07.28
【ワタシの拡現(格言)】東京工科大学 メディア学部教授三上浩司氏
「実学」を最重要視する。MR/AR/VR等の実用化・ビジネス化の鍵は、この様な姿勢を持つ大学・企業間の
コラボにあると考えています。「社会の第一線で通じる自分だけのチカラを身につけること」を実学と定義している東京工科大学、ここでマルチメディアに関する実学を追求している三上教授に話を聞いて参りました。
――大学でのゲーム教育、人材育成に従事されていらっしゃる現在に至るまでの経緯や経歴について教えて
頂けますか?
三上:最初、社会人になってからは総合商社に勤めていました。新しいビジネスを作ったり、海外の
ライセンスを買ってきて国内で事業化したりするということが主な仕事でした。例えば同じ部署内だと、
映画の買い付けをやっている方もいました。当時1995年くらいですが、VRMLという言語が注目を集めていて、インターネット上でチャットをしたり、アバターを通じた体験みたいなものなど、 “サイバーコミュニケーション”というところで動きがあったりした時代です。そこで、オンラインゲームやオンライン対戦サービスの事業化をしていく中で、ゲームやVRみたいなものに少し触れる機会がありました。仕事をしていくうちに、自分で生み出す立場になりたい、もっとプロダクトに近いところで仕事をしたいという想いが大きくなっていったのが始まりでした。
でもまだ若かったですし、やろうとしたことがすぐにそんなにうまくいくわけじゃなくて…。そんな時、のちに私の大学での人生のおける師匠にあたる人、金子満先生が会社を経営していて、そこでお手伝いさせて頂けることになったのが大きな転機でした。 Wikiで調べると、「日本のコンピュータグラフィックスの父」と称されるという表記が出てきます。コンピュータグラフィックスの黎明期から活躍されている方で、アニメーションにいち早くコンピュータグラフィックスを取り入れたり、3DCGを手描きと組み合わせて映画の中で 再現したり、ハリウッドにプロダクションを設立してアカデミー特別業績賞を受賞したりとか…、もう凄いんですけど、60歳近くなってから大学院で博士課程まで出て、博士号も取り、現場もアカデミックな方も、両方知ってこの大学のメディア学部の設立に尽力され着任しました。そのときに、「大学の中で、本当に日本でコンテンツの研究をしようと思ったら、ちゃんと“モノ”をつくれるような体制やプロデュース力がないと」、ということで、学生もプロと一緒になってつくれるような、プロダクション機能のようなものをつくりたいということで、「一緒にやろう」ということになり、東京工科大学で仕事を始めました。
1998年にここへ来た当時は、アニメやゲームやCGは、あまり学問的には認められないというか…、
一般的にはまだ「遊び」みたいなイメージがありました。2003年頃から、文化的資産である、国際競争力のあるものということで認識され、国も力を入れはじめました。そこで、2004年にゲームに関する教育を4年制大学できっちりとカリキュラム化しようという流れになりました。当初は学内でも異論は多くありましたが、我々の提案が文部科学省の現代GPで採択され、実際に始めてみると、多くの学生が集まり、研究成果や成績も良く定着して行きました。大学でゲーム教育が始まって13年です。未だに日本の中には「ゲーム学部」はないのですが、「ゲーム学科」は2、3出始めたところですね。
そんなわけで、私は産業の方から大学に来たので、「学問どっぷり!」でもないし、両方の良い部分を取りながら新しいものに取り組めるという良い状況に恵まれたと思いっています。
佐々木:三上さんとは「シリアスゲームジャム」でお会いしのが初めの出会いでしたね。「ゲームはエンタメだけではない、ゲームを通じて何かを学ぶ」という取り組みをされているところに私も大変共感しました。
三上:はい。「シリアスゲームジャム」も、もともとベースになる「グローバルゲームジャム」という
取り組みがあって、これはギネスに載るような世界的に有名な集まりなのですが、そういうイベントが海外ではインディーズ文化としてありました。2008年ごろから始まったのですが、関係者によると最初の頃は日本の大手のゲーム会社さんに声をかけても、自社の開発環境をもって外に出るのはなかなか難しいことでしたが、大学の場合は逆にオープンな形で開催することができました。次の年から急速に広まって、最初は16人しかいなかったのが、2回目で80人までになりました。そしてその中にUnityの大前さんもいらっしゃって、そのときにUnity持ち込んで、今までUnity見たことがない人が多い中で、物凄いスピードで物凄いゲームをどんどん造っていったんですよ!機能制限版であればフリーで手に入る、みんなで同じく使える、そういったツールとして、すごくゲームエンジンの力は大きかったですね。
佐々木:私も会社立ち上げの頃は、実はゲーム事業についてはあまり考えていませんでした。でもスマホアプリなどをつくる際にUnityを知って、真っ先にセミナーをやろうかなと思いました。その時に「Unityといえば大前さんという人がいる」と、いう話を聞いて、2011年頃でしたね、Facebookで大前さんに連絡したら会ってくれて、どんどん会社としてもUnityを使うようになってきました。
――大学でのゲームカリキュラムはどんな内容なのでしょうか。
三上:大学のカリキュラムの中では、ゲームエンジンに重きを置いて教えていません。最初の1年はコンピューターを使わずに、カードゲームやボードゲームなど、自分たちの身体を使ってゲームを考えるようにさせています。その後、プランナーもデザイナーもサウンドアーティストも、全員3Dのプログラムで必ず何か作らせる、ということをしています。
そしてゲームショー用には、「道具は何を使ってもかまわない」ということにして、学生たちが、「自分の企画に、どの技術がフィットしているのか」ということを考え、自分達で選んでつくっていくような形にしています。
VRにおいても同じ感覚にしていますね。いろいろなやり方があるなかで、学生たちが自分たちで選んで進めて行くということを教えています。最初の代の学生が、それをうまく学んでくれました。先輩たちがそうやって進んできたことを、その後の後輩たちも受け継いで、自分で調べて動くようになってくれた。
このやり方を徹底することで、新しい技術にチャレンジする・対応できる人材に成長していってくれるようになりました。
佐々木:専門学校との交流の機会などもあるのですか?
