープラーニングのテクノロジーをどんどんやっているという。
このように、VRやMRが当たり前の世界が来たときに、必要になってくる技術をひと通りやっているのが、現在のマイクロソフトというわけだ。
3Dの民主化を目指すマイクロソフト
マイクロソフトは、より簡単に3Dを扱えるようにするために様々なことを行っている。たとえばウィンドウズに標準で収録されている「ペイント 3D」では3Dデータを簡単に呼び出すことが可能だ。
たとえばプレゼン用に「ホロレンズ」の絵が欲しくなったときも、これを活用することができる。Remix 3Dと呼ばれる3DコンテンツのSNSがあり、そこにマイクロソフト自身がホロレンズの3Dデータを公開している。
それをファイルで保存することができる。ちなみに3Dのファイルは知っている人は知っているが、一般的にはほとんど認知されていない。そしてこれまで標準のファイルとしては用意されていなかった。
しかし、現在は「ペイント 3D」で普通に3Dモデルのファイル(GLB、FBX、3MF)として保存できるようになっている。「Mixed Reality ビューアー」と呼ばれるアプリもウィンドウズの標準として用意されており、そちらで保存したファイルをダブルクリックするだけで開くことが可能だ。
もちろんMRに対応しているため、カメラを使ってリアルな世界と3Dを融合させて表示することも可能だ。さらに、この3Dデータは「パワーポイント」でも利用することができる。ほかの画像ファイルと同様に、「パワーポイント」のスライドにドラッグ&ドロップするだけで使うことができる。
よくスライドを作っているときに、右向きのものはあるが左向きの画像はないということがあるが、3Dデータのため自由に向きを変更してスライド内で使うことができる。また、最新の「パワーポイント」には「アニメーション」というメニューがあり、そこにあるエフェクトを選ぶだけで3Dのモデルに様々な動きが付けられるようになっている。
このように、3DファイルはOSの標準で扱えたりビューワーで見られたりするなど、すでに普通に扱える状態になっているのである。
AR~MRはすべて同じ技術である
ARやMRの一般的なイメージは、物理現実にコンピューターによる現実を拡張することで様々な情報を出すというものだ。そこにテクスチャーをどんどん増やしていき目に見えるものすべてがCGで覆われた状態が、仮想現実となる(VR)。
そこでマイクロソフトでは、AR~MRまではすべて同じ技術として扱っている。デジタル情報が多いか現実情報が多いかの違いだけだ。それをすべてカバーしているのがMRという定義にしているという。
しかし、残念ながら現在のテクノロジーではこれらをひとつのデバイスだけでカバーできない。そこでマイクロソフトでは、より現実が多い方のデバイスとして「ホロレンズ」を出しており、「Windows Mixed Reality Devices」を出している。
それらをうまく合わせてマージしたのが、「Microsoft Layout」というアプリだ。「ホロレンズ」でよくあるのが空間レイアウトだ。機械を配置してみて大きさなどを確かめるというようなことに使えるが、それをアプリにしたものである。
時間と空間をすべて超越できる。これがMRの素晴らしいところである。
「ホロレンズ」はOSアップデートで機能も強化できる
なにかと話題の「ホロレンズ」だが、なかなかこうしたデバイスのアップデートをすることはできない。しかし、内部に「ウィンドウズ10」が入っており、そちらは半年に1回程度アップデートが行われる。β版だが、久々に「ホロレンズ」のアップデートも含まれている。
「HoloLens Spring 2018 Update」というアップデートで、「ホロレンズ」でいろんなことができるようになる。たとえば、以前はアジャストモードにしてからでないとウインドウが動かせなかったが、今はタスクバーで動かせるようになっている。
また両手が使えるようになっており、ツーハンドジェスチャーでウインドウの拡大なども行うことが可能だ。また、センシングも早くなっているという。
このように「ホロレンズ」は、OSがアップデートすることにより機能もアップデートさせることができるのである。
PCに挿すだけで使えるVRデバイス「Windows Mixed Reality Devices」
もうひとつ「Immersive headsets」と呼ばれる製品として、マイクロソフトは「Windows Mixed Reality Devices」を出している。こちらは同社では直販はしておらず、OEMという形で販売されている。日本では5社から発売されているが、マイクロソフトが行っているのはこのためのプラットフォーム作りだ。
「Windows Mixed Reality Devices」はいわゆるVRデバイスのため、OSは入っていない。それを、標準機能として使えるようにするめに、ウィンドウズ10に「Mixed Reality Portal」というアプリが用意されている。そのため、特別なソフトやドライバーなどのインストールは不要で、買ってきたデバイスをPCに挿すだけで「Mixed Reality Portal」が起動することができる。
こちらもウインドウの操作などが行えるが、実は先にこのVR版のほうの機能があり、それを「ホロレンズ」でも使えるようにしたのだ。2Dのアプリであれば、空間内で並べて使うこともできる。
ほかのVRヘッドマウントディスプレイとの違いだが、大きく異なるのはセンシングだ。カメラの映像認識とセンサーを使って外部センサーを使わずポジショントラッキングができる。
ミニマムスペックはGPUがHD620だが、これは第7世代のCore i7やCore i5のチップセットだけで動かすことができる。重たい処理をする場合は、高価なGPUが必要だが、とりあえずはこれでも十分だろう。
性能的には他社を含めてほぼ横並びのスペックだが、米国でサムスンが発売している「Samsung ODYSSEY」はスペックが高めになっているとのこと。性能的には「HTC VIVE Pro」と同等のため、よく比較されるそうだ。
アプリはMicrosoft Storeから入手ができるが、「Photoshop」など従来までのデスクトップアプリは動かすことはできない。
ウィンドウズ10ならばすぐに開発環境が作れる
ウィンドウズなどを含めて、MRの環境を作るのに特別な手順は不要だ。Unityも標準インストールの範囲内でできる。ウィンドウズ10にも、デバイスポータルが勝手に入っている。そのため、ウィンドウズ10ならば、すぐに開発環境を作ることが可能である。
「ホロレンズ」で空間認識をしてそのデータを床や壁として使う場合や、複数の「ホロレンズ」を使って空間共有するときに置くアンカー機能などを利用することで、上手く作ることができる。
それ以外の空間にオブジェクトを置いて操作するようなときは、通常のUnityでアプリケーションを作るときとほとんど同じである。
しかし、1点だけ「ホロレンズ」で注意しなければならないのが、視野角の狭さだ。バンダイナムコスタジオによるナンジャタウンのアトラクション製作では、あまりいろんな方向を向かないようにコントロールすることで、視野角の狭さを補っているが、そうした工夫が必要となるのだ。
マイクロソフトではUIを考えるときに、実際に紙で作ったオブジェクトを置いてトライ&エラーを繰り返しているという。
最後に高橋氏からは、「1日でも早くこうした技術をためして、それをどんどんアウトプットを続けている人にこそ、より良い情報が集まってきて、いい人と出会うことができる。そうすることで、よりクォリティの高い情報が自分のところに集まってくるようになることは間違いない。なので、ぜひ今すぐ始めてください」というメッセージが語られ、本セッションは締めくくられた。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。