三上:本学は東京ゲームショーに出展をしているのですが、そこでは専門学校と共同出展という形で出ています。大学と専門学校では、カリキュラムの違いもあるし、目指すべき人材像も違います。専門学校では即戦力として活躍できるプログラマー、デザイナーなどの育成、大学はディレクションやプロデュースする力、また基盤的な 技術をやるというように別れています。
でも社会に出て、何かをつくる時、一つのチームの中にいなければならない存在だと我々は考えているので、KIGGJという共同演習という形でチームとしてアウトプットをするように取り組んでいます。
KIGGJでは、「1ヶ月以内にチームでお題に沿ったゲームをつくる。自分の作業時間記録して、48時間以内に収まるように開発する こと」というようなルールでこれを3セット(3か月)行います。これによる効果がいくつかあります。まずは、これまで受けてきた教育や、持っているスキル経験が全然違う人間ともコミュニケーション取りながら共同して仕事をやれるかということ。そして、締め切りに対するシビアさを知ること、それに関連して、自分の作業時間をちゃんと覚える。ということです。自分が一個のステージをつくるために、何時間かかるのか答えられる学生は、最初はいません。でも自分で時間をつけていくことによって、だんだん自分の中でスケジュールの考え方が正確になってくる。学生とプロの世界の違いは、スピードや予測。それを結構シビアに理解できるようになっていくのです。
――ゲーム事業に携わる中で、何かムーブメント的なものを感じられたことなどはありますか?
三上:2013年のGDCでoculusが展示されたときとき、300ドルちょっとでキットが買えて、Unityをつかっていろいろできるという状況が目の前に広がりました。VRのムーブメントは それまで何度もありましたが、つくるためのコストやライセンシングに関してもハードルが高かった。だから、これが出たことによって、ゲームエンジンとヘッドマウントディスプレイの組みあわせというのが物凄くコモディティ化されました。過去の流れと比べて明らかに違う点が、「誰でも作れる」というようになっているのがすごいことだと思っていて、こういった環境が手に入るようになったというのはとても良い事だと思います。
佐々木:また最近は広告代理店等が「HoloLens」などのデバイスについての言葉を言い始めてきているので、広がりの可能性を感じますよね。私も技術的にデバイスで新しいものが出たら、なるべく買うようにしています。
三上:はい。なので、こういったゲームショー用の取組に、「HoloLens」やそのほかのデバイスなども提供して頂ければ、ただ既存のものをやるだけではなくて、学生たちが自分たちでコンテンツをつくってみるだとか、そういった取組ができるようになりますよね。また、学生の場合は社会人と違ってかけられる時間の量がありますから、何かを検証するだとか、調べるにあたっては、そういった 企業との取組も一緒にやっていけると思います。
――VR/MR/VRのブレイクスルーのタイミングは?
三上:一番気になるのは、特に若い世代の可処分所得で手に入るようになるかどうかですね。私達の時代(三上は団塊ジュニア世代)は、いろんなものを体験する機会って多かったと思うんですよ。現状は、ゲーム好きな学生でも、PlayStationにしても、oculusにしても、欲しいけどでも高くて手が出ないっていう話もあります。何らかの形で、「自分で機材を手軽に手に入れることができる」というのが大事かなと思います。
彼らの世代が遊び方を生み出して、気付いたら広まって生活の一部になっている。という状況になるのがいいですね。例えばスマホなんかは良い例です。今どんどんYouTubeやネットで彼らなりにたくさんコンテンツつくったり観たり、遊べているわけですよね。もしあと3、4年もしたら、今oculusレベルを動かせるスペックをスマホで持ててもおかしくない時代が来るかもしれません。MRやARのデバイスとして使える時代がきたら、変わると思いますね!
三上 浩司の『ワタシの拡現(格言)』
「発想大局、着手小局」。現在のVR/AR/MR開発のハードルがどんどん下がってきています。大きな未来を夢ながら、身近なところからすぐ挑戦できる環境がある今、失敗を恐れずに挑戦しましょう。多様な未来を生み出す土壌は今ここにあると確信しています。
三上 浩司
1995年慶應義塾大学環境情報学部卒業。日商岩井株式会社勤務。
1997年株式会社エムケイ勤務。
1998年東京工科大学嘱託研究員(クリエイティブ・ラボプロデューサ)。
2001年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2005年東京工科大学片柳研究所助手。
2007年東京工科大学講師。
2008年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了、博士(政策・メディア)。
2012年東京工科大学准教授。2016年東京工科大学教